タイ人から見た日本仏教・ウルトラマンと弥勒菩薩の関係

 

今回の話はタイに関係しているから、まずはこの国の基本をおさえておこう。

面積:51万4,000平方キロメートル(日本の約1.4倍)
人口:6,891万人(2017年)
首都:バンコク
民族:大多数がタイ族。その他 華人,マレー族等
言語:タイ語
宗教:仏教 94%,イスラム教 5%

以上の数字は外務省ホームページのタイ王国(Kingdom of Thailand)基礎データから。
タイ国民のほとんどは仏教徒だけど、カンボジアと違って仏教が国教になっていないから「仏教国」というワケではない。

 

 

そんな国からやって来て、いまは日本の大学で学んでいる学生2人を浜松市にあるお寺へ連れて行った。
ちなみにそのタイ人AとBは仏教徒。

2人にタイの寺との違いをきくと、「むしろ同じところがわかりません」と笑われた。
タイ人Aは床一面の畳がタイのお寺ではありえないし、これだと何か日本の「古い家」という感じがする。タイの仏教寺院は金ぴかの飾りが多くて派手な外見をしているから、一般人の住居とまったく違うと言う。

タイ人Bは「このお寺だけじゃないですけど、日本のお寺ではお坊さんを見かけません」とのこと。
タイではお坊さんに会って悩みを聞いてもらったり、ありがたい言葉(お経か?)をいただくことが大事なのに、日本のお寺にはお坊さんがいないからそれができない。これではお寺に行く意味がないと言う。

なるほどなるほど。
たしかにタイのお寺ではよくあるこんな光景は、日本ではなかなかお目にかかれない。
それに日本のお坊さんなら、一般人と同じ高さで話をするだろう。

 

 

彼らと話をしていると、2019年にタイで起きたある騒動の話題がでてきた。

体はウルトラマンで顔は仏という、「ウルトラマン仏陀」の絵をタイの学生が描いて公開したところ、「仏教を侮辱している!」といろんな方面から批判が飛んできて、結局その学生は学校の校長と一緒にお寺に行き、高僧に対して土下座のように深々と頭を下げて謝罪した。
くわしいことはこの記事を。

タイ人と仏教:「ウルトラマン仏陀」は表現の自由か?

 

「でもあの時はタイでも賛否が分かれました。仏教に対する悪意や蔑視はないから、あの絵を認めるべきと言うお坊さんもいたんです。ボクから見たら騒ぎすぎですね。あの程度の表現の自由さえ認められないのは、タイ社会の悪いところですよ」とため息をつく。
タイ人Bも同じ見方で、「でも、日本ならきっと問題にはなりませんよね?」とこっちに話をふる。

彼らは日本に来てからこの国ではお坊さんが結婚できるし、酒を飲んで肉を食べることも認められていると知って驚がくした。
「ウルトラマン仏陀」の絵ならいいけど、それはありえないし仏教僧として失格だと2人とも言う。
タイ人Aは、お坊さんが川でバーベキューをしてビールを飲んでいたという話を聞いて、「いやいや冗談でしょ」と思ったら事実と知って絶句。

その是非は置いといて、とにかく宗教に寛容な(またはゆるい)日本なら、仏様を少しぐらいイジッても大事にはならないだろうと彼らはみる。

まぁそうだろう。
バーベキューの話は知らんけど、クリスマスにサンタクロースの格好をして、子供たちにお菓子を配ってそれをSNSにアップした仏教僧なら知ってる。
そんな大らかな日本なら、「ウルトラマン仏陀」でぶっ叩かれるとは思えない。

悪者から人間を救う正義のヒーローと、苦しみから衆生を救済する仏や菩薩を重ねるアイデアは間違っていない。
それに日本では若者や世間の「仏教離れ」を何とかしようと、お坊さんがロックグループを形成したり、東京や京都のバーで働いている(ボランティアかも)ぐらいだから、「ウルトラマン仏陀」で多くの人、特に子どもが仏教に興味を持つきっかけになったら仏教界も歓迎するのでは。
*坊主バーには、一般の人たちが気軽に僧侶と話ができるようにしたいという思いがあるらしい。

日本仏教の自由度はかなり高いから、異教の聖職者と歌って踊る動画を公開してもOKだ。
タイでこれをやったら社会問題になりそう。

 

 

このとき行ったお寺には弥勒菩薩の像があったから(トップ画像)、彼らに弥勒菩薩がウルトラマンのモデルになったという話をした。

ウルトラマンの原案はもっとゴツイ姿をしていけど、敵怪獣との区別がつきにくいというツッコミがあり、さらにこの作品はアメリカで売り込むことを考えていたから、外国人受けする無表情のものがいいという声も出てきた。
それでデザイナーの成田 亨(なりた とおる)が、京都・広隆寺にある弥勒菩薩像のようなアルカイックスマイルを参考にしてあの独特の表情をデザインする。

といってもこれはいろいろなヒントのひとつだから、弥勒菩薩=ウルトラマンというわけではない。

タイでもウルトラマンは有名だから、もちろん2人とも知っていた。が仏教とのそんな接点は初耳で、「そうなんですか!」とビックリした顔をする。

 

広隆寺の弥勒菩薩像

 

2人にきくと、タイの仏教では菩薩はいないと言う。
「でも、中国系の人たちは観音菩薩を信仰していて寺に像があるから、弥勒菩薩の像もあるかもしれない」とタイ人B。
でも2人とも弥勒菩薩を見た覚えはない。

その話を聞いて思い出したのが中国仏教の布袋
中国では布袋が弥勒菩薩の化身という説があって、その写真を見せると「あっ!このニコニコ笑っていて、お腹の突き出た仏像ならタイで見たことあります」と言う。

 

アルカイックスマイルではなくて破顔一笑。

 

「でも日本の弥勒菩薩と全然違いますね。それにこれだと、ウルトラマンのモデルにはならないでしょう」というタイ人Aの意見にボクもタイ人Bも完全同意。

彼らと話をしていて、同じアジア圏にあるだけに、日本とタイでは直接・間接的にいろんな共通点やつながりがあると実感した。

 

 

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4 件のコメント

  • > タイ国民のほとんどは仏教徒だけど、カンボジアと違って仏教が国教になっていないから「仏教国」というワケではない。

    いやいや、そんな変な理屈はないでしょう!
    たとえば、欧米(東欧・ロシアを含めて)はほとんどの国が「キリスト教国」だと思いますが、でも、それらの国々でキリスト教を「国教」として位置付けている国はありませんよ。
    タイは、中国や台湾に比べたら、完全に「仏教国」だと思いますよ。

  • ははは、思う/思わないは各人の自由です。その通り。
    しかしながら「仏教国」「キリスト教国」「イスラム教国」の定義は、世界で通用する学問と常識のバックグラウンドがあって決まるものです。また、日本政府や教科書の見解が必ずしも「正しい」というわけではない。

  • >世界で通用する学問と常識のバックグラウンド
    「仏教国」「キリスト教国」「イスラム教国」の定義について、これは具体的に何でしょうか?

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。