日本人と韓国人の「土下座謝罪」に対する価値観・見方の違い

韓国ではあと１か月ほどで、運命の大統領選挙の日を迎える。
選挙や選挙運動は他の民主主義国家でもある当然で重要なコトだけど、韓国の場合はアピールの仕方がちょっと違う。
選挙運動の最終コーナーを回ったこの大事なときに、与党のイ・ジェミョン候補は「国民の期待に応えられなかった」と他の与党の国会議員と一緒に集団土下座した。
（隣は妻？）

日本では不祥事を起こした政治家が土下座謝罪した例はある。
でも候補者が選挙活動中に、国民に土下座して誠意を訴えるというのは聞いたことがない。
だからこの映像は、日本人にはなかなか衝撃的では。

しかも、「国民の期待に応えられなかった」というのは文政権のことで、イ・ジェミョン候補がしたことではないのだ。
他人の“不始末”を土下座で謝罪する発想は日本にはない。
ということで、東京新聞がこの文化を取り上げた。（2021年12月20日）

当事者でないのに土下座…日本人の感覚では奇異な印象も　韓国の謝罪文化を考える

韓国では素直に過ちを認めて、最大限の真正性（誠意）を示すために、両手両ひざを床につけて国民に頭を下げることがある。
政治家の場合、その姿を見せることで有権者に「（文政権の）スキャンダルと一定の線引きをすると同時に、自分が『真正性のある良い人物だ』と示そうとしている」という。
日本人からすると「そこまでする？」と思ってしまうことでも、韓国人には「真正性のある謝罪」と受け取られるから効果的のようだ。

共に民主党のある議員は「李候補の謝罪をショーだと言う人もいるが、素直に過ちを認める姿勢はおおむね好意的に受け入れられている」と、中道層への支持拡大を期待する。

にしても、イ・ジェミョン氏は「党の失政をわびる」と昨年11月にも、文政権の「代理土下座」しているから、さすがにやりすぎだろう。と、日本人の感覚で思ってしまうが、ここまですれば「よし許した」と韓国ではなるらしい。

韓国の「謝罪文化」については、2018年の平昌五輪で日本人が大きな衝撃を受けた。
スピードスケート女子のキム・ボルム選手（25）が競技（団体追い抜き）で負けたのを、他の韓国選手のせいにするような発言をして国民を激怒させた。
このとき大統領府に寄せられた、キム選手の代表資格のはく奪を求める国民請願には60万人が賛成した。

国民から壮大なバッシングを受けたキム選手は、マススタートで銀メダルを獲得したあと、冷たいリンク上に韓国国旗を置き、それを前に両手両ひざをついて謝罪し、「土下座は自分の言動を韓国国民に謝るため。ごめんなさいという思いしかありません…」とインタビューで声を絞り出した。

ここまでして、やっと世間の風が変わった。

産経新聞（2018/2/25）

この姿にバッシング一辺倒だった韓国世論に変化が現れた。韓国の中央日報（電子版）の掲示板には、「キムよ、もう泣くな」「われわればあなたをサポートする。ファイト！」「よく我慢した」などと、キムを慰める言葉が増え出した。

氷上の土下座で韓国世論が軟化　魔女狩り受けたキム・ボルムに代わる標的は…

この姿を見て韓国では、「過ちを犯したとすれば、許しを請い、次回、金メダルを取って！」、「一生懸命練習して、北京五輪で好成績を収めて！今回の困難は人生の良薬になる。」と好意的な声が増えたとか。

でも、日本の反応はまったく違った。
全世界が見ている中でのメダリストによる「氷上の土下座謝罪」には、ドン引きする、理解不能におちいる、痛々しくて見ていられないといったところで、好意的な意見なんて一つも見たことない。
いくらチーム内で問題を起こしたとはいえ、オリンピック・アスリートにここまでさせるような価値観を日本人は持っていない。

でもまあ「真正性のある謝罪」の姿を見せると、韓国の人たちが納得するのはよく分かった。
でも、過去の歴史について、それを日本の首相や天皇に求めるのは完全に間違っている。
2012年に李明博大統領が天皇に、「ひざまずいて謝らなければならない」と謝罪を要求して大問題になった。（韓国による天皇謝罪要求）
これも文化の違いで韓国人と日本人では、両ひざをついて謝罪することの意味や見方がかなり違っていたのでは？
特に韓国では政治家の土下座謝罪はけっこう軽そう。
といっても天皇陛下にそんなことをさせたら、日本人は韓国を永遠に許せなくなるワケだが。
こういう自国の政治家に求める論理や感覚を、そのまま日本に当てはめて考える人が韓国には多いと思う。

後日談

イ・ジェミョン候補が先日、「大統領選で負ければ、無実の罪で監獄に行くことになりそうだ」と発言した。

朝鮮日報（2022/01/24）

李在明候補「大統領選で負ければ、無実の罪で監獄行き」

冒頭の土下座謝罪にはこれを回避する目的もあったかも。