日本とアメリカはいろいろと対照的。
島国で数百年も鎖国をしていた日本と違って、移民大国で世界中の人間がいるアメリカは多様性にあふれている。
長い間、キリスト教が「禁教」として禁止されていた日本とは反対に、アメリカはキリスト教の信仰を守るためにヨーロッパから移住してきた人たちによって建国された。
信仰の自由はアメリカの重要な建国理念のひとつ。
それぞれまったく違う歴史や伝統の上にイマがあるから、日米では価値観や考え方も大きく違う。
アメリカでは最も重要なレベルにある社会問題で、よく全国的な抗議活動が行われる黒人差別と人工中絶の問題が、日本では国民の関心が集まらないからほぼスルーされている。
1777年のきょう７月３日は、アメリカで初めてバーモント州が奴隷制を廃止した画期的な日。
そして1865年にテキサス州で最後の奴隷解放がおこなわれて、すべての人が自由な身分となった。
「自由の日」や「歓喜の日」と呼ばれるその日、６月19日は黒人にとってとても大事な日だから、いまでは「ジューンティーンス」という記念日になっている。
アメリカでは州ごとに価値観も見方も大きく違うから、バーモントから始まってテキサスで終わるまで、奴隷が解放されるまで88年もかかっている。（アメリカ合衆国の奴隷制度の歴史）
これが日本なら徳川幕府が将軍の名の下に命令をだして、同じ日に日本全体を一斉に変えてしまったと思われる。
アメリカではこの間、「ドレッド・スコット判決」があった。
これはドレッド・スコットという黒人奴隷がその身分の解放を求めて訴えた裁判で、1857年に最高裁判所はこんな判決を下す。
・黒人はアメリカ合衆国の市民にはなることはできない。
・スコットは米憲法の定める「住民」ではないから、連邦裁判所に告訴することはできない。
・奴隷制を禁止したミズーリの法は違憲で、無効である。
黒人は人間ではなくて、”財産”であると最高裁が判断した。
この「ドレッド・スコット判決」は奴隷制度を認める内容だったから、その廃止を求める人たちを激怒させた一方で、奴隷制の存続を求める人たちは立ち上がって拍手する。
この判決によって、奴隷制をめぐりアメリカ社会が賛成・反対に真っ二つに分かれて、それが南北戦へつながっていく。
この戦争で北部が勝ち、南部にあった奴隷制度を終わらせた。
社会的な制度はなくなっても、この時代の意識はまだ残っていて、いまも人種差別がアメリカでとても深刻な問題になっていることはBLM運動の盛り上がりをみればわかる。
海外から奴隷を輸入して売買した歴史のない日本では、当然、奴隷制の存続をめぐって対立したことはない。
奴隷については日本人は“ウブ”だから、最高裁が黒人を財産や所有物であることを確認したという歴史を知って、ショックを受ける人がいるかも。
背中をムチで打たれて、傷だらけになった黒人奴隷（19世紀）
10日ほど前、６月24日にアメリカの連邦最高裁が女性の中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェイド」判決をひっくり返して、いまアメリカ社会は大騒ぎになっている。
これで全米の半数ほどの州では、これから中絶が厳しく規制される見通だとか。
人工中絶を女性の権利として認めるべきと考える人たちはこの判決に激怒し、これを”殺人”と理解する中絶反対派は大喜びだ。
それで社会は賛否両論に大きく二分され、互いの勢力がデモ活動をおこなって、いま米社会はカオス状態におちいっている。
伝統的に中絶が認められていた日本では、これが“権利”か“殺人”をめぐって社会が分かれることはない。
アメリカではこれが選挙の重要な争点になるけど、いまの参院選をみても、中絶反対を訴える候補者なんて聞いたことない。
人工中絶に反対するのは主に熱心なキリスト教徒で、こうした人は南部に多い。
中絶を女性の権利として認めるのは、宗教色の薄いリベラルの人たちで彼らは北部に多くいる。
かつての奴隷制度でも南部の州は存続を望んで、北部は奴隷解放を求めて対立して戦争に発展した。
日本にもいろんな社会問題があって、それこそ山盛りあるけれど、黒人差別や人工中絶はほとんど問題にならない。
ドレッド・スコット、ロー対ウェイド判決は、本当にアメリカ社会の価値観や考え方をよく表している。
こんな事件は日本にとっては異世界の出来事。
共同通信（2022/7/4）
60発を超す弾丸を体に受けていたことが3日分かった。警察対応に疑問の声が上がり、抗議活動が起きるなど波紋が広がっている。
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