疫病神。
それは疫病(えきびょう)を流行させ人びとを苦しめる悪い神のことで、昔から日本人に忌み嫌われてきた。
まだ科学なんてぜい沢なものがなくて、病気の原因となるウイルスなんて誰も知らなかった時代、感染症などの病気は怨霊や物の怪など、目には見えない恐ろしいモノによってもたらされると信じられていた。恐れられていた。
こうした考え方に平安時代のころ、中国から伝わった疫鬼(えきき:疫病によって人間を苦しめる妖怪や鬼神)の影響が加わり、病気は疫病神(病魔)によって引き起こされるという民間信仰がうまれたという。
この発想からすれば、いまのコロナウイルスの感染拡大も疫病神のしわざだ。
こういう背景から、「あいつが来るとイヤなことが起こる」と嫌われる人間も疫病神と呼ばれるようになる。
ただ令和のいまでは、人間に対して『疫病神』ということばを使う機会は減っている気がする。
意味を拡大すれば、残念な結果をもたらすということで『雨男(女)』もその中に入るかもしれない。
アニメや漫画の世界なら、こいつが登場すると不幸なことが起こる、そのあと人が死ぬといった不吉なキャラクターは『歩く死亡フラグ』と言われることがある。
たとえばコナン君だ。
名探偵という設定上、周囲で殺人事件が起こらないと話が始まらないから仕方ないのだけど、コナン君は『歩く死亡フラグ』の代表的なキャラになっている。
コナン君が来ると誰かが死ぬから、もう疫病神と呼んでいいと思う。
日本の物語では擬人化されて、人の目で見える疫病神がいる。
この武士が斬ろうとしている疫病神は、50歳ほどの坊主というキャラ設定。
有名どころでは京都の祇園祭りで有名な「牛頭天王」がいる。
天刑星(てんけいせい)が疫病神である牛頭天王をつかんで食っている絵(辟邪絵)
下は疫鬼(疫病神)を食らう『神虫』。
化け物みたいな姿をしているけど神虫は、人間に不幸をもたらす悪鬼を食べて駆除してくれる善神だ。
こんなお札を入り口に貼れば、疫病神は家の中に入ってこられないといわれる。
「毎月3日に小豆のかゆをつくる家には入らない」という話もある。
疫病神とは『歩く死亡フラグ』。
病気などの不幸をもたらすこの厄介者は外から入ってくるから、京都や地方の村の境界線でこの魔物の侵入を防ぐための祭りが行われた。
その神事を道饗祭(みちあえのまつり)という。
この行事をやる神社はいまでも全国にあるし、もうすぐその時期だから行って疫病退散を祈ってもいい。
フラグが立たないように。
おまけ
この青山祭とは道饗祭のこと。
> 感染症などの病気は怨霊や物の怪など、目には見えない恐ろしいモノによってもたらされると信じられていた。恐れられていた。
この考え方、「怨霊や物の怪」の類に細菌やウィルスも含まれるとすれば、「目には見えない恐ろしいモノによってもたらされる」なんだから、現代科学においても正しい考え方じゃないですかね。日本人は、昔から「禊」のために手を洗って「穢れ」を落としていた訳ですが、その行為は、現代医学・衛生学の立場からもさほど的外れじゃない。