神道とキリスト教:ドイツ人「鏡開きとルルドの泉は似てる!」

 

日本では建国記念の日にあたる2月11日、フランスでは1858年のこの日に奇跡が起きた。
洞窟の近くで薪(まき)を拾っていた14歳の少女が不思議な女性を見る。
ヨーロッパを超えて現在では世界的に有名で、日本の雑誌やテレビ番組でも取り上げられる「ルルドの聖母」伝説の始まりだ。
日本の鏡餅を知って、この話を連想したドイツ人がいるというのが今日の話。

ちなみに1858年というと日本では幕末で、福澤諭吉が蘭学塾(いまの慶応大学)を開いた年だ。

 

「ええ、私は見たんです」と語る少女ベルナデット
カトリック教会の聖人では彼女が初めて写真撮影された。

 

日本の正月には欠かせないマスト・アイテムがこのお餅。

 

 

日本では正月になると、健康や幸せをもたらす尊い年神さまが家にやって来てくれるから、その居場所となる鏡餅を用意しておく。
するとその鏡餅は年神の依り代となって、家族と一緒に正月を過ごす。
そして1月11日の鏡開きの日、神霊の宿ったお餅をわって、神に感謝しながら家族みんなでおいしくいただく。
この鏡開きは江戸時代には武家の風習で、餅を刃物で切るのは切腹を連想させて縁起が悪いということから、手で割ったり木づちでたたきわっていた。

これを「開く」と表現するのは、不吉な言葉(忌み言葉)を避ける日本人の考え方によるもので、いまでも楽しい飲み会や披露宴の終わりを「お開き」と言う。
無病息災や幸福を祈願する鏡開きはとてもめでたくて真面目な儀式だったから、江戸幕府の武士はハッピーな言葉をつかっていた。
いまの日本人も年神の宿った鏡餅を食べることで「神の霊力」を吸収し、これから始まる一年の健康や幸せの縁起かつぎとする。

くわしいことはこの記事を。

【日本の正月文化】お餅が神聖であるワケ・鏡開きの目的

 

まえに知人のドイツ人と話をしていた時、

① ドイツやヨーロッパにも鏡餅みたいに、神が宿るもの(依り代)はあるのか?
② 鏡開きのように神の力を取り入れて、健康や幸福を願う儀式はあるのか?

ということを聞いてみた。
すると①については、キリスト教の考え方では厳禁されているから、今はないけど、キリスト教が伝わる前のペイガニズムの時代にはそんな考え方があっただろうと言う。
ということは鏡餅や鏡開きの発想は、ヨーロッパ人的には失われた古代文化のようなものか。

②については、その話を聞いてフランスの「ルルドの聖母」が彼の頭に浮かんだ。

南フランスのルルドで1858年に、14歳の少女ベルナデットが不思議な女性を見る。
「いやいや、そんなわけねー」と最初は相手にしていなかった周囲の大人も、聖母から聞いた言葉として、少女が「無原罪の御宿り」と言うと「マジかっ!」と態度が一変。
貧しくて学校にも通えず、フランス語の読み書きも出来なかったような少女が、4年前の1854年にカトリック教会の教義として公認された「無原罪の御宿り」を知っているなんて考えられない。

無原罪の御宿りとは、神の特別なはからいによって、聖母マリアには原罪の汚れと穢れがはじめから一切なかったというカトリック教会の教義のこと。

もう、この少女の話を疑う大人はいない。
「ラピュタは本当にあったんだ!」ではなくて、「聖母マリアは本当に現れたんだ!」と信じられてその場所には聖母像が立てられた。
この話がヨーロッパに広まると多くの巡礼者が訪れて、ルルドには大聖堂がつくられた。
聖地ルルドを訪れて祈ったり、聖母マリアがベルナデットに伝えた水(ルルドの泉)を飲むと、治療困難だった病気が治ったという不思議な現象が起きて、カトリック教会はそれを「奇跡」であると公式に認定した。
そんなことからルルドはカトリック最大の巡礼地となって、いまでは6万人の患者や病人をふくめて、毎年600万人の巡礼者や観光客が訪れるという。
ルルドはフランスを代表する観光地でもあるから、国内では部屋数でいえばパリに次ぐ第2位のホテルの町になっている。

 

鏡餅を食べると神の力をゲットできるという神道の発想は、知人のドイツ人が知る限り、ヨーロッパやキリスト教世界ではない。
でもルルドの水は、飲むと病気が治るという奇跡を起こす特別な水だから、神道の鏡開きの考え方に近いと思うと彼は言う。

知名度ではルルドとは比べられないけど、バイエルン州にあるヴィースの巡礼教会(Wieskirche)はドイツではわりと知られているらしい。
18世紀にある農家の夫人が、修道院でもらったキリストの木像の目から涙が流れるのを見た。
これは奇跡とは認められなかったものの、「ヴィースの涙の奇跡」のウワサが広まると、多くの巡礼者が訪れるようになって今のヴィースの巡礼教会が建てられた。

病気やケガがないように無病息災を願うのが鏡開きで、そうなってから直すのがルルドの泉。
神道の考え方で日本文化の縁起かつぎが鏡餅で、キリスト教の奇跡がルルド。
ツッコミどころは多々あれど、両者の発想には近いものがある。
キリスト教の奇跡については、ペイガニズムの影響もあると思う。

 

ヴィースの巡礼教会

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。