ノモンハンの大失敗:日本人同士でも、“あいまい表現”伝わらず

 

日本人のあいまいで遠回しの言い方は、外国人には伝わりにくい。
それで困ったというアメリカ人とインド人の話を前回書いたわけですよ。

【空気ヨメナイ】日本人の遠回し表現に米国・インド人が困惑

この記事で紹介したメディア『アラブニュース』の記事(日本で”空気を読む”には)のなかで、日本人や外国人の学生にコミュニケーションについて教える人物が、日本独特のコミュニケーション文化についてこう説明している。

「基本的には、言葉で直接言うよりもほのめかすことが多い」

日本は多民族国家のインドネシアやアメリカと違って、約95%が同じ日本人という世界的にも珍しい同質性の高い国だから、 “和 “を大事にする「平和的な一体感」が生まれたり、農業国として互いに助け合う意識を持ち「集団心理」が形成されたという。
多くの人が価値観や考え方を共有しているから、それとなくほのめかすことでも相手に自分の気持ちや意図を伝えることができる。

まったく別の文化や伝統で育った外国人には「ワケワカラン」になって、コミュニケーションの困難からストレスを抱えることは多々ある。
でも、あいまいな表現によって同じ日本人同士でも意思の疎通がはかれず、それが原因となって多くの人が犠牲になったこともある。
1939(昭和14)年の日本とソ連の国境紛争事件・ノモンハン事件でそんな悲劇が起きた。

 

「モンハン」なら子どもの好物なんだが、これにノが付くとまったく別で、

「ソ連の充実した機甲部隊によって壊滅的な打撃を受けた。(デジタル大辞泉)」
「日本の関東軍はソ連機械化部隊により壊滅的な打撃を受け,死傷者約2万人余。(旺文社日本史事典)」

というように「ノモンハン事件」は日本の闇歴史として有名だ。
ただ最近では新資料が発見されて研究が進み、必ずしも日本の惨敗・大敗ではなかったという見方も出てきている。
くわしいことはここをクリックするですよ。

ノモンハン事・日本側の歴史認識・評価

 

ソ連軍に機関銃を撃つ日本兵

 

このノモンハン事件をはじめ、太平洋戦争のミッドウェー作戦やインパール作戦など日本軍の「負け戦」を取り上げて、敗戦した原因を追究した『失敗の本質』 (戸部良一防衛大学校名誉教授ら著)という名著がある。
この本では例えばノモンハンでは、日本軍(関東軍)が兵力を少しずつ出していく「兵力逐次使用の見本のような傭兵」はソ連軍に撃破され、戦局を悪化させる要因となったと指摘する。

この戦いで負けが見えてきた軍司令官は、前線にいる残存部隊に撤退命令を出す。
このとき司令官は「撤退」という言葉ではなく、「前進スヘシ」という表現を使う。
これは撤退方向へ前進するということで、要するに「撤退」なんだが、当時の日本軍はこういう消極的な表現をすごく嫌った。
でも当時の日本軍にいた人間なら、「前進スヘシ」という指令を見たらその真意はすぐにわかる。

ノモンハンでの戦況を見守っていた日本本土にある大本営(日本軍の最高統帥機関)は「もう無理っ」と、これ以上の戦闘続行は不可能と判断し作戦終結を伝えることにする。
でも現地で戦っている関東軍のことを考えて、ハッキリした言い方をしなかった。

これが大きな過ちだったと『失敗の本質』にある。

関東軍の地位を尊重して、作戦中止を厳命するようなことはせず、使用兵力を制限するなどの微妙な表現によって中央部の意図を伝えようとしたのである。

 

作戦中止の意味で大本営は、「関東軍はできるだけ小兵力で持久策をとるべし」と言う。
この言い方は不明確で遠回しだったから、それを受け取った関東軍は「作戦の中止を要求したものとは考えなかった」という。
「前進スヘシ」を正反対の意味で理解することは簡単でも、この「ほのめかす」ような微妙な表現では日本人同士でも真意が伝わらなかった。
そのほかの原因も加わって結果としては「作戦続行」という、大本営の意図とは真逆の現実が生まれる。
戦闘が継続されていることを知った大本営は、今度は「攻勢中止の大命」として関東軍に対し、作戦の中止と兵力の後退をはっきり示す。
すると関東軍がその命令にしたがい、やっと戦闘は終了。

最初から「攻勢中止の大命」を出していればよかったのだ。
あいまいな表現による「連絡ミス」によって、本来なら失われずに済んだ何十、何百人もの日本兵が亡くなってしまった。

日本人は変わったようで変わらない。
現代でも遠回しの表現はよくするし、相手が何かを「ほのめかす」と、周りの人間がその考えや真意などを推しはかろうとするから「忖度」の文化が生まれ、これが問題視されている。
ノモンハン事件のような大失敗は日本史の例外としても、あいまいな言い方が原因となって起こるトラブルは外国人との間だけでなくて、日本人同士でもある。

 

日本軍の組織特性に基づく失敗を分析した『失敗の本質』は、いまの日本人にも通用することから、多くのビジネスパーソンに読まれているし、小池百合子都知事が「座右の書」としてこの本を称賛したこともある。
政府のコロナ対策でも、感染状況を見ながら規制を小出しにする「兵力逐次使用」ではなくて、はじめに大きな規制をして初期の段階で抑え込むべきだったという声はある。

1週間ほど前にも毎日新聞がこの本を取り上げた。2021/8/21)

今に重なる?東京オリンピックで注目集まった名著「失敗の本質」

”日本人ならでは”の失敗をしたくない人はこの本を読むといいですよ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。