タイ人と仏教:「ウルトラマン仏陀」は表現の自由か?

 

きょうの話はタイランド。
仏陀を描いたらぶっ叩かれた。
そんな不幸な事例から、タイ人の信仰や価値観、表現の自由をみていこうと思う。

でもまずは、この国を簡単に把握しておこう。

面積:51万4,000平方キロメートル(日本の約1.4倍)
人口:6,891万人(2017年)
首都:バンコク
民族:大多数がタイ族。その他 華人,マレー族等
言語:タイ語
宗教:仏教 94%,イスラム教 5%
略史:タイ王国の基礎は13世紀のスコータイ王朝より築かれ,その後アユタヤ王朝(14~18世紀),トンブリー王朝(1767~1782)を経て,現在のチャックリー王朝(1782~)に至る。1932年立憲革命。

タイ王国(Kingdom of Thailand)基礎データ

タイが仏教を本格的に導入したのはスコータイ王朝の時代で、それから現在にいたるまで、仏教は社会でとてつもなく大きな影響力をもっている。

そんなタイのナコンラチャシマ県(どこだよ)の学生がブッダをウルトラマン風に描いた絵を公開したところ、これがみごとに大炎上。
抗議が殺到して展示は中止された。

日本ならこれより、背景のルイヴィトンのデザインが問題視されそう。

 

 

この絵に仏教僧をはじめ保守的な政治家なんかが激怒したものの、若者たちは表現の自由を訴えて展示会中止に反発した。

朝日新聞の記事(2019年9月12日)を読むと、この学生の動機はとても純粋だ。

火消しを図りたい知事や大学幹部は学生を連れて高僧のもとを訪ね、謝罪。地元紙バンコク・ポストによると、学生は「悪者から人類を守るウルトラマンをブッダに重ねた絵です」「悪意はありません」と涙ながらにわびたという。

学生作の「ウルトラマンブッダ」に抗議殺到 罰当たり?

 

その後、この絵はネットオークションに出され、60万バーツ(約210万円)で落札されたという。
屋台の焼きそば(パッタイ)なら100円ぐらいで食べられるタイで、この値段はすさまじい。

日本の反応を見ると、表現の自由を支持する声が圧倒的だ。

・仮面ライダーブッタも頼むわ!!
・日本にはゴッドガンダムとかあるぞ
・表現の自由より尊重しなきゃいけないものがある
それくらいわかれ
・面白いので日本でも展示してほしい
・仏教に帰依したウルトラマンとか言っておきゃ良くね?
・ちょっと欲しくなったw
・日本からこういう発想は出てこないのが面白いな
・奈良のあの鹿のツノが生えた仏像キャラはどうなるんだ?
・聖お兄さんがバレないようにしないと

つまりしょせんは他人事。

 

 

時間とルールに厳しい日本人とは反対で、タイ人はいろんな面で超ルーズ。
そんなタイ人の国民性は、「マイペンライ」ということばで表現される。
これは「気にするな、大丈夫」といった意味で、「飲酒運転や信号無視も、タイ人はマイペンライで済ませてしまう」と嘆くタイ人もいた。

上の写真はバスの運転手で、観光客を博物館まで運んだあと、ユルユルに羽をのばしていた。
タイ人にこの写真を見せても、問題視する人はだれもいない。
事故なく客を運べばそれでOK。
裸足でハンモックでくつろごうが、イヤホンしてゲームをしようがマイ・ペンライ。

この国民性は国名に由来するかもしれない。
くわしいことはこの記事をどうぞ。

タイ人の国民性”マイペンライ”・イラつく日本人・国名の意味。

 

そんなゆるいタイでも、絶対にマイペンライでは済まされないことがある。
国民から広く深く尊敬されている仏陀(仏教)と国王に関しては、「大丈夫!」は通じない。
この両者は深く結びついていて、国王はタイ仏教を保護していて、仏教は国王の正当性を認めている。

 リタイの出家、及びタンマラーチャーの思想は、王権を高める上で非常に有利であったためアユタヤ王朝、ラーンナータイ王朝などの周辺諸王国に伝播していった。

タイの仏教

神や仏といった宗教的権威によって、王権が確立されるというのは世界史の常識。

 

タイの古都アユタヤのある有名な仏像(の頭部)。
この仏像を見下ろすのは失礼だから、写真を撮るときは必ずしゃがむことになっている。

 

「ウルトラマン仏陀」はこのタブーに触れたから、許されなかった。
「悪者から人類を守るウルトラマンをブッダに重ねた絵です」と涙を流してもタイでは通じない。
日本だったらこの絵は表現の自由の範囲内におさまると思うけど、天皇陛下とウルトラマンを重ねたら「マイペンライ」では済まない。

 

タイ社会でのウルトラマンについては、参考までにこれをどうぞ。

仏像泥棒に殺害されたコチャン少年が、ウルトラの母の導きでインド神話に登場する白猿ハヌマーンとして復活し、ウルトラ6兄弟(ゾフィーからウルトラマンタロウまでの6人)とともにタイに出現した怪獣軍団と戦う。

ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団

 

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8 件のコメント

  • 日本でも後ろの壁紙はさすがにでしょうね。 ウルトラマンブッダはOKでしょうけど。
    同じ仏教国なんですけどね~。 日本の宗教観はホントに独特なんだなぁと思います。
    そしてタイではこの絵は表現の不自由展に出展ってことになるんですね(>_<)
    で、kokonさんはどの人ですか?(*^^*)

  • 背景にヴィトンを持ってきたら、公開即撤去ですね。
    外国人から話を聞いていると、日本人の信仰は変わっているとよく思います。
    「表現の不自由展」のことは一言ふれようと思いましたがやめました。笑。
    私は静岡県浜松市の出身ですよ。

  • 日本人だって、日蓮やブッダを茶化したら多分多くの人からは非難されますよ。おそらく年代のせいもあるのだろうけど、伝統的な宗教的価値観を侮辱するような行動を取れば、当然、自国の保守的な人々からは反発を喰らう。宗教的価値観を侮辱されたと感じる側は、侮辱したとみなされる側が想像もできないほど、悪感情を抱くものです。
    なお、表現の不自由展で問題となったのは主に他国との関係に基づく国民感情ですから、この件とはちょっと分野的に違うと思います。

  • たしかに日本でも怒られるかもしれません。
    そのへんは実際にやってみないと分かりませんから、それまでは個人の感覚での話になります。
    「悪者を懲らしめるため」という理由なら、大丈夫ではないかと個人的に思います。

  • >「悪者を懲らしめるため」という理由なら、大丈夫ではないか

    うーん、それは疑問ですねぇ。
    そのような考え方は、相手によっては、侮辱であると受止められて反感を抱かれても仕方がないと思いますよ。
    そもそもブッダは、「悪者を懲らしめる偉大な覚者である」とはみなされていないでしょう。仏教においては、そのような仕事は別の者が担っているはず。
    おそらく、上記の「ウルトラマン」の件で怒った人は、ブッダをTVヒーローにあてはめるという、その「軽薄な」扱いが耐え難かったのだと思う。

  • 結果は、実際にやってみないと分かりません。
    それまでは、それぞれの人が自身の価値観にもとづいて解釈するだけです。
    その見方はすべて正しいのですけど、すべての人にとって正しいわけではありません。

  • そもそも ウルトラマンって、弥勒菩薩がモチーフになったと言われているのでは。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。