【ウクライナ侵攻】日本人の“降伏のススメ”に怒る外国人

 

「オレたちが攻め込めば、ヤツラはきっと数日で降伏する。」

プーチン大統領はそう考えていたようだが、侵攻から3週間が経ったいまでもロシア軍はウクライナを攻略できないでいる。
それどころか泥沼だ。
進軍は停滞していて多くの戦車や戦闘機が破壊され、捕虜となったロシア兵は涙目で「この戦争は間違っていた。」と訴える。その様子が世界に発信されてロシア軍の威信は失墜した。
経済的にもかつてない世界的な制裁をくらって、ルーブルの価値は大暴落してジンバブエ・ドル化、ティッシュペーパー化の道をたどっている最中だ。

*100兆ジンバブエドルの価値は日本円で「0.3円」。
パン1斤が1ジンバブエ・ドルだったのに、通貨の価値が暴落して数年後には3000億ジンバブエ・ドルになったという。

ロシア軍が苦戦している大きな理由に、ウクライナの軍や市民による粘り強い抵抗がある。
だがしかし、それでホントにいいのだろうか?
敵の侵略から祖国を守って戦おうとする気持ちはとても尊い。がそれは同時に、ウクライナの人たちに犠牲を強いることになる。
それで日本ではこのところ、「ウクラナイナはロシアに対して、妥協や降伏をするべきでは?」という論があって、これに注目が集まっている。
ロシアの目的はナチスのホロコーストと違って、ウクライナ人の絶滅ではない。
ロシア軍にとっても被害は少ない方がいいから、人命第一で、人の生命を最優先に考えたら、国のために戦わず早く降伏した方がいい。
「戦争は絶対にしてはいけない」という点からも、抵抗を止めればその時点で戦争は終わるのだ。
「ウクライナがんばれ!負けるな!」と応援することは、結果として市民の犠牲を増やすことにつながるのでは?
だからここは早く降伏や妥協して、また再興する機会を待つのはどうだろう。

 

そんな意見に異を唱えたのが、ジョージア出身で慶応大学SFC研究所上席所員のダヴィドさん。
ジョージアはロシアの隣にあって、2008年にはロシア軍の侵攻を受けて武力衝突になった。
そんな経験のあるダヴィドさんはこう主張する。

「最近、市民の命を救うために、ウクライナ政府が降伏すべきだ、又は妥協に向けて交渉すべきだというようなニュアンスを含んだ発信が多く見られますが、ウ政府からそれを要求するのは倫理的にも合理的にも間違っています。」

その理由を要約するとこんな感じ。

・もしここでウクライナが妥協や降伏をすれば、それは実質的に侵略者を支持・容認することなる。ロシアは次に、モルドバやカザフスタンなどに侵攻することが予測される。これは倫理的に間違っている。

・ウクライナが降伏して戦争が終わったとしよう。でも、ロシアの支配下になれば治安の悪化などで、戦闘をはるかに上回る犠牲者が出る。
それにこんな好き勝手を、結果的にでも認めたら、第二第三のロシアが出てきて世界全体の秩序が崩壊し、共通のルールや相互尊重の精神に基づく国際社会が危機的になる。これは合理的ではない。

・ウクライナの敗北は、そのまま自由民主主義の敗北になる。だからいまは、ウクラナイナに妥協を求めるのではなく、ロシアを止めるために団結するときだ。

いまウクライナ軍の士気がとても高いのに、そんな状況で降伏や妥協を求めるのはおかしいし、ゼレンスキー大統領にも失礼だ。軽々しくそんなことを言うべきではない、とこのジョージア人は言う。

 

ネットを見ても「妥協・降伏論」には賛否に分かれている。

〇賛成派の人たち

・国に「死んでも守れ!」って言われて律儀に守る必要は無い
そんなものより大切なものは他に沢山ある
・命より大事なものは無いから降伏しろみたいなこと言ってたなぁ。
日本は無条件降伏して今があるからな
・倫理上一番まずいのは一政党のために国民が命を捧げることを強要する構図じゃね
・国は国民の為に有るが
国民は国の為に無い

 

〇否定派

・主権の否定だもんな、ヤバいわ
・それはウクライナ人が決めることで外野の日本人が言うことじゃない
・日本は歴史上、負けたことが一回しか無いからでしょ
しかも負けた相手はアメリカであり、冷戦時代だったから搾取されずに運が良かった
・なぜ降伏後も今に近い生活レベルが保てると思ってるのか

 

ウクライナのゼレンスキー大統領はイギリス議会のオンライン演説で、

「どんな犠牲を払っても、自国を守るために決して降伏しない。」

と話していて、妥協や降伏の気配は1ミリもない。
そんな大統領に英議会は大きな拍手をおくる。

 

これは、ロシア軍の攻撃を受けて廃墟となった街。
1分ほどで出てくるタンカに乗せられた妊婦は、このあとお腹の子どもと一緒に亡くなった。
早く降伏していたら、きっといまごろ2人は笑顔で見つめ合っていたはずだ。
「どんな犠牲を払っても、自国を守るために決して降伏しない。」は正しいことなのか。

