【日本人の発想】人工衛星・新幹線の名称にみる“科学+伝統”

 

「わが日本の科学力は世界一ィィィィーーーーッ!」

というわけでもないんだが、日本の持つ科学技術を結集してつくられた小惑星探査機が、2003年に打ち上げられて2005年に小惑星 「イトカワ」に到達。
そしてその表面を観測したあと2010年6月13日に、60億kmの孤独で壮大な宇宙旅行を終えて日本へ戻ってきた。
月以外の天体に着陸し、そこで採取した試料を持ち帰るサンプルリターンに、人類で初めて成功したこの超優秀な小惑星探査機を「はやぶさ」という。
日本にとって画期的なミッションを果たした6月13日は、いま「はやぶさの日」という記念日になっている。

 

はやぶさの着陸想像図

画像はJGarry

 

はやぶさと聞くと「早いブサイク?」と思ってしまうが、この場合は「第20号科学衛星MUSES-C」の愛称だ。
宇宙航空研究開発機構 JAXA(ジャクサ)が打ち上げる人工衛星には、それぞれの特徴を表すこんな日本語の愛称がつけられている。

「おおすみ、こだま、つばめ、さくら、かけはし、たいよう、ひまわり、ひのとり、あけぼの、あすか、きらり、きずな、のぞみ、でんぱ、てんま…」

これを見るとひらがな表記で、外来語ではなく日本に昔からある大和言葉が多い。
とはいえ人工衛星の愛称が必ずしも伝統的なことばとは限らず、「はやぶさ」もはじめは「ATOM(アトム)」が有力だった。
でもアトムは原子爆弾を連想させるということでボツ。

その決定の仕方については、 JAXA(ジャクサ)のHPにこんな説明がされている。

打ち上げ予定日の1週間前頃、そのミッションに関わった人々の投票数を基本に、さまざまな条件を考慮して「衛星愛称決定委員会」が最終的に日本語の名前を決めていました。

人工衛星の愛称はどのようにして決められるのでしょうか?

 

日本が世界に誇る英知の結晶には人工衛星のほかに新幹線がある。
その名称は、

ひかり、こだま、みずほ、さくら、とき、はやぶさ、やまびこ、つばめ、つるぎ、かがやき…

とすべてひらがな表記の大和言葉になっている。

2階建て新幹線の愛称は「Max」(Multi Amenity eXpress)で、2階建ての新幹線ときは「Maxとき」とよばれるけどこれは例外。

人工衛星の愛称と合わせて考えると、そのときの日本が持つ最先端の科学技術でつくられたものには、伝統的な名前がつけられるという傾向がある。
これが日本人の自然な発想なんだろう。

1992年に、それまで「ひかり」と「こだま」しかなかった東海道新幹線に「のぞみ」が誕生した。
でも有識者を集めて新しい列車名をきめるときには、「きぼう(希望)」で決まりかけていて、この名前はまったく対象外だった。
でもその席でエッセイストの阿川佐和子さんが、「『ひかり』と『こだま』は大和言葉なので、それに合わせるなら『きぼう』は『のぞみ』になりますね」と言ったことで急展開。

「乗りものニュース」の記事で鉄道ライターの恵 知仁氏がこう書く。(2014.09.24)

彼女が「大和言葉」という観点からその発言をした裏には父、弘之の姿がありました。この選考に出席する際、彼女が父に相談したところ、「日本国鉄の列車の名前は歴代すべて大和言葉でつけられてきた」とアドバイスされていたのです。

新幹線は「世界四バカ」 根強かった不要論

 

阿川 弘之(大正9年 – 平成27年)は元日本海軍の軍人で、戦後は小説家や評論家として活躍して文化勲章を受章した文化人。
太平洋戦争の末期、日本海軍のなかで、ぼう大な費用と労働力を消費したわりには役に立たない「世界の三バカ」として、エジプトのピラミッド、中国の万里の長城、それと戦艦「大和」が挙げられた。
阿川弘之氏がこれになぞらえて、新幹線も「世界四バカ」になるのではないかと言って話題になる。

そんな社会的に大きな影響力を持つ人のことばは重かったようで、当初の「希望」は消えて「のぞみ」にきめられた。
やっぱり新幹線には、日本人に親しみのある大和言葉がよくにあうからこれは正解だ。
ただ静岡県民としては、県内に停まってほしいという望みも消えて残念しごく。

人工衛星や新幹線など世界をリードするような日本の最先端の科学技術の結晶を、日本の伝統的なことばで表現するという日本人の発想はとてもすばらしい。

 

 

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1 個のコメント

  • 昨年末に人工衛星「はやぶさ2」が持ち帰った小惑星「りゅうぐう」の構成物質サンプルが、日本国内の各研究機関へ引き渡されて、本格的な分析が始まったようです(本日2021/6/19のニュース)。どうやら、当初の予想を超えて、岩石の中に水分や有機物が大量に含まれているらしいとのこと。
    これは、惑星形成や生命の起源についての学説を塗り替える大発見になるかもしれません。ノーベル賞クラスの発見かも?
    でも、だとしたら受賞者は誰になるのかな?、JAXA?、はやぶさ2?、また微量とは言え世界初の小惑星サンプルリターンを果たしたはやぶさ1は?
    日本名を名付けられた先進技術には、今後も活躍してほしいですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。