【発想の転換】ブラックフライデーの由来は“暗黒から黒字”

 

言葉のイメージは人の理解の仕方によって、ポジティブにもネガティブにもなる。
たとえば「消息」を「息を消す」(=死ぬ)と読むと限りなく不吉なんだが、手紙のことを消息というのは、人の安否の不安を「消し息(や)む」からという説もある。
同じコトバでも後者だとなんだか縁起が良く、ハッピーな気持ちになる。
もっとも消息とは「消=死・息=生」を合わせた言葉で、単に安否を表すだけらしい。
九を「ク」と読むと「苦」になるけど、「キュウ」なら「久」で長い、永遠という意味になるから何だかめでたい。

 

さて、きのう11月26日から「ブラックフライデー」に突入して、いまアマゾンやら楽天やらで特大バーゲンをやってる最中だ。
アメリカでは感謝祭(11月の第4木曜日)の翌日、「ブラックフライデー」という名で感謝祭商品の売れ残りを一掃するセールを行う。と同時に、クリスマスセールも始まる。
アメリカでブラックフライデーは2005年以来、1年で最も忙しい買い物の日だという。

ただ日本のネットのウワサによると、2週間ほどまえに値上げをしておいて、この期間になると値下げをして消費者に「安っ」と錯覚を起こさせるトリックをする企業もあるから、ホントにお得になっているかどうかはいまいち分からない。
でも確実に言えるのは、昨日のブラックフライデーの日、日経平均株価が大幅に下落したこと。
前日比-747円66銭で、ことし4番目の下げ幅となった。
こういう株価の大バーゲンはいらない。

「Black Friday」という言葉をアメリカ人から聞いたのは10年ぐらい前で、「なぜそんな縁起の悪い名前を?」と疑問に思ったのをよく覚えている。
世界史をならった人なら世界恐慌の引き金となった、1929年10月29日の木曜日に起こったアメリカ株の大暴落「ブラック・サーズデー」を連想するのでは。
これはー747円66銭とかいうかわいいレベルではなくて、世界史レベルの大事件だ。
地球規模で大きな衝撃を与えたあの日は、まさに「暗黒」と呼ぶにふさわしい。
ブラックといえば、1987年10月19日の月曜日、香港を発端に起こった世界的な株価大暴落も「ブラックマンデー」といわれている。

だからどうしても、「ブラックフライデー」というネーミングがひっかかるのだ。
「暗黒の金曜日」と聞いて、ウキウキ気分になるのは闇に属する者どもぐらいで、一般人が楽しく買い物をしたいと思うだろうか?
ということで、この由来が気になったんで調べてみた。

 

海外のこと、特にアメリカのことは英語版ウィキペディアが信用できるので、以下の情報のソースは主にそれ。
まず現在に続く「ブラックフライデー」という言葉を使い始めたのは、1960年ごろの米フィラデルフィア警察だ。
その日はセールで街はとんでもない人込みになって、車による渋滞も発生するから、警察の仕事はめちゃくちゃ大変になる。
それでフィラデルフィア警察の人たちは、その日を「暗黒の金曜日」と呼ぶようになった。
いまの日本でいうなら、長時間の重労働をさせる「ブラック企業」のブラックと同じニュアンスだろう。

この言葉はアメリカ人にはキャッチーだったようで、1975年11月29日にニューヨーク・タイムズ紙が初めて、フィラデルフィアで「1年で最も忙しい買い物と交通の日」を指してブラックフライデーという言葉を使った。

The use of the phrase spread slowly, first appearing in The New York Times on November 29, 1975, in which it still refers specifically to “the busiest shopping and traffic day of the year” in Philadelphia.

Black Friday (shopping)

 

そしてこの言葉は1980年代には、全国的な注目を集めるようになる。
でも小売店は稼ぎ時のセールで「暗黒の金曜日」というのを嫌い、あるPR担当者が「ブラック」を「ビッグ」にして、「ビッグフライデー」とすることを提案。
でもこれはインパクトが弱かったのか、すぐに誰も使わなくなる。
それで、ブラックフライデーというパワーワードはそのままにして、大きな利益を生むこの日は赤字から黒字になるとポジティブな解釈をすることで、この言葉のネガティブなイメージを明るいものに変えた。
それ以来、暗黒ではなくて「黒字」に由来する、良い意味のブラックフライデーが世界中へ広がっていく。

だから発想としては消息を「息を消す」(=死ぬ)と理解するのではなく、人の安否の不安を「消し息(や)む」と解釈するのと同じだ。
こういう発想の転換はきっと世界中である。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。