【中国の監視社会】「日本人よりルールを守る」の恐ろしい理由

ことし１月、中国人を助手席に乗せて、静岡県内を車で走っていたときのこと。

信号が赤になったから停車すると、向かい側から走ってきた車がスピードを上げて交差点に進入して、そのまま後ろへ通り過ぎていく。

それを見た助手席の中国人が、「日本人はルールを守りませんね。ダメですよ～」と笑って言う。
こらこら。
一部の例外を持ち出して、それを一般化して言うんじゃない。
ルールや法を守らない人間はどこの国にもいるし、日本についていえば、むしろ規則やきまりを守り過ぎて、融通が利かないと外国人から文句を言われるぐらいの”民度”なんだから。

しかも中国人がそれを言う？
10年以上前に中国旅行をしていたとき、信号を無視して突っ込んでくる自動車に何度かひかれそうになった。
クラクションを鳴らして歩行者を散らすドライバーなんて、日本で見たことがない。
でも彼は「それは昔の話ですよ。いまの中国人はちゃんと信号を守ります。あんなふうに猛スピードで突っ込んでくるのは相当のアホですね」と笑って否定する。

そういえば中国では前からマナーの向上に力を入れていて、こんなポスターを街のあちこちで見かけたから、こんな啓発活動が実を結んで、いまでは日本人をも上回る”民度”を身につけたのだろうか。

もちろんそんなワケはない。
この”民度”にはそれを支える理由があった。

中国の信号機には監視カメラがあるから、信号無視するドライバーはすぐに鮮明に撮影されて、あとから罰金を請求される。
こういう意味での中国の技術力と”信頼性”はとても高いから、ごまかしや言い逃れは一切できない。
だから日本人と比べても、ドライバーはちゃんと信号を守るという。

まぁそんなオチだと思いました。
10年間で人間の価値観や考え方が激変して、市民のマナーが昇竜拳のように爆上がりするはずない。

「社会の幸福の極大化を見込むには、犯罪者や貧困者層の幸福を底上げすることが肝要である」という有名なことばを残したイギリスの哲学者ベンサムは、効率的で画期的な構造の刑務所を考案した。

それが「すべてを見る」を意味するパノプティコン（パンオプティコン）という全展望監視システムだ。

それはこんな円形の監獄で、中央にある監視塔からはすべての独房や囚人を監視することができる。
だから、一望監視システムとも訳される。

パノプティコンで囚人たちは互いの様子が見えないから、コミュニケーションを図ったり”連携”して何かをするのはむずしい。
さらに監視する側が窓にブラインドをかければ、囚人は監視されているかどうかも分からなくなる。
すると「自分は常に監視されているかもしれない」という思いから、囚人たちは自発的に服従するようになる。
管理する側にとっては素直な羊も同然だから、とっても都合がいい。

中国では監視カメラが”充実した”おかげで、国民の交通マナーは劇的に改善したという。
逆にいえば性善説に頼っていてはダメで、厳罰で臨まないと中国は変えられない。

中国社会では、政府や当局という“中央監視塔”が国民を見張っているような状態だから、日本人からみると”異様”のひと言らしい。

中国に住んでいた毎日新聞の記者・赤間清広氏が、プレジデントオンラインの記事で中国の徹底的な監視社会っぷりについて書いている。（2021/03/28）

｢罰金はわずか数百円｣それでも中国人が信号を守るようになった怖い理由

これを読むと、プライバシーなんて”ぜいたく品”は国民に与えられていない。

中国にはいろんな都市に『交通違反者暴露台』というものがいくつもある。
それは100インチほどの巨大ディスプレイで、そこには信号無視した瞬間の写真や、そのドライバーの顔写真と名前、さらに身分証番号の一部まで表示されているという。
モザイクなしで、自分の違法行為と個人情報が街中で公開されているのだ。

監視カメラがとらえた映像を個人のプライバシーとセットで、繁華街にいる大勢の市民が共有しているから、いつ家族や友人がそれを見てもおかしくない状態。

さらし者にされる恐怖と、いつどこで監視カメラに証拠をおさえられるか分からない不安などから、中国人はとてもよくマナーを守っているという。
そりゃ、日本人が負けるはずだわ。
日本の基準なら、政府が違法行為のコンボをしているのだから。

でも知人の中国人は、「要はルールを守ればいいんです」とこの監視システムに賛成だ。

「こうまでしないと、きまりを守らない中国人はたくさんいますし、そのせいで死ぬ人もいますから。プライバシーの問題はありますけど、全体的にはメリットのほうが大きいです」

彼の考え方が常識的なのか、それともすっかり従順な羊になってしまったのか。