むかしむかし、まだ日本人がウイルスなんてものを知らなかったころ、病気は悪鬼や疫病によって引き起こされると考えられていた。
不幸の原因となる鬼に豆をぶつけて家から追い出す「豆まき」の風習も、こんな発想が元ネタになっている。
マメは「魔を滅する」に通じて縁起が良いらしい。
ウイルスが発見されるまえ、人類はどんな理由で病気が起こると考えていたのか?
最近そんなことをエジプト人にメールで聞いてみた。
すると古代エジプト人は、内臓の働きが悪くなることで病気になると考えてたという。
(They thought that illness is because the internal organs that aren’t working in the right way.)
ほかにも体内で消化されない食べ物が毒素となって、苦痛を引き起こすという見方もあった。
こういう現代医学に通じる発想とは別に古代エジプトの人たちは、神や悪魔、精霊が魔法の力を借りて息を吹きかけることで病気が起こると信じていた。
(a breath from a god or a demon or a spirit with the help of magic.)
人間が(たぶん宗教的な)罪を犯したり、人の恨みを買うようなことをすると、こうした罰を受けたり精霊の力を借りた復讐が行われたという。
このへんの発想はむかしの日本人に近い。
では疫病神のような病気の神はいるのかたずねると、「それならセクメトですね」とエジプト人が言う。
画像:Jeff Dahl
ヒエログリフだとこれで「セクメト」を表す。
ライオンの頭を持ち、その上に真昼のあっつい太陽を意味する「赤円」を載せているセクメトは破壊神で復讐者、さらに王の守護神とされる。
この女神の誕生は人類にとっては悲劇だった。
人間どもが支配者である自分に抵抗するようになり、怒った太陽神ラーは人類を滅ぼしてやろう考えて、自分の片目をえぐり取ってセクメトを生み出す。
ラーの復讐として「人類抹殺」を命じられたセクメトは嬉々としてその任務を遂行し、人間にとって破壊と殺戮の女神となる。
でも、ノンストップで殺し続けるセクメトを見てほかの神々がドン引きし、「これはやりすぎでは…」とラーも不安になった。
それでセクメトに大量の酒を飲ませて、酔っ払わせたところで彼女を穏やかな女神にしたことで、人類は滅亡を免れた。
そんな神話が4000年以上前にエジプトにあったという。
セクメトは基本的に残酷非道だけど、その怒りなだめることで人々が救われるという二面性を持っている。
それで古代エジプトで、この女神は病気やケガを癒す神として信仰された。
伝染病が発生すると人びとは、セクメトが病の風を吐いて人間を殺してしまうと恐れて、呪術師である神官たちが彼女をなだめて伝染病を無くそうとした。
戦