【トルコ人のため息】日本の生活が好きなわけ、母国との違い

 

平仮名だとかわいいのに、「土耳古」と漢字で書くとごつくなる国がトルコ。
日本に住んでいる知人のトルコ人(20代・男性)が好きなところは、日本がとてもユニークであること。
たとえば街を歩いていると、とつぜん「カワイイ」と出会う。

 

トルコだと、道路工事でこんな道具はあり得ないらしい。

 

ただ日本では、トルコを「アラブの国」とか「イスラムの国」と誤解している人が多くて、「ホントかんべんして下さい」と閉口していたから、アラブと中東の違いは理解しておこう。
外国人から「日本は中華圏の国だよね」と言われたら、日本人がイラっとするのと同じだ。

1928年にケマルという英雄が革命を起こして、イスラムの国だったオスマン帝国を打倒した。
そして彼はイスラム法やアラビア語の廃止、女性の解放、イスラム学校(マドラサ)の閉鎖などを行う。
以来トルコはイスラム教とは距離を置き、世俗国家(脱・宗教の国)としての道を選んだのだから、もうアラブでもイスラムの国でもないのだ。
くわしいことはこの記事を。

【アラブと中東の違い】日本人の“無知”にトルコ人がイラっ。

 

アヤソフィアの内部(イスタンブール)

 

多少の誤解や無知があっても、そのトルコ人は日本の社会や人が大好き。
だから留学を終えても母国には帰らず、この島国に住むことをきめた。

日本についてすごく良いと感じるのは、ほとんどの人が無宗教で社会的にも宗教色がなく、それこそケマルが理想にしそうな世俗国家であるところ。
トルコで生まれ育った彼にはイスラム教の知識はあるけど、心はほぼ無宗教で、トルコにいたときは毎週金曜日にモスクで祈ることはしなかったし、自分の生活にイスラムの影響はなかった。
よーするに信仰心については、平均的な日本人と同じようなものだ。
そんなトルコ人さんに、日本が好きな理由をたずねるとこんな話をする。

 

イスラム教には自分の欲望を抑えたり、他人とは親切に接するとか、すばらしい教えがたくさんあるからそれ自体は問題ない。
でもトルコでは、宗教を支配の道具として利用する政治家がいて、それに惑わされてコントロールされる国民も多い。
それがいま大きな問題になっていて、自分もトルコのそういうところが大キライ。
日本に比べればトルコは全体的に教育のレベルが低いし、国民の無知につけ込んで扇動する悪い政治家がいっぱいいる。

「エルドアン前のトルコ」は良かった。
けど彼が大統領になってから、トルコは悪い方向へ変わってしまった。
ケマルの世俗化を否定して女性にヒジャブをかぶらせるようにするとか、社会のイスラム化を進めているから、息苦しい思いをしている国民は多い。
ケマルはアヤソフィアというオスマン時代のモスクを、宗教色のない博物館にしたのに、エルドアンは2020年にそれをまたモスクにしてしまった。
すぐ近くにブルーモスクという礼拝所があるのに、アヤソフィアまでモスクにする必要はない。
でも、熱心なイスラム教徒はこの変更を手をたたいて歓迎するし、エルドアンの支持率も上がるから頭痛が止まらない。

*エルドアン大統領が国全体でイスラム教の影響を強めていることは、無宗教に近い人にとっては地獄でしかない。でも熱心なイスラム教徒にとっては、「待ってました!」という状態。
周辺のイスラム色の強い国との関係もよくて、エルドアン大統領は「サラディンが1187年に十字軍からエルサレムを奪還して以来、アラブ人が最も尊敬する非アラブ人指導者」と称賛されたこともある。

 

トルコにあるイスラム教について教える学校では、たくさんの子どもたちが声を出して聖書のクルアーン(コーラン)をアラビア語で読んでいる。
トルコ語じゃないから、意味は分かってない。
でも、クルアーンを唱えれば天国へ行けると教えられているから、子どもや親たちは訳も分からずイスラム指導者の言葉を鵜吞みにして従っている。
そういう姿を見ると、トルコではこれからもイスラム化が進みそうでお先真っ暗、ウツな気持ちになる。

まえに自分が住んでいた地域で、イスラム聖職者が男児をレイプする事件が起きたのに、結局その聖職者は罰を受けることはなかった。
ネットではこの忌まわしい事件を容認する声もあって、この国は本当にダメだと思った。
最近では治安も悪くなって(これはイスラム化とは関係ないと思う)、以前は家にカギをかけずにいてもOKだったけど、いまではそれは自殺行為。
盗難の被害にあっても、自業自得だからだれも同情しない。

 

日本は全てにおいて、トルコの現状の反対だから好き。
日常生活では特定の宗教のルールを守って行動する必要がないし、宗教の価値観が社会に直接影響を与えてその方向に変わることもない。
宗教と政治が無関係で国民も無宗教の人がほとんどだから、「政教分離」を当然と考えているし、自分もその考えを支持している。
いまのトルコが向かっている「政教一致」は悪夢でしかない。

それに日本は治安がバツグンにいい。
良すぎてそれに慣れてしまったから、いまのトルコに住むのはちょっと大変かもしれない。
自分が生まれ育って家族のいるトルコは好きだけど、いまの社会は迷わず闇に向かって進んでいるから、戻って住みたいとは思わない。
日本は完っ璧な世俗国家で、宗教の拘束はないし圧力も感じない。自由で開放感にあふれているから、自分にとってはまさに天国だ。

 

そんな理由から、このトルコ人は日本が好きだし、ここでの生活が気に入っていると。
彼のように「エルドアンのトルコ」から脱出するトルコ人は多い。

エルドアン政権下では縁故主義の恩恵に与れる受益層がいる一方で、抑圧やイスラム化を忌避して、世俗主義に慣れ親しんだ従来の富裕層や起業家らの国外移住や亡命も相次いでいる。

レジェップ・タイイップ・エルドアン 

 

でも国内外のイスラム教徒は逆で、世俗化を拒否して、イスラム化を進めるところがエルドアン大統領を支持する理由になっている。
1928年にケマルがトルコ革命を起こして、脱・宗教の国づくりを始めても、それまで数百年つづいていたイスラム国(オスマン帝国)の影響はやっぱり強かった。
日本は、政府が特定の宗教だけを優先・保護して、その教えによって社会を構築したことは歴史上、一度もなかった。明治時代には国家神道というそれに近いものはあった。
だからフランスのユグノー戦争やドイツの三十年戦争のように、国家と宗教が結びついて大規模な宗教戦争が起こることもなかった。
日本で世俗国家は昔から当たり前で、もはや空気になっているから、それにどれだけ大きなメリットがあるか気づかない人は多いと思う。

 

 

中東 目次

イスラム教 「目次」

【トルコの歴史】イスラム教が“ゆるい”理由は革命にあり

世界の国名・地名:語尾の「イア(ia)」はラテン語で「~の国」

トルコ人が話す日本人とトルコ人の違い。まさに“鏡”で正反対

【トルコの助け合い文化】生活苦の人を救う「サダカの石」

世界の見方や常識が変わる15の地図。これが本当の地球だった。

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。