 

 

この動画では、武装したロシア兵が民家に侵入してくる。
「人命第一」ならここで抵抗しないで、略奪されるままにして、あとで時間をかけて取り戻せばいい。
でもそれは正しいことなのか。

 

 

日本には太平洋戦争のとき、政府や軍が国民の命を軽視して大きな犠牲を出したという、取り返しのつかない失敗がある。
フィリピンで日本軍と行動していた軍属の小松真一氏はそれを痛感し、日本がアメリカに負けた原因に「日本は人命を粗末にし、米国は大切にした」ということをあげた。

【人命を粗末にする日本】太平洋戦争から現代の過労死まで

 

いまウクライナは世界を驚かすような奮闘をしているけど、客観的にみれば戦力差はあきらかで、強大なロシア軍には勝てないだろう。
戦争末期の「カミカゼ」という自爆攻撃をした日本に重ねて、「無駄死をしないでほしい」と降伏をすすめるコメンテーターもいた。
ネットでも、あのとき日本がもっと早く降伏していたら、犠牲は少なくて済んだと考える人は一定数いるから、この意見には反対の声もあるけど共感も多い。

太平洋戦争での苦い経験から、「人の命や平和が何よりも大事。戦争だけは絶対にしてはいけない」という考え方が日本では”国是”のように絶対的な常識になっている。
世界中も基本的にそう考えているはず。
でも、ウクライナ侵攻についての外国人のコメントやメディアの報道を見ると、それと矛盾する「どんな犠牲を払っても、自国を守るために決して降伏しない」という声に称賛や共感が寄せられている。
それどころか、その“一歩先”をいくところもあった。

たとえばAFPのこのニュースだ。(2022年3月11日)

FB、「ロシアの侵略者」への暴力的発言を一時容認

フェイスブックが普通なら禁止されている、「ロシアの侵略者に死を」といった暴力的な発言を容認することをきめた。
他の標的を含まない、場所や方法などの具体性がない、といった条件を満たせばプーチン大統領やベラルーシのルカシェンコ大統領に「ぶっ殺す」と書き込むことも認めるというからビックリだ。
この規定緩和は、アルメニア、アゼルバイジャン、エストニア、ジョージア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、ロシア、スロバキア、ウクライナで適用されるという。

いくら戦争中でも匿名掲示板ではなくて、表現には社会的に大きな責任を負っている企業が「死を」、「殺す」という表現を認めるとは思わなかった。
こ少なくとも上の国ではロシア以外で、「ウクラナイナは早く降伏するべき」という意見が社会的に支持されるとはないし、議論が分かれることもないだろう。
ロシアに対しては、主語を変えてこの表現を認めるということと思われ。
この戦争では、戦後教育から生まれる日本人と外国人と意識の違いを強く感じる。

 

 

ヨーロッパ 目次 ②

ヨーロッパ 目次 ③

ヨーロッパ 目次 ④

ウクライナ侵攻で、ロシア軍が思わぬ苦戦している理由

【だまされた!】ウクライナ侵攻と朝鮮戦争のかわいそうな兵士

【悩む中国】露のウクライナ侵攻と、日本の満州国との共通点 

 

1 個のコメント

  • > いまウクライナは世界を驚かすような奮闘をしているけど、客観的にみれば戦力差はあきらかで、強大なロシア軍には勝てないだろう。
    > 戦争末期の「カミカゼ」という自爆攻撃をした日本に重ねて、「無駄死をしないでほしい」と降伏をすすめるコメンテーターもいた。
    > ネットでも、あのとき日本がもっと早く降伏していたら、犠牲は少なくて済んだと考える人は一定数いるから、この意見には反対の声もあるけど共感も多い。

    この点の判断に迷いのあるブログ主さんも含め(そのように私には読めました)、太平洋戦争当時の日本の状況と比較して「ウクライナに降伏を推奨する日本人」が忘れている重要な観点があります。それは、太平洋戦争でアジアの周辺諸国と米国含めた連合国側へ最初に攻撃を仕掛けて侵攻したのは日本であり、終戦間際の戦況の悪化はたまたま連合国側が反撃が成功した結果であったということです。今回、ロシアから攻撃を仕掛けられて「侵略された側」であるウクライナはそれと同じ立場ではありません。全然話が違います。
    真珠湾で先制攻撃を受けて大きな被害を出した米国に「戦争で犠牲者が出るのはよくないことだから、米国は早く降参スべきだった」と言えますか? 侵略された側は住民の犠牲者を最小限にするため、一刻も早く手を上げて降参しろと? そんなことを平気で主張できるのは、これまで運良く「独立」を保持できていた、平和ボケした日本人だけでしょうね。

    どんな理由があろうと侵略者に大人しく降伏するなんて、私は絶対にイヤだ。そんな主張をする政治家は御免被ります。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。