「This will forever be one of my favorite places.」
ここはずっとお気に入りの場所になる。
「We just couldn’t stop taking pictures.」
写真を撮るのを止められなかった。
「What a memorable day.」
思い出に残る一日となりました。
そう外国人が称賛するのは日本のシンボル、富士山だ。
頂上を白く染めて、左右にスウ―ッと長く伸びる稜線を持つこの美しい山は外国人はもちろん、昔から日本人を魅了してきた。
奈良時代に 高橋 虫麻呂(たかはし の むしまろ)という歌人がいる。
「麻呂」という貴族感をなんで「虫」で打ち消すのか?
とにかく虫麻呂さんは富士山についてこんな歌を詠んだ。
「日の本の やまとの国の 鎮めとも います神かも 宝とも なれる山かも 駿河なる 不尽の高嶺は 見れど飽かぬかも」
日本(ひのもと)の国を鎮める神とも宝とえる山。駿河にある富士はどれだけ見ても飽きることがない。
美しく壮大な富士山はこんな感じに、日本人にインスピレーションを与えて和歌や小説、アニメなどで使われた。
『ルパン三世』に出てくる「峰不二子」の名前は、原作者のモンキー・パンチがたまたまカレンダーの富士山(霊峰不二)の写真を見て、その場で直感的に作られたものだ。
駿河にある富士はどれだけ見ても飽きることがないという思いは、令和の日本人も変わらない。
ただそれだけに『ゆるキャン△』を山梨にとられてしまったことは、静岡県民として痛恨の極み。
さて富士山というと、こんな「紅富士(あかふじ)」が有名だ。
葛飾北斎の浮世絵『富嶽三十六景 凱風快晴』
「富士山というと、こんな「紅富士(あかふじ)」が有名だ。」という文を見て、「オイっ」とツッコみを入れていただけただろうか?
実はこれは「あかふじ」でも、紅富士ではなくて「赤富士」のほう。
「紅富士」は雪に太陽光が当たって紅色に染まる富士山を指し、雪のない山肌に太陽光が当たって赤く見えるのを「赤富士」という。
だから上の『富嶽三十六景 凱風快晴』は赤富士が正解。
「紅富士」は山頂に雪が積もる冬を中心に見ることができ、夏から秋には地肌を照らす「赤富士」がよく見られる。
紅や赤の富士山にはそれぞれの情緒や良さがあるから、どっちも捨てがたくてスバラシイ。
自然のつくり出す造形美だから美しいのであって、これを人が意図的・計画的に、例えば山肌をペンキ赤く塗って「レッド富士」にしようとするのはサイテーだ。
太平洋戦争のとき、米軍はそんなゲスな発想をした。
1945年に米軍のOSS(戦略情報局:CIAの前身)は科学者の提案を受けて、日本人の戦意を喪失させるために富士山をペンキで赤く染める作戦を計画した。
「米軍ってバカしかいないの?」
といまなら思ってしまいそうなこの計画も、当時の米軍には効果的に見えて積極的に支持する人もいたらしい。
日本のアイコン(象徴)である富士山は、連合国と日本の両方のプロパガンダによく使われた。精神的、歴史的に深い意味を持つ日本文化の象徴であるフジヤマのイメージは、プロパガンダの強力なツールと見なされていたのだ。
「atlasobscura」という海外メディアの記事にそんなことが書いてある。(MARCH 1, 2017)
Japan’s iconic Mt. Fuji was frequently invoked in both Allied and Japanese propaganda efforts. An ingrained symbol of Japanese culture with deep spiritual and historical meaning, the image of Fujiyama was seen as a potent tool by propagandists.
The WWII Plan to Mess With the Japanese by Dyeing Mt. Fuji
これはチラシの投下やプロパガンダ放送よりも、効果的に日本人の士気を失わせることができる! かと思われた。
でも計算してみたら、富士山はアメリカ人が思っていた以上にデカく、それを真っ赤にするにはペンキが約12万トン、B29が約3万機必要で、ガソリン代を含めて約600億円かかることが判明。
それに日本政府に「獣のような非人道的行為」と逆宣伝されて、徹底抗戦の気運が高まってしまうかもしれない。
そんなこんなで非現実的だということで、「富士山赤化計画」は消え去った。(赤富士)
でも確かに、千年以上も前から「日本(ひのもと)の国を鎮める神とも宝とえる山」と称えられた富士山をペンキで真っ赤にされたら、日本人が精神的に大ショックを受けることは避けられない。
でもそんなことは、米軍でも不可能だったわけだが。
まあ原爆投下を避けられたのなら、「赤ペンキ投下大作戦」のほうが良かったかもしれない。
とにかく人知を超える、この偉大な山を赤く染められるのは昔から朝日と夕日だけなのだ。
おもしろかったです
おっ!それは良かったです!