日本人と台湾人のかけ橋となっているのが漢字。
共通の文字を使っているから、それぞれのことばや英語がわからなくても「民主主義」「扇動」「抽象的」と文字を書いて見せれば相手に通じる。
筆談ができるから意思の疎通はしやすい。がそれが同時に誤解のモトにもなる。
同じ漢字でも意味の違うものがあるから、日本人が「老婆」や「愛人」という漢字を見ても、その意味が「妻」や「夫(夫)」とわかるワケがない。
これとは別に、同じ意味でも漢字が違うケースもある。
たとえば「裡」と「裏」では見た目は違うけれど、意味はどちらも同じく「ウラ」になる。
裡という漢字は「衣へんに里」、裏は「衣」が上下に分離して「里」を挟んでいるから、よく見たら構成する要素は同じだ。
日本語でも「せいこうり」で変換すると「成功裡」と「成功裏」の2つが出てくるから、どちらも同じ漢字であることがわかる。
でも、台湾語にあるか知らんけど、もし裏道が裡道だったら、ボクなら「タヌキの道」と誤解する自信がある。
さて話は日本の大事な隣人だ。
日台と書いて「とも」と読んでもいい台湾について。
いま台湾に関する日本人の書き込みでこんなパワーワードがある。
「自殺でいただきました。😋」
「自殺でカット🔪甘酸っぱくて美味😋」
「自殺派の我が家は、」
どー考えてもこの「自殺」は、自ら命を絶つ悲しい行為のことではない。
ネタバレすると、これはパイナップルの切り方のこと。
パイナップルの最大のお得意先だった中国から、突然輸入停止を告げられて、台湾が大ピンチにおちいった。
台湾の痛みは自分の痛み。
それを知った日本人が立ち上がり、「買って応援」キャンペーンをおこなって、それが共感の輪を広げていった結果、蔡総統がこんな感謝のメッセージを伝えた。
ネットでこだまする台湾支持の声。
・酢豚に入れるわ
・冷凍パイナップルは美味しそうだなあ
なんかいい食い方ないかね
・今年はパイン祭りだな
・さっそく通販申し込んだよ
・カットパインあったら買うわ
まぁボクとしても「書いて応援」ですね。
台湾ではパイナップルを買って自分で切ることを「自殺」、店の人に切ってもらうことを「他殺」と表現することがある。
たとえばパイナップルを「自殺」で買えば28元(約108円)、「他殺」なら30元(約115円)と切ってもらうほうが少し値段が高くなる。
だから、「自殺でいただきました。😋」ならパイナップルを丸ごと買ったということで、「カットパインあったら」なら他殺されたパイナップルになる。
最近、台湾人男性2人と中国人女性1人といたときに、この意味での「自殺・他殺」についてきいてみると、中国人は「なんですかそれ?」と首をかしげる。
「殺」のこういう使い方は台湾オリジナル。
中国語にはない表現だから、この中国人も日本人と同じように不思議の世界に迷い込んだ。
中国人のこの反応は分かるとして、意外にも1人の台湾人はすぐに「ああ、それね」とわかったけど、もう1人は「意味不明」という顔をする。
果物をカットすることを「自殺・他殺」と表現するようになったのは2~30年ぐらい前のことで、それも台湾全土で使われることばではないから、彼はいままで見たことなかったと言う。
中国人は少し考えて意味がわかった一方、この台湾人はなかなか迷宮から出られない。
それで中国人女性は、「わたしのほうが頭が良いですから!あなたはバカですね」とさらっと鬼畜なことを言う。
若い台湾・中国人の間では、このぐらいの軽口は親しみの表れで問題ないらしい。
中国でも魚をさばくときに「杀鱼」(殺魚)ということばを使うから、「自殺」を見て、自分で切るという意味だとピンときたらしい。
*「殺魚」というと、個人的には「人や動物を殺す魚」という恐ろしいイメージがする。
ちなみに台湾で「下殺」という漢字には、「値段を下げる」の意味があるという。
日本人の漢字脳だと、「下殺」でディスカウントの意味は出てこないだろう。
日本語の「スピードを殺す」という表現は台湾や中国にもあるんだろうか。
漢字の世界には本当にいろんな「殺」がある。
おもしろいと思ったのは、「杀鱼の表現は日本語からきたのではないか?」と中国人が言ったこと。
中国で魚の調理法は一匹丸ごと使うか、まな板の上で「ダンっ」とぶつ切りにするかのどちらかで、「魚を2枚、3枚におろす」といった細かい処理はなかった。
だから当然、それを意味することばもない。
でも刺身や寿司などの日本食の影響から、魚を「さばく」「おろす」の中国語として「杀鱼」ということばができたのではないか?とその中国人は推測する。
それが正しいかどうかはわからないけど、可能性はありそうだ。
ちなみに中国語で刺身を「生鱼片」と書く。
これだと生魚を一片一片に解体するようで、あまり良い感じがしないから、最近では中国でも「刺身」の日本語を使うことが増えているらしい。
いつものことながら、中国人や台湾人と漢字の話をするといろいろな発見がある。
これが台湾の「他殺」
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日本だとおはぎを作る時の「はん殺し」と窓枠の「はめ殺し」が思いつくかな。
わたしもそう思いました。
おはぎの「はん殺し」はまた別の記事で書こうと思います。