日本とは違うのだよ、日本とは! 多民族・多宗教のアメリカ

 

日本人の一年は大体こんなふうに過ぎていく。

1月の正月にはおせち料理を食べてお寺やお寺へ初詣に行き、3月にはひな祭りをして、5月はゴールデンウイークを楽しむ。
仏教と神道がミックスした8月のお盆休みは、精霊馬をつくったりしてご先祖様と一緒に過ごす。
9月の彼岸や中秋の名月が終わるころ、10月のハロウィンの準備が始まる。
令和では1年の最後の祝日である11月の勤労感謝の日、新嘗祭を行なってその年の収穫を神さまに感謝する。
そんな神道の儀式が終わると、今度はクリスマスだ。
クリスマスにケーキやチキンを食べ終わると、しめ飾りや門松を用意して年神さまをむかえる準備を整える。

多少の誤差があるぐらいで、日本では全国の人がこんなルーティンを毎年くり返している。
そんな国の反対側にあるのがアメリカって国。
先住民が住んでいたところに、信仰の自由を求めてヨーロッパ人が移住してくる、アフリカから黒人が奴隷として連れて来られた、戦争の混乱などいろんな理由で移民がやってくるなどして、世界中の人種や宗教の人たちで構成されるアメリカ社会は日本とは根本的に違う。

 

きのうアメリカ人(20代・女性)と話をしていて、もうすぐやってくる7月4日の独立記念日の話題になる。
植民地だったアメリカがイギリスに対し、独立宣言をおこなった1776年7月4日(Fourth of July)は言ってみればヨーロッパ人どうしの話。
だから、それとは関係ない奴隷の子孫である黒人(アフリカ系アメリカ人)には、

「7月4日を祝おうとは思わない」
「黒人として、自分は7月4日に誕生した市民だと思っていない」

と言って独立記念日に背を向ける人もいる。

アメリカ独立記念日(7月4日)とは?白人と黒人の違う価値観・見方

アジア系アメリカ人である知人に聞くと、「その日はバーベキューをして楽しむと思う。自分もアメリカ国民だけど、18世紀の独立戦争と民族的にはないから、ヨーロッパからきた白人とは意味合いが違う。でもそういう黒人のように、白人や独立記念日に反感はない」なんてことを言う。

日本には独立記念日も建国記念日もなく、あるのは建国記念の日。

「の」がある理由:建国記念の日とクリスマスと共通点 

この日はどの日本人にとっても平等でめでたい祝日で、イデオロギーが理由で反対する人はいても、民族的なアイデンティティーからこの日を拒否する人は聞いたことがない。

 

では黒人にとって、白人の独立記念日のような重要な日はあるのか?
それをたずねるとそのアメリカ人の考えでは、きのう6月19日の「ジューンティーンス」がそんな日にあたる。
奴隷解放宣言から2年後の1865年、テキサス州で6月19日にアメリカで最後の奴隷解放がおこなわれ、すべての人が自由な身分となった。
そんなことから、6月(June)と19日(nineteenth)を組み合わせてできた「Juneteenth(ジューンティーンス)」は「自由の日」、「歓喜の日」、「解放の日」とも言われる。

2020年に白人警官が黒人男性を殺害した事件を契機に、黒人に対する差別撤廃を訴えるブラック・ライブズ・マター運動が盛り上がった。
その影響から大統領が2021年にサインしたことで、それまでは州ごとの祝日だったジューンティーンスはアメリカ全体の祝日になる。
この日は伝統的に、奴隷解放宣言の朗読、「黒人国歌」とも言われる黒人にとって重要な歌を歌う、著名な黒人作家の作品の朗読などがおこなわれるという。

Celebratory traditions often include public readings of the Emancipation Proclamation, singing traditional songs such as “Swing Low, Sweet Chariot” and “Lift Every Voice and Sing”, and the reading of works by noted African-American writers, such as Ralph Ellison and Maya Angelou.

Juneteenth

ジューンティーンを祝う人たち(1900年)

 

奴隷身分だったすべての人が所有者から解放された日を、黒人にとっての「独立記念日」とする見方は合っていると思う。
これは歴史的には白人と黒人との出来事で、ジューンティーンスはいまではおもに黒人が祝福する日になっている。
だから「白人として、自分は6月19日に誕生した市民だと思っていない」と白人は無関心なのかと思ったら、知人に聞いたら案外そうでもない。

「気軽にイベントへ参加する人もいるし、『この日はかつて、黒人を家畜のように扱っていた恥ずべき歴史を我々に再確認させる重要な日だ。白人の私たちこそ、この日を祝福しないといけない』みたいな政治的に熱い人もいる。私のまわりにいる白人はそんな歴史的意義とは関係なく、みんな自分の好きなことをして過ごしている。」

そんな話をする彼女はアジア系アメリカ人。
アメリカで奴隷制度が終わった日は1人の国民として大事だけど、民族的にはこの出来事と自分たちは関係ない。
最近庭に生えてきた雑草が気になるから、ジューンティーンスの日にヤツラを一掃してやる予定だと言う。
アメリカの日系人もこんな感じに、ただの休みの日として過ごすと思われ。

日系アメリカ人にとって重要な日は2月19日の「強制収容を忘れない日」だ。
日本との戦争が始まって1942年のこの日、ルーズベルト大統領の命令によって11万人以上の日系人が強制収容所へ連行され、そこで囚人のような生活を強いられた。
原爆投下についての謝罪は拒否するアメリカ政府も、これは完全に間違った人種差別行為だったと責任を認めて公式に謝罪している。
2022年のことしバイデン大統領は公式声明でこう話した。

「アメリカの最も恥ずべき章の一つだ。取り返しのつかない被害を受けた日系人への、連邦政府の公式謝罪を再確認する」

そんなことで日系人にとって2月19日は、こんな悲劇が二度と起こらないことを願う大切な日になっている。
でも、一般の白人や黒人はきっと庭の雑草のほうが気になる。

 

日本では祝日や記念日は基本的に、全国民にとって同じ意味や重さがあって、アメリカみたいに、民族ごとにアイデンティティーにかかわる重要な日が違うことはない。
かの国では、大事な日は宗教によっても変わってくる。
クリスマスはキリスト教徒にとってめでたい日で、ユダヤ教徒にはハヌカのお祭り、イスラム教徒にはラマダンのほうが大事だし、黒人はクワンザというお祝いの行事をする。
ニューヨークみたいに、いろんな人種・宗教の人たちが一緒に暮らすところでは、あいさつとして「メリークリスマス!」ではなくて「ハッピーホリデーズ」と言うことが多い。
だから浜松市に住むニューヨーク出身のアメリカ人は、「図書館や役所でクリスマスツリーを見た。NYなら公共施設でこれはNGだ。日本のほうがクリスマスを自由に祝うことができる」と言う。

メリークリスマスが言えないアメリカ。多文化社会という特徴

無宗教の国・日本でクリスマスはひな祭りと同じような文化のひとつだから、図書館でツリーやリースを飾っても問題ない。
「公共施設で特定の宗教を象徴するモノを置くな!」なんて利用者がクレームを言うことはないし、殺風景な空間よりもこっちのほうがうれしい。

お正月、建国記念の日、七夕、お盆、終戦記念日、ハロウィン、新嘗祭、クリスマスといった一年の祝日・イベント・記念日が全国民に平等で、同じような価値や意義のある日本は移民大国のアメリカとはまったく違う。

 

 

 

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1 個のコメント

  • > (建国記念の日に対して日本人では)民族的なアイデンティティーからこの日を拒否する人は聞いたことがない。

    へぇ、そうですか。私はそうでもないですけどね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。