文大統領の「国際海洋裁判所に提訴!」に対して余裕の日本

 

いつどんな時でも「正しく恐れる」という態度は大事だ。
そしていけないのは科学と事実と無視して、感情的に反応すること。

日本政府は福島原発で増え続ける汚染水を、国際基準を満たす処理水に変えて海に放出することをきめた。
とはいえこの水は放射性物質のトリチウムを含んでいるのだ。不安になるのは当たり前。
でこの水は正確にどのぐらい危険なのか?

国の放出基準は1リットルあたり6万ベクレルで、この水は人が毎日2ℓ、70年間飲んでも人体には問題はない、と言ってもいいほどのもの。
具体的には、日本で生活している人が1年間に浴びる放射線による被曝量(1ミリシーベルト以下)と同じか、それ以下のレベルでしかない。もちろんこれは国際的に許容される範囲内。
しかも今回、日本が放出する処理水はこれを40分の1、WHO(世界保健機関)の飲料水基準の7分の1に薄めたものだ。

処理水を毎日2ℓ飲むという非現実的な前提でも、人体に対して問題と言えるものは具体的にはない。
それを40倍に薄めた水を海に流すことは、国際原子力機関やアメリカも認めている。
問題はこれを悪意をもって“汚染水”と呼んだりして、福島の魚などへの風評被害をあおることだ。

 

でもそのへんの事実が通じず、隣国のトップがこんなことを言い出す。

朝鮮日報の記事(2021/04/15)

文大統領「日本の原発汚染水放出、国際海洋裁判所提訴を検討せよ」

文大統領は青瓦台(韓国大統領府)で行われた会議で、「日本の原発汚染水の海洋放出決定と関連して、国際海洋法裁判所に暫定措置と共に提訴する案を前向きに検討せよ」と指示したという。
韓日関係について「国民感情に直結する原発汚染水放出問題まで出て、いっそう難しくなった」と韓国の与党関係者は語るが、政治家もメディアも国民に科学を伝えない。

毎日2ℓ、70年間飲み続けても“大丈夫”という水を40倍に希釈して、太平洋側に流したとして韓国には具体的にどんな被害が出るのか?
そのへんはスルーして文大統領はこれと同じ日、こんな発言をしたと朝鮮日報の記事にある。

「韓日両国は最も近い隣人であり、友人であり、北東アジアと世界平和繁栄のため共に協力していかなければならない非常に重要なパートナーだ」
「協力の精神と意志があれば、どんな困難な問題も乗り越えていくことができるだろう」

日本にはこう言って、内では「日本の原発汚染水放出、国際海洋裁判所提訴を検討せよ」と強調する。

この発言を受けて、全国紙のハンギョレ新聞は社説で日本にこう迫った。(2021-04-15)

韓日関係の難しさにも関わらず、国民の健康と環境に深刻な影響を及ぼす問題には断固として対応するという意志を明確に示したのだ。

「海洋法裁判所への提訴」の警告、日本は重く受け止めよ

 

科学を無視した警告にどんな意味があるのか。
風評被害を乗り越えないといけない日本にとっては、文大統領がひとつの困難になっている。

で韓国側のこの強硬発言を日本はどう受け止めたか?

 

自民党の佐藤正久外交部会長は文大統領の「国際海洋法裁判所への提訴検討」について、自身のツイッターにこう書いた。

「虚勢そのもの。国際海洋法裁判所に提訴すれば赤っ恥! 韓国原発のトリチウム放出量が日本よりも大きいことが明るみになり、笑いものになるだけ」

韓国は実は日本より多くの“原発汚染水”を流しているのだから、国際海洋法裁判所に提訴すれば、それが国民や世界に明らかにされてしまう。
だからこれは無理筋。
合意違反の慰安婦・元徴用工問題などを踏まえて、佐藤氏は「新たな『だめだこりゃ』」とも指摘。
日本政府や与党全体が、いまの韓国に対してきっとこう思っているはずだ。

 

国際原子力機関が日本の海洋放出を支持しているのだから、文大統領の「訴えてやる(かも)!」はブラフ(ハッタリ、こけおどし)とみて間違いない。
というのは国内と違って世界を相手にするのなら、韓国が受ける被害を科学的に照明しないといけないのだから。

これが不可能に近いことは韓国紙の中央日報も認めている。(2021.04.15)

法的手続き上は可能な選択肢だが、被害の立証責任は韓国にあり、結果を楽観するのは難しいという指摘だ。

文大統領が指示した「汚染水放出」提訴…法律的には可能だが勝訴楽観は難しく

 

提訴はできる。
でも実際に文大統領がその選択をすることはない。
「被害の立証責任は韓国にあり」という天空のようなハードルを超えないといけないし、国際社会を舞台に、やれば負ける裁判をするとは思えない。
日本政府からしたら「笑いものになるだけ」の未来しか見えないだろう。
裁判の過程で、“汚染水”が実際どれほど安全な水か韓国や世界に示すことができるから、文政権にはむしろ「どうぞどうぞ」のはず。
国民からしたら、もうダチョウ俱楽部と変わらない。

でも「虚勢」と言われても、韓国政府にとっては、この姿勢を国民にアピールすることはいますごく大事だ。
日本よりも、国内から上がるこういう批判に対応しないといけないのだから。

中央日報日本語版の記事(2021.04.15)

非科学的な怪談で恐怖心を必要以上にあおってはならず、政治的意図で反日感情を扇動してもいけない。政府は今からでも緻密な戦略下に実効性のある対応策を作らなくてはならない。

福島汚染水放出決定、韓国政府はそれまで何をしていたのか

 

前半の一文には無数のツッコミどころがあるのだけど、ここではそれは無視しよう。
国民の怒りや不満を日本にそらさないといけないから、文大統領は「国際海洋裁判所提訴を検討せよ」という姿勢を見せただけ。
佐藤氏の「虚勢そのもの」にはきっとこの意味も含まれている。

 

 

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1 個のコメント

  • この記事に書かれていること以外にも、「実は去年10月、韓国政府自らが編成したタスクフォースによる検討の結果、『福島原発のトリチウム水は海洋放流しても問題ない』という報告書を発行していた」ことが、韓国内で一般にも知られてニュースになっているようですよ。
    ま、どうやらこの話もこの報告書の件でオシマイみたいですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。