【日本人の英語】アメリカ人「カンニングは不正行為じゃない」

 

お正月気分も完全になくなった1月15日、全国の受験生が人生をかけて大学入学共通テストに挑んだ。
そのとき試験中に、問題をスマホで撮影して外部に送信するカンニング行為が発覚して、日本中が大騒ぎになったのは記憶に新しい。

TBSニュース(2022/01/28日)

共通テスト流出 出頭の女子大生「カンニング目的で利用」

ここで注目したいのは行為ではなくて、コトバの方。
他人の答案を盗み見たり、隠し持ったメモを見るといった古典的な方法から、ハイテク機器を使った現代的な方法をふくめて、試験中に行う不正行為を日本語で「カンニング」という。
ちなみに日本で試験会場のネット回線を遮断するには、「特別業務の局」の免許を取得しなければならないということをいま知った。だからこれは現実的に無理だ。

1907年(明治40年)のこんな記事があるように、カンニングという言葉には100年以上の歴史と負の伝統がある。

 

 

このカンニングの語源は言うまでもなく、19世紀のイギリスの政治家ジョージ・カニングだ。
卑怯な手段を使って英国首相にまで上りつめたことから、彼の名前が由来となって、不正行為を表す名詞ができというのはウソです。(前半はホントだよ)
この言葉は英語の「cunning」に由来する。
でも「cunning」はそんな意味じゃない。

 

数年前、日本の中学校で英語を教えているアメリカ人と話をしていた時、「日本のカンニングには驚いた!」というから、生徒が想像を絶する不正行為をしたのかと思ったら、まったく違ってこういうことだった。

「アメリカではそういう行為をカンニングではなくて、チートやチーティング(cheating)という。だから職員室で日本人の先生を話をしていて、なんか話が分からないな~と思ったら、その人はカンニングを英語のチーティングの意味で使っていることに気づいた」

その先生の方は、アメリカではそういう行為を英語で「カンニング」と言わないことにビックリしたらしい。

そのアメリカ人の感覚だと、カニングには「ずる賢い」という意味があるけど「不正(行為)」の意味はない。
試験中の不正行為はアメリカではチーティング。
「カンニング=不正行為」と脳に刻まれていたボクとしては、アメリカ人それを否定されてプチ衝撃を受けた。

別のアメリカ人に聞いても同じだ。
cunningには「頭を使って上手に人をだます」というニュアンスがあって、使い方によって悪い意味にも良い意味にもなる。
送られたメールを読むと、カンニングがなんかカックイイ。

「To be cunning is to use intelligence and skill to accomplish a goal, usually whilst deceiving someone.」

カンニングとは知性と技術を駆使して目的を達成することであり、通常は人をあざむくことである。

この言葉には基本的に「頭が良い」という意味が含まれているから、ただの不正行為ではなくて「狡猾(こうかつ)」な行為を指す。
カンニングの例としてアメリカ人はこんな話をする。

サプライズパーティーの準備をしたいけど、本人が家にいてそれができない。
それで「ここへ来る途中、○○の店でゲームのセールをしていたよ」とウソをついて、ゲーム好きの彼を外に出して、その間にパーティーの準備を整える。
こんな感じに、機転を利かせて相手をだますことがカンニングになる。
そんなことを聞いて頭に浮かんだのが、神道の「天の岩戸」(あめのいわと)の物語だ。

太陽神アマテラスがブチ切れて天岩戸の洞窟に引きこもってしまい、一切の光が消えて世界は闇に包まれた。
その洞窟の扉(岩戸)は外からでは開けられないから、何とかアマテラスに開けさせるしかない。
しばらくすると、洞窟の外から神々がゲラゲラ笑う声が聞こえてくる。
不思議に思ったアマテラスは洞窟の岩戸をほんの少し開けて、世界は真っ暗になったはずなのに、なんでみんな楽しそうなのかと聞くと、ある神が「あなた様より貴い神があらわれたのです。だからみんな喜んでいるのですよ」とウソをつく。
「マジで?」と驚いたアマテラスがその神を見ようと、もう少し岩戸を開けると、隠れていた怪力の神アメノタヂカラオが岩戸を引きはがして、アマテラスを外へ引きずり出した。
そして別の神が岩戸の入口にしめ縄を張って、「もうこれより中に入らないで下さい」と言う。
こうして世界に光が戻りましたとさ。
めでたしめでたし。

 

アマテラスが出てきた瞬間

 

鬼殺隊に見つかったら殺されそうなビジュアルだけど、実は神道の神アメノタヂカラオさん

 

こんな「天の岩戸」の話をすると、「そうそう、カンニングってそんな感じ」とアメリカ人。
まぁどこまで正確に話が伝わったか不安はあるけど、大体合ってると思う。となると孔明的なちょっとした知略や策略も、アメリカ人の感覚だとカンニングになるのか。
にしてもアマテラスを外に出させるために、宴会をしたりウソをつくことを日本語で「カンニング行為」とは言わないだろう。

これはポジティブな「cunning」で、もちろんネガティブな意味もある。
税金を払いたくないから、頭を使って”うまく”脱税行為をするのは悪い意味でのカンニング。
チートをするような人間に、税務署員をうまくだませるような頭脳はない。
カンニングをする知力や能力がないから、チート行為に走るのだ。

だから隠し持ったメモを見る単純な不正行為は、アメリカではカンニングではなくてチーティングになる。
ハイテク機器を使った高度な不正行為になると、それもやっぱりチーティングだろう。

 

 

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2 件のコメント

  • > ちなみに日本で試験会場のネット回線を遮断するには、「特別業務の局」の免許を取得しなければならないということをいま知った。だからこれは現実的に無理だ。

    ??? どうして現実的に無理なのかな?
    免許の試験があるわけじゃあるまいし。試験会場を提供している機関が申請して、当局が認可すればいいだけの話でしょ。それが無理だったら議員を介して法令を変えてしまえばいい。
    法令なんてものは、世の人々が「必要とするかどうか」で決まるべきものなんですよ、原則として。
    ただ国民を規制するだけのために法令が存在する政治体制を、「独裁」と言うのです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。