地名のつけ方の違い:日本人は縁起かつぎ、米国は個人から

 

そうか。
きょう9月9日は1791年にワシントン大統領へ敬意を表して、アメリカの首都がワシントン市と命名された日か。
ジョージ・ワシントンは総司令官としてアメリカ植民地軍を率いてイギリスと戦い、アメリカを独立へと導いた。
そして初代大統領にもなった彼の功績からすると、首都の名前に選ばれるのも納得。
ただ見方は人それぞれで、黒人奴隷のオーナーだったワシントンを嫌うアメリカ人もいるし、そういう人なら住みたくないかも。

そしてきょうは1850年に、カリフォルニアがアメリカの31番目の州になった日でもある。
この地名は伝説上の楽園、アマゾンの女王カラフィアの住む島・カリフォルニアに由来するという。
元をたどるとこれも人物の名前にいきつく。

アメリカではこんな感じに、特別な人物に由来する地名がよくあるのだ。
ジョージア州名はイギリスの国王・ジョージ2世にちなんで付けられたし、ノース・サウスカロライナ州も英国王・チャールズ1世から命名された。
(チャールズのラテン語名はカロラス)
ルイジアナ州はフランス王ルイ14世からだ。
そもそもアメリカという国名がアメリゴ・ヴェスプッチというイタリア人の由来している。

欧米には有名人から名付けられた空港が多い。
アメリカのジョン・F・ケネディ国際空港にワシントン・ダレス国際空港、フランスのパリ・シャルル・ド・ゴール空港、イギリスのリバプール・ジョン・レノン空港などなど山盛りだ。

歴史的に新しい町の名前をその創設者や発見者、有名人にちなんでつけられたり、古い町がそう改名されることは欧米ではよくあった。
それを「エポニム」という。

In historical times, new towns have often been named (and older communities renamed) after their founders, discoverers, or notable individuals.

Eponym

 

「日本にもそんな命名はある?」とアメリカ人から質問されて、ふと考えてみると、ある人物に敬意を表してつけられた日本の地名が思い浮かばない。
でも調べてみると、そんな地名は珍しくない。

東京の渋谷は、京都の御所に侵入して捕まった賊の渋谷権介盛国に由来し、道玄坂は同じく賊の大和田太郎道玄に由来するという説がある。(地名の由来 
乃木希典から乃木坂、オランダ人のヤン・ヨーステンから八重洲の地名が生まれた。
ただ町名がほとんどで、都道府県レベルでは一つも無いし、都市名でも見当たらない。
過去のすばらしい人間に敬意を払うことはあっても、日本では地名にその名をつける発想はあまり無いようだ。
どうも欧米では、個人を英雄視する傾向が日本よりも強い気配がする。
それに対して日本人は縁起を重視して地名をつける。

 

1ドル紙幣に描かれているワシントン
なんかぎこちない表情をしているのは、彼は歯の問題を抱えていて常に痛みを感じていたから。

 

ラシュモア山に刻まれた4人の大統領
左からワシントン、トーマス・ジェファーソン、セオドア・ルーズベルト、リンカーン

 

ここで京都クイズをひとつ。
京都にあるこの神社の名前は何でしょう?
ヒント:アニメ 『色素薄子さん 』、『鬼物語』、『名探偵コナン』で登場したところ。

 

 

京都市の北部にこの貴船神社がある。
アメリカ人とインドネシア人と京都旅行をしたとき、キレイな清流があって、日本ならではの納涼文化・川床を体験できる貴船へ彼らを連れていった。
「なあ、ここは何て言うんだ?」と聞くアメリカ人に、「貴船ってところ」と答えると、「ナルホド」と彼は納得。
「ヘイ、あの神社は何て名前なんだ?」と聞くアメリカ人に、「貴船神社といって、水の神さまを祀る神社。全国にある貴船神社の総本社だ」と言うと、彼から反応が返ってこない。
おっとここで無視ですか?と思ったら、彼は不思議そうな顔でスマホの画面に目を落としている。

「なあ、この神社はキフネじゃないのか?」
顔を上げて聞くアメリカ人に、「いやいやキブネだって。地名と同じキ・ブ・ネ」と答えると、「そうか。この地図では地名はキブネで、神社は「キフネ」と書いてあるんだが?」と画面を見せてくる。
そこには確かに「Kifune Shrine」とある。
機械は正しくてもヒトは完璧じゃない。たまにそういう記載ミスがあるんだよねーと言ってから、もしやと思って調べてみたら、正解は彼だった。
地名は「キブネ」で、「きぶねじんじゃ」と入力すると「貴船神社」と漢字変換できるのに、神社の名称は「キフネ」になっている。

この神社には水神がいるから、水が濁らないように「ブ」を「フ」に変えたからこうなったらしい。
漢字を見ると気づかないけど、英語なら一目瞭然。

日本人はよく縁起かつぎをするから、その発想からつけられた「瑞祥(ずいしょう)地名」がよくある。
「長生き」の意味で千歳、「仙人のいる台地」で仙台、「成功高大」の意味を込めて高崎という都市名が誕生した。
「キブネ」だと縁起が悪いから「キフネ」へ改名するようなケースも多い。
福井県福井市は、「北庄(きたのしょう)」の北の字が「敗北」を連想させて不吉だということから「福井」へ変えられた。
明智光秀が京都の横山を「福知山」へ変えたのは、「明智氏に福あれ」という思いからという説がある。
「亀無」という地名だと、長寿の象徴であるめでたい亀がいないということで、縁起が悪いから「亀有」になった。
東京・葛飾区にある亀有のこと。
こうした地名は日本全国にある。

【めでたい地名】日本人とキリスト教徒の発想のちがい

地名のつけ方は欧米では伝統的にポニエム、日本なら縁起をかつぐことがよくある。
どうやら日本人は平等重視で偉人であっても、特別扱いや英雄視することはあまり好きではないらしい。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。