鬼門を恐れる在日ベトナム人/日本との共通文化・魔除けの桃

 

知人のベトナム人が今年はじめ、静岡から東京へ引っ越すことになって、新しいアパートについて話を聞いたら、彼の部屋は建物の東北の向きにあるという。
それで思わず、日本で東北は「鬼門」といわれる方角で不幸をもたらす鬼が入ってくるところだと、縁起の悪いことを言ってしまった。
鬼門についてはこの記事を。

鬼門の意味って何だ?不吉な方角が「東北」である理由とは?

「いや~ボクはベトナム人ですから、日本の迷信は気にしません」と笑顔で言うかと思ったら、「えっ、マジですか!ボク、どうしたらいいですか」と日本の理系の大学を卒業したわりにはわりと真剣に怖がり出す。
程度の差はあるけど、幽霊や迷信を信じるベトナム人はけっこう多いのだ。
そんな彼には魔除けとして、きょねんブレークした江戸時代から伝わる「アマビエ」を紹介しといた。
でこの前そのベトナム人に連絡したら、「部屋の鬼門の方角には、アマビエとさるぼぼを置いてますよー」とこんな写真を送ってきた。

 

これはすべて魔除けのグッズかも。
このおかげかいまのところ不幸はゼロ、彼は楽しく生活を過ごしているらしい。

 

さて今月7月は一年の中で、この果物の出荷がピークをむかえるから、いま近所のスーパーに行くとこれがゴロゴロ並べられているはず。

 

 

7月に出荷の最盛期をむかえること、それに「百」は「もも」と読んで19日は元旦から200日目に当たることから、7月19日は「やまなし桃の日」になっている。
桃の生産量で日本一を誇り、県内に「桃源郷」という桃栽培の密集地がある山梨県(山梨県果樹園芸会)がこの記念日をつくったらしい。

甘くて水分補給にちょうどいい桃は、日本では文化的・伝統的には邪鬼をはらう魔除けのアイテムになっている。
日本最古の歴史書『古事記』には、イザナギが黄泉(よみ)の国で黄泉醜女(よもつしこめ)という鬼女や鬼に追いかけられた時、桃を投げて退散させた話がある。
桃には魔を払う神聖な力があるから、悪鬼はこれを嫌うのだ。
ちなみにイザナギが死者の世界(黄泉)から、無事にこの世に帰ってこられたことから「よみがえる」という言葉がうまれた。

 

日本列島をつくっているイザナギ(向かって右)とイザナミ

 

桃のおかげで助かったと考えたイザナギが桃に神名を与えたことで、桃は「オオカムヅミ」という日本の神となった。
愛知県にはそんな桃神・オオカムヅミを祀る「桃太郎神社」がある。

 

鳥居が桃の形をしている神社は全国でもここだけじゃね?

 

鬼を退治する桃太郎がリンゴでもナシでもスイカでもなく、桃から生まれた理由も、この果物には悪鬼を退ける神聖な力が宿っているとむかしの日本人が考えたからだろう。
「オオカムヅミ」のように神名をもらった果物なんて他に知らない。

桃太郎を英語で言うと「ピーチボーイ」。
なんか軽薄で鬼のパシリにされそうな名前になるけど、この物語は昔から日本人に人気があって、いまはそれを魔改造したアニメ『ピーチボーイリバーサイド』が放送中だ。
これも基本的に桃太郎が鬼をやっつけるという内容。
ちなみに英語のPeachは「ペルシア」が語源になっている。(ラテン語のpersicum malum:ペルシアの林檎)

 

「ミコト」は漢字で尊や命と書くからこれは神道っぽい。

 

桃はベトナムでも魔除けのアイテムだ。
正月(テト)になると気持ち良く新年をむかえて、家族がこれからも安全・健康に過ごせることを願って桃を飾る風習がある。

INJカルチャーセンターのベトナム語講師・クエンさんがこう説明。

ベトナムでは、桃の花は悪魔を遠ざけると信じられています。テトになると、どこの家庭でも必ず桃の花を飾ります(中略)縁起物だけに、家の格式、財力などで、飾る桃の大きさが変わります。ベトナム人は心の豊かさもとても大切にしますが、桃の花はその心の豊かさの象徴なのです。

桃の花:テト(ベトナムの旧正月)のシンボル

日本にいるベトナム人が正月(テト)で飾った桃

 

桃は日本とベトナムで共通する魔除けのアイテムになっている。
この考え方の起源は中国だ。
中国で桃は昔から邪気をはらって、不老長寿を与える縁起の良い果物として人気がある。
桃の木で作った剣「桃木剣」には悪鬼を断ち切る霊力があると言われているし、中国では正月に、魔除けの札として桃の木で作った桃札(とうふ)を貼る風習があった。(いまもあるかも)
桃太郎や『ピーチボーイリバーサイド』のキャラの使った剣が「桃木剣」である可能性は高し。

こういう中国の信仰が日本やベトナムへ伝わって、桃は現在では三国共通の文化や縁起物となっている。
だから鬼門に震えたベトナム人も、桃木剣や桃札をもらったら百発百中でよろこぶはず。
関空を拠点とする航空会社「Peach」の由来も桃が長寿・繁栄・幸運の象徴だからで、日本とアジアを結ぶ飛行機としては最適解だった。

 

長寿を願う縁起物の「桃まんじゅう」

画像はkatorisi

 

いまベトナムで2m級のキング・コブラが襲ってきたという、衝撃i的な映像を見つけたんで張っておこう。
目に見えない悪鬼が相手なら、お札などの魔除けグッズが有効。

 

 

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2 件のコメント

  • この記事には書いてないですが、「桃源郷」という言葉自体、南北朝時代の中国(南朝)の文学者である陶淵明の作品『桃花源記』によるものですね。古代東アジア地域における中国文化の影響の大きさを感じさせられます。干支もそうですよね。

  • そうですね。
    桃の木に囲まれて邪鬼の入ることができない神聖な空間が桃源郷で、桃札はその守りをイメージしたものと思います。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。