【“胡”の歴史】胡椒・胡坐・胡瓜・胡散臭い…の由来って?

 

いまマクドナルドでこれが販売中だ。

 

 

フィレオフィッシュにタルタルソース、それに福島県産の米でつくったバンズに黒胡椒で味付けしたという、すさまじい和洋折衷の一品。
そのお味は各自の舌で確認してもらうとして、ここで注目したいのは胡椒(こしょう)の「胡」。
この漢字が付くことばは日本人の身近にたくさんある。

胡麻(ごま)、胡座(あぐら)、胡瓜(きゅうり)、胡桃(くるみ)といったところは有名で、ほかにも胡散(うさん)や胡乱(うろん)もある。
「胡散臭いやつ」といえばアヤシイ人間のことで、胡乱もそれと似ていて「正体の怪しく疑わしい」という意味だ。
だから「胡乱な者」はそのまま「胡散臭いやつ」と考えていい。

胡弓(こきゅう)とは江戸時代のころに登場した楽器のこと。(右)

 

 

胡椒(こしょう)、胡麻(ごま)、胡座(あぐら)、胡瓜(きゅうり)、胡桃(くるみ)、胡散(うさん)、胡乱(うろん)に胡弓(こきゅう)。

これらに共通する「胡」とはもともと「あごひげが長い人」の意味で、古代の中国人が北方や西方にいた異民族をバカにして呼んだ蔑称だった。
「胡」の範囲は時代によって違っていて、たとえば約2000年前の秦・漢時代のころは主に匈奴(きょうど)を指していた。

 

紀元前2世紀の匈奴

 

時代は流れて唐のころになり、シルクロードを通って西方世界との交流が盛んになると、「胡(西胡)」は主として中国のはるか西、インドの北方にいたペルシャ系民族の「ソグド人」を指すようになる。

 

紀元前300年ごろにソグド人がいたところ

 

ラクダに乗って演奏する胡人(ソグド人)の像(唐の時代)

うん。
確かにこの人たちはあごひげが長い。

 

同じく唐代の像

 

おそらく隋・唐王朝のころだと思うけど、西方のソグド人が胡椒を中国にもたらした。
「椒」は香辛料(スパイス)という意味だから、胡椒で「西方の香辛料」といった感じだ。
日本には8世紀に胡椒の記録が残っていて、そのころは薬として使われていたらしい。

こんな具合に、ソグド人がシルクロードを通って中国に伝えた文物には「胡」という文字が付けられた。

彼らがトルキスタンから唐土に運んだ文物、風俗は「胡風趣味」として愛好され、胡服、胡笛、胡舞などが中国で一文化として根付いていった。

 

「西方のウリ」の胡瓜(きゅうり)の場合は、漢の時代に張賽(ちょうけん)が西域のペルシャから種を持ち帰ったのが中国での始まりと言われる。
だから、ソグド人が「胡」の付く言葉すべてをもたらしたというワケでもない。

 

日本史でいうなら、戦国時代に南方からやってきたポルトガル人やオランダ人などを「南蛮人」、彼らが持っていたお菓子を「南蛮菓子」、トウガラシを「南蛮辛子」、絵を「南蛮画」と呼んだのと同じような感覚だ。

 

正体のわからないアヤシイ人間を指す「胡乱(うろん)」ということばは、古代中国人が「胡」と呼んだ遊牧騎馬民族の匈奴に襲われて、人びとがあわてて逃げ回ったことから生まれたと言われる。
そして「胡散(ウサン)」の由来には、胡乱からうまれたという説がある。

楽器の胡弓(こきゅう)については東南アジアやヨーロッパの楽器が起源といわれているから、中国との関係はなさそう。
「胡蝶しのぶ」は完全な日本人キャラだけど、「胡蝶」と「蝶」の違いはよくわからん。
それと意外なことに「胡坐(胡座)」(あぐら)は、「漢字文化資料館」によると日本人がつくったことばのようだ。

漢籍の出典が示されていないので、その限りでは、「胡坐」という熟語は、日本起源の可能性が高そうです。

「胡座」と書いて、どうして「あぐら」と読むのですか?

ただやっぱり「胡」は異民族の意味になっている。

 

胡椒、胡麻、胡座、胡瓜、胡桃、胡散、胡乱などなど、胡の付くことばは異民族が中国に伝えたもので、いまの日本人が生活で目にする「胡~」の中には、はるか昔、ソグド人がシルクロードを通って中国に伝えたモノもある。
胡椒は間違いなくそうだ。

『ごはんフィッシュ 和風黒胡椒』には悠久の歴史とロマンがつまっていた。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。