【恐怖の富士山】噴火を恐れた日本人が、過去にしてきたこと

 

日本のシンボルといえば富士山。
なんつっても山頂に雪をいただいた姿は美しく、雪を冠した富士山はもはや神々しい。
ただ日本人は富士山が大好きで、正確性にこだわる国民性のせいか、「初雪」「初雪化粧」「初冠雪」といった表現があってややこしい。

【ややこしい】富士山の初雪・初雪化粧宣言・初冠雪の違い

この山は静岡県民の自慢で、外国人の満足度がいつも高いから、富士山を見にいろんな国の人を連れて行ったことがある。
その中の一人のインド人に話を聞くと、彼は学校で習っていたから、日本へ来る前から富士山を知っていた。
地理の授業で活火山について学んでいたときに、富士山がその例として出てきたという。
日本とは関係なく、世界にある活火山のひとつとして、富士山が授業で紹介されたいうのは個人的にはなんか意外。

たしかに富士山はまだ死んでいない。
火山の噴火は21世紀の日本人にとっても衝撃的だから、それが起こるとすぐ全国ニュースになる。

 

 

富士山の噴火が初めて公式に確認されたのは奈良時代、781年のきょう7月31日。
具体的な規模は不明ながら、この年のこの日、富士山が噴火して灰が降ってきたという記録が『続日本紀』にあってこれが最古の記録になっている。
その約20年後に、貞観大噴火(869年)、宝永大噴火(1707年)と並ぶ「富士山の三大噴火」と言われる延暦大噴火が800年〜802年に発生。
「日本紀略」の記述によると、このときは噴煙のせいで昼間でも夜のように暗くなり、夜に噴火するようすは天を照らす火花のようだった。

「自去三月十四日迄四月十八日、富士山巓自焼、昼則烟気暗瞑、夜則火花照天、其声若雷、灰下如雨、山下川水皆紅色也」

この大噴火によって足柄路がふさがれてしまい、通行不可能になったから、802年に箱根路が新しくできた。
864年に貞観大噴火が発生すると、北側にあった大きな湖の「剗の海(せのうみ)」が2つに分断され、西湖と精進湖ができて現在の富士五湖が誕生した。
そしてこのときの溶岩流の上に、いまの青木ヶ原樹海がある。

きょう7月31日は、1110年に元号が天仁から天永になった日でもある。
この空に彗星が現れたから、「これは不吉の前兆では?」と当時の人びとが不安になって、災いを避けるために改元したと思われ。
もっとも1113年に「永久」へ変えられたから、天永の時代は3年しかなかった。

 

科学の知識がなかった昔の日本人は迷信を深く信じていたし、えんぎ担ぎもよくしていた。
だから、病気は怨霊や悪鬼といった「怪異」がもたらすものと考えたし、白いカメが現れると「これはめでたい!」と元号を変えた。

外国人が元号で困ること/「めでたい!」が理由の祥瑞改元

そんな人たちにとって、日本最大の活火山である富士山が恐怖の対象だったことは間違いない。
大爆発や噴煙、流れ出す溶岩を見て何も思わない方がおかしい。
富士山信仰の始まりは“恐怖”だった。
富士山が活火山として活発に活動していた古代、日本人はその荒ぶる姿に怒れる神の姿を重ねて、崇拝の対象としたのだ。
静岡県の富士宮市では縄文時代の千居遺跡(せんごいせき)が見つかって、石の並びからそこは祭祀場で、富士山信仰が行われていたと考えられている。
日本人はその時代から、あの山に恐怖や畏敬の念を持っていたのだろう。

そんな富士山はそれ自体が神格化されて、「浅間大神(あさまのおおかみ)」と呼ばれるようになる。
言い伝えによると大昔、富士山が大噴火して周辺住民が逃げ出し、荒れ果てた状態が長く続いた。それを気がかりに思った垂仁(すいにん)天皇(実在すれば3~4世紀ごろ)が、富士山の近くに浅間大神を祀って山の霊を鎮めた。
これが富士宮市にある浅間大社の起源になる。(富士山本宮浅間大社
「あさま」とは古い日本語で、火山を表すという説があるとか。
ちなみに伊勢神宮は垂仁天皇の時代に建てられたという。

 

864年に貞観大噴火が起こると京都の朝廷はその原因を、浅間社が富士山の神(浅間神)をしっかり祀っていなかったという「祭祀怠慢」によるものと考えた。
それで甲斐国でも浅間神の祭祀が行われるようになり、浅間信仰はいまの山梨サイドにも広がった。
平安時代、天皇を中心とする朝廷が富士山の噴火を、とても重大なこととみていたことが分かる。
朝廷は人間に与えていた位階を神にも授け、それは「神階」(しんい)といわれた。
浅間大社の祭神である浅間大神には、853年に「名神」(みょうじん)が授与された。名神は日本の神々のなかでも、特に選ばれた上位レベルの神にだけ与えられる”称号”だ。
同じ年に浅間大神は従三位、859年には正三位に叙せられた。
人間界では正三位に西郷隆盛や伊達政宗がいる。

こうした朝廷の思いが通じたのか、1707年の「宝永大噴火」が最後の噴火になった。
その後、噴気や地震が確認されるといった小規模な火山活動があるぐらいで、富士山はかなり安定している。
富士山の噴火史

 

激しい噴火をくり返す富士山は縄文時代から畏怖の対象とされていて、日本人は神格化して祭祀を行なったり、名誉ある地位を与えて何とか鎮めようとした。
そんな歴史も今は昔。
現在の富士山は、世界中から観光客が集まる大観光地になっている。
でも、恐怖の対象だった富士山を忘れると、「その日、人類は思い出した…」とぼう然と立ち尽くすことになりそう。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。