戦争は巨大悪だが、「良いこと」と言える副作用もある

 

アメリカにとってはまさに闇歴史だったベトナム戦争。
その巨大悪の中にも、“良いこと”と言えるようなことがあった。
アメリカ軍はこの戦争で初めて「黒人部隊」を組織せず、黒人と白人の兵士が一緒になって、または黒人の上官が白人を指揮して敵と戦った。
この背景にあったのが、社会的な差別の解消を目的にした「公民権法」の存在だ。
それまで当然のようにあった黒人への差別行為をアメリカの政治家や国民が反省し、彼らの社会的・経済的地位を向上させるために1964年に公民権法が施行された。
アフリカ系アメリカ人公民権運動

その結果、黒人と白人が混在する部隊が米史上初めてつくられることとなる。
黒人と白人が同じ立場で戦って、形式的には差別がなくなったのだから皮肉と言えばかなりの皮肉だ。
同じ戦場で共通の敵と向かい合ったことで、白人と黒人の若者の間に差別から融和への動きが進んだことは、ベトナム戦争という暗黒の中で生まれた小さな光と言えるのでは。

 

ここからは現在進行形で起きている戦争について。
ロシア軍がウクライナに攻め込んでから今日でちょうど1か月になる。
国連は22日までのウクライナの犠牲者を少なくとも977人で、このうち子どもは39人とみていて、アメリカはこの侵攻を「戦争犯罪」と呼んで強く非難する。

 

 

いまロシア軍の侵略から必死で国を守っているゼレンスキー大統領は、もしウクライナが陥落することがあれば、次はリトアニアの国境にロシア軍がやって来るだろうと警告したことがある。

【次はあなた】ロシアのウクライナ侵攻、リトアニアはいま?

 

ソ連の隣にある東ヨーロッパのリトアニアは、日本では恐ろしくマイナーな国で知名度は消費税以下と思われる。
バルト三国の一つ、リトアニアの国土は北海道(8.35㎢)よりひと回り小さい6.5㎢で、人口は約279万人とかなり小さな国だ。

 

 

リトアニアは長い間、ソ連の支配下にあって権利や自由を奪われていた。
それに抗って1991年に独立宣言を発表すると、激怒したソ連はKGBの特殊部隊を含む軍隊をリトアニアへ送り込む。
それで多くの市民が殺される「血の日曜日事件」が起こっても、リトアニアの人たちはひるまず戦い、

「リトアニアの独立運動はバルト三国全体の独立運動を主導し、最終的にソビエト連邦の崩壊に大きな役割を果たした。」

とウィキベテアで紹介されている リトアニア独立革命 を成功させた。

そんな国に知人が住んでいるのですよ。
そのリトアニア人とメールでやり取りをしていると、このウクライナ戦争では「良いところ」もあると意外なことを言う。

「The good thing about this war is that Putin managed to do one thing that democratic west countries were not able to do in many years: united EU countries. All countries as one fist, which is punching the economy of Russia. Switzerland was a neutral country all the time, even they joined the sanctions against Russia.」

この戦争で良かったのは、西側の民主主義諸国が長年できなかった、EU諸国をひとつにするということをプーチンが実現したこと。
すべての国が“一つの拳(こぶし)”となって、ロシア経済に打撃を与えている。ずっと中立国だったスイスでさえ、ロシアへの制裁には参加した。

 

たしかに今回の戦争はこの“副作用”をもたらした。
ロシア軍の侵略によってヨーロッパ諸国が目覚め、ロシアの脅威を改めて認識したことで一致団結した。
さまざま武器を提供してウクライナを支える一方で、欧米や日本も一緒になって国際決済ネットワークの「SWIFT」からロシアを締め出す。
これ以外の経済制裁の合わせ技をくらってルーブルの価値は大暴落し、ロシア最大手の銀行「ズベルバンク」の欧州部門は破綻した。
(すべてではないが)クレジットカードを使うことができなくなったし、国民は「これからいったい何が始まるんです?」と不安でいっぱいのはず。
ロシア国債の格付けは一気に8段階も引き下げられて、「国家の倒産」を意味するデフォルトという悪魔はすぐそこまで迫っている。

 

もちろんこのリトアニア人は、今回の戦争がヨカッタと言ってるワケじゃない。
「次はオマエだ」と名指しされた国にいる彼は、その危険性やロシア軍の恐ろしさをよく分かっている。
ロシア軍の軍事侵攻は巨大な不幸で、この戦争を正当化できる余地は何もないとしても、このヨーロッパ人からすると、やっとこれでEU諸国が大事なことに気づいて、一致団結して敵と戦うという希望も見つかった。
でも彼からすれば、「2014年にロシアがクリミアを併合したとき、EUが今回のような強い制裁をしていればこの戦争はなかった」という無念の思いがあるらしい。
ベトナム戦争における白人と黒人の融和もそうだけど、共通の敵を前にすると、細かい違いや対立を超えてひとつになる。
ただその敵が去ると、またバラバラになるかも。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。