【日本マジか!】“内閣・官房”で中国人が驚いたワケ

 

岸田文雄氏が新しい首相にきまって、これからの日本を引っ張る「岸田内閣」が発表されたことは記憶に新しい。
で、その日本語で思い出したことがある。

まえに中国旅行でお世話になった日本語ガイドの女性が、「日本語を勉強してると、日中のつながりでいろんな発見があって面白いんですよー」てなことを言う。
そのガイドが驚いたことのひとつが、日本では毎日ニュースに登場する「内閣」という言葉。

これは数百年前、明や清の時代に使っていた古い中国語だ。
この時代の中国皇帝はいつも仕事が山盛りで超忙しかったから、すべてのことを自分一人で処理するのはキャパオーバー。
それで皇帝の下にあった、選び抜かれた国のトップエリートで組織される「内閣」にその一部を任せることにする。
それで、「これは皇帝じゃないと決められん!」ということ以外のものは内閣が話し合って決め、それを皇帝の決定とした。
一応、出来上がった文書を皇帝がチェックして修正することになっていたけど、なんせ皇帝は忙しいから、内閣の作成した内容がそのまま勅令(皇帝の命令)になることも多かったという。
こうなると部分的とはいえ、内閣が実質的に皇帝と同じような強大な権限を持つことになる。
こうした内閣制度が清の時代まで続いていて、いつしかそれがなくなり、次の中華民国の時代になると内閣は完全に中国社会から消え去った。
くわしいことは内閣大学士を見てくれ。

 

中国の明・清時代は日本ではだいたい室町~江戸時代にあたる。
このときの日本に内閣なんてものはなかった。
19世紀に幕府が崩壊して明治時代になって、新しい時代には新しい政治制度が必要となり、欧米の政治システムを導入する。
このとき、会合を開いて協議する英語の「Cabinet」 (小部屋の意)に日本人が「内閣」という言葉をあてた。
もちろんこの由来は明清時代の内閣大学士制度だ。
江戸時代が終わり、将軍の代わりに政治のトップに立った天皇と「Cabinet」の関係が、中国の皇帝と内閣の関係に似ていると考えたのだろう。
日本語ガイドは学生のころ歴史でそれを学んで、皇帝と内閣をセットにして覚えていたから、21世紀の日本で、中国では失われた「内閣」を使っていると知って「マジか!」とたまげた。

だから「岸田内閣」という言葉を見て、数百年前の自国の政治システムを連想する中国人がいるかも。

 

内閣と連動して、第85代目の内閣官房長官に松野博一氏が選ばれた。
この官房の制度も明治時代にドイツ(プロイセン)の官僚制をモデルに採用したもので、ドイツ語の 「Kammer」が「官房」と日本語訳された。
でもこれ、中国では「便器」の意味らしい。
それで中国メディアの「今日頭条」が数年前にこれを取り上げたとサーチナの記事にある。(2016-07-06)
清の時代、皇帝が住んでいた紫禁城にはいくつもの「官房」が置いてあったという。

紫禁城にはまさしく「トイレ」というような場所はなく、各宮殿には匂いを消すための特殊な香灰が入った便器が配備されていたと説明した。そして、その便器の名前が「官房」であったことを伝えている。

日本の閣僚ポスト名、中国語では「トイレ大臣」 中国人「日本は中華文化の精髄を学ばなかったのか?」

 

明治の日本人が「Kammer」を「官房」と訳した理由は謎。
たしかにこれだと、日本政治のキーパーソンが「トイレ大臣」になってしまう。
でも知人の中国人に聞くと、「官房」の文字を見てトイレを想像する中国人は普通はいない。歴史にくわしい人ぐらいだとか。

こう見ると明治時代に日本人は新しく採用した欧米の政治制度に、内閣(や官房)といった皇帝が君臨していた時代の中国語をあてはめたことになる。
いわば「中洋折衷」だ。
いろんなパーツを組み合わせて、独自のものを作る日本人のセンスは相変わらずさすが。
これはもう、新しい内閣と官房長官には期待するしかない。(最後テキトー)

 

 

こちらの記事もいかがですか?

日本の戦闘機・発毛剤で有名な『紫電』。由来は孫権の宝刀

【腐敗する権力】酒池肉林からの自殺、箕子の憂いから国王

日本と中国&台湾の漢字の違い:妻は愛人で新妻は老婆

中国文化の日本文化への影響②日本風にアレンジした5つの具体例。

ラーメンの”ラー”の意味って?日本人のやさしさから生まれた。

 

2 件のコメント

  • > 紫禁城にはまさしく「トイレ」というような場所はなく、各宮殿には匂いを消すための特殊な香灰が入った便器が配備されていたと説明した。そして、その便器の名前が「官房」であったことを伝えている。
    > 明治の日本人が「Kammer」を「官房」と訳した理由は謎。

    どこが「謎」なんですかね?
    「房」は「小部屋」という意味ですから、「官房」は「官僚(役人)が執務する小部屋」であって、まさしく「Kammer」と同じ意味ですよ。
    むしろ、なぜ昔の中国語では「官房」が「トイレ」という意味になるのか、中国人に説明を聞きたいところです。おそらく、漢字の意味を何か間違えた、つまり昔の人の用法から間違って伝えたのではないですか?
    そうだな、邪推するに、昔の中国ではまともなトイレ(房)を使えるのは、官僚以上の身分の人間に限られていたからとか?あり得るよな~。

  • >「房」は「小部屋」という意味ですから、「官房」は「官僚(役人)が執務する小部屋」であって、まさしく「Kammer」と同じ意味ですよ。
    わたしもそう想像しましたが、明治時代の日本人がその理由で「官房」と訳した根拠を見つけられませんでした。

  • コメントを残す

    ABOUTこの記事をかいた人

    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。