【今も謎】19世紀のドイツに現れた少年、カスパー・ハウザー

 

日本では「大塩平八郎の乱」が起こる10年ほど前の1828年、ドイツのバイエルン王国でミステリアスな少年が現れた。
16歳ほどの少年が広場にいて、一体どこのダレなのか、質問をしてもまともな答えが返ってこない。
彼はニュルンベルクで騎兵隊に勤務するヴェッセニヒ大尉にあてた、匿名の手紙を持っていて、そこにはこんなことが書いてあった。
彼は1812年4月30日に生まれて、名前を「カスパー」という。騎兵をしていた父のように、彼を騎兵に採用してほしい。しかし、もし面倒なら殺してほしい。
こんなアニメの第一話のような展開で、カスパー・ハウザーは世に出た。

 

名指しされたヴェッセニヒ大尉にはこの少年や手紙について、心当たりがまったくない。
それでカスパーはとりあえず、ニュルンベルク市当局が管理することとなる。
カスパーが摂取することができたのはパンと水だけで、肉や牛乳を口に入れると吐き出してしまった。
また、鏡に映った像を手でつかもうとするなど、一般社会で身につける常識がなかったという。
知的障害があるように思われたが、彼を観察した人間はカスパーには優れた記憶力があり、学んだことをしっかり吸収していると主張する。
「不思議な少年が見つかって保護されている」というウワサは広く伝わって、法学者や神学者、教育学者などが関心を持ってやってきて、カスパーにいろいろな検査を行ない、教育もしてみた。
言葉を覚えて話ができるようになると、闇に包まれていた彼のこれまでが明らかになる。

カスパーの記憶では、彼は暗い独房で人生を過ごしてきた。
そこは長さ約2メートル、幅2メートル、高さ1.5メートルの部屋で、藁(わら)のベッドと、馬や犬の木彫りのおもちゃがあるだけ。
毎朝、ベッドの横にパンと水が置いてあったから、彼はそれを食べていた。
ときどき水が苦く感じられることがあり、それを飲むといつもより深い眠りにつく。
目覚めるとベッドのわらは取り替えられ、髪と爪も切られていて、彼の身だしなみが整えられていたという。

Hauser claimed that he found rye bread and water next to his bed each morning. At times, the water would taste bitter and drinking it would cause him to sleep more deeply than usual. On such occasions, upon awakening, his straw had been changed and his hair and nails cut.

Kaspar Hauser 

カスパー・ハウザー

 

彼は暗い独房の中で、人と会うことなく過ごしてきた。
カスパーが生まれて初めて会った人間は、その独房から出される直前に現れた男性だった。
顔を隠したその男はカスパーをニュルンベルクへ連れて行って…、冒頭の話につながる。

結論からいうと、この少年の正体はいまでもナゾのままだ。
1833年に正体不明の人物に刃物で刺されたカスパーは、多くを語る前に亡くなったから。
ただ、彼の顔がバーデン公王族に似ているという話が出回って、カスパーはバーデン大公の後継者ではないかとウワサされていた。
この「バーデン大公後継者説」については現在にいたるまで、バーデン大公家が一族の記録の閲覧を拒否しているため確認はとれていない。
でもまあ、これが答え合わせかと。

 

この話について知人のドイツ人に聞いてみると、ドイツでは「国民の誰でも」というレベルではないが、カスパー・ハウザーはわりと有名な人らしい。
そのドイツ人も彼の正体は、バーデン大公の後継者だったとにらんでいる。
殺されることなく、世間に隠さないといけない存在だとしたら、王族の後継者が一番アヤシイと。
ドイツの歴史では、それが理由で幽閉される人もいたという。
彼はルイ14世の兄とウワサされる、フランスの「鉄仮面」を例に出してそんな話をした。

マジでいたのか鉄仮面! 仏バスティーユ監獄で死んだ謎のヒト

実際、王族の人間が社会から消されたまま存在する、という話はヨーロッパにはある。
17世紀にイギリスのジェームズ2世は甥(おい)のジェイムズ・スコットを処刑することができなくて、彼を死ぬまで監禁させたという話が伝わっている。
日本の歴史にも天皇や将軍の継承者は何人もいたけど、こういう話は聞いたことない

 

 

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日本とドイツの違い:欧州で最大&最後の宗教戦争・三十年戦争

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。