千年以上の日本文化 いま欧米人が「ゆず」に注目するワケ

 

3年前、日本に住んでいた知人のリトアニア人から、リトアニア人の友だちが東ヨーロッパから日本へ旅行にやってくるから、彼女をどこかへ案内してほしいと頼まれた。
それは問題ないから、20代のリトアニア人の男女を浜松有数の観光名所・フラワーパークへ連れて行くことにした。
彼らを拾ってそこへ向かう途中、「腹減った」とか言いやがるからコンビニへ寄ると、日本に来て2週間ほどのリトアニア人女性はフライドチキンを買って車内でパクリとする。

これまでフランス、イタリア、オーストリア、ハンガリーなどに行ったことのある彼女に言わせると、「日本のコンビニのホットスナックはクオリティーがすごく高い!」。
ヨーロッパのコンビニ(のような店)にあるサンドウィッチなんかに比べると、味と値段を考えれば、コンビニのホットスナックはもはや神と。
なかでも彼女のお気に入りは「ゆず味(風味)のから揚げ」だ。
日本にいたリトアニア人のおススメでコレを食べてみたら、シトラス味のフライドチキンの美味しさに開眼して、日本滞在中はよくお世話になったらしい。
日本にいる彼も来日してからゆずを知って重宝するようになり、自分の作る西洋料理にこれをアクセントとして使っているという。
そんなことで2人とも「ユズ」という日本語を自然に覚えてしまった。
ということは欧米にゆずは無いか、ほぼナイのか。

ゆずはたしかにシトラス(柑橘類)だけど、それだとオレンジやグレープフルーツ、レモンなども含まれるから、「シトラス=ゆず」というわけでもない。
じゃあ、「柚子」の英語って何だろう?
調べてみたら、日本語の「ユズ」がそのまま英語になっていて、英語版ウィキペデアにも「Yuzu」で項目がつくられていた。
21世紀になるとアメリカやヨーロッパの国のシェフがゆずに注目して、料理に使うことが多くなったという。

Beginning in the early 21st century, yuzu has been increasingly used by chefs in the United States and other Western nations, achieving notice in a 2003 article in The New York Times.

Yuzu

 

ゆずの原産地は中国で、そこから奈良か平安時代に日本へ伝えられたことで間違いなさそうだ。
オレンジやグレープフルーツみたいに、アレをそのまま食べる機会はフツウは罰ゲームぐらいしかない。
日本人はあの独特の酸味とさわやかな香りが好きで、ゆずは料理の味つけ・香りづけとして昔からよく使われてきたし、今ではジャムやケーキ、チューハイなんかにも使われている。
刺し身や焼き魚、特にサンマとの相性は完璧で、ゆずをかけると焼きサンマは別の次元へ昇華する。
思えばフライドチキンに使うのも、日本人にとってはとても伝統的な発想だ。
ゆずの消費量と生産量で日本が世界最大なのは、いろんな日本料理に合うからだろう。
「万能の天才」と言われたレオナルドダヴィンチ並みに使える果物がゆず。

ゆずには薬用効果もあって、江戸時代に始まったといわれる「ゆず湯」もいまでは日本人の生活に定着していてる。
あれは香りを楽しんでリラックスするだけじゃなくて、ゆずの成分が血行を促進することが確認されているから、科学的にも現実的にも身体にいいのだ。
「冬至にゆず湯に入ると風邪を引かない」というのはただのキャッチコピーではない。

 

欧米人もフライドチキンにレモンをかけるのか?

 

たぶんこれは外国人もカピバラもよろこぶ。

 

では、日本のゆずを欧米人はどう使っているのか?

「ザ・ニューヨーカー」というメディアで、ゆずを「“宝もの”と呼んでも言い過ぎではない(“Treasure” is not much of an overstatement)」と激賞するヘレンさんは、

炙ったホタテや肉厚のキノコの上に真珠のような柚子胡椒をチョコンと乗せたり、少量をドレッシングやアボカドに混ぜたり、さらにはラーメンにも入れるという。

a tiny pearl of yuzu kosho on top of a seared scallop or a meaty grilled mushroom, a tiny scoop blended into a vinaigrette or mashed into an avocado, or a pea-size dollop stirred, at the very last moment, into a bowl of ramen.

Nothing Compares to Yuzu 

 

いろんな食べ物に合うゆずはもはや至高(比類ない)。

レストランでは日本料理は当然として、西洋料理のステーキや魚介類、サラダなんかに隠し味的に使われているようだ。

「~すぎる○○」という表現は大抵の場合、注目を集めることが目的で中身は名前負けしている。
でも、料理に関して人類でも有数の知識と技術を持っていて、「世界一予約の取れないレストラン」として映画化されたスペイン人のフェラン・アドリア氏は「すごすぎるシェフ」と言っても過言ではない。
この天才が2002年に来日して、銀座にある京料理の店で、ゆずを使った料理を口に運ぶと衝撃が走った。
店に頼んでゆずを持ってきてもらい、彼が握りつぶと果汁がしたたり、あのさわやかな香りが広がってフェラン氏は涙を流すほど感激したという。
それでこのカリスマ・シェフが紹介したことがきっかけとなって、欧米で「yuzu」がブレイクした。
欧米のシェフが21世紀になってから、ゆずに注目するようになったというウィキペデアの記述とも合っている。

でもこれは最近のことだから、ゆずの欧米での知名度はかなり低いと思われる。
1000年以上の積み重ねのある日本には、欧米人の知らないゆずに関するさまざまな知識がまだまだあるはずだ。
ゆずはシトラスであんこのような未知の食材ではないから、外国人にもなじみがある。
刺身にもフライドチキンにもサラダにもOKと、どこに投げてもストライクになりそうなほど有効ゾーンが広いから、ゆずさんの今後の活躍がますます期待される。
この新しい日本文化が、本格的な世界デビューをするのはこれからだ。

 

 

 

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1 個のコメント

  • この「ゆず」に関する話ですが、実は私も、米国とカナダで滞在中に似たような経験があります。
    それぞれ時期としては、米国で半年ほど滞在中に話を聞いて、それから15年後カナダに1ヶ月短期滞在した時にトロント在住の日系2世から、まさか15年も昔と同じ話を聞くとは夢にも思いませんでした。
    ですが、どうもしっくりとは納得出来てないのですよね。何か、あまり表に知られていない、別の理由があるのかもしれません。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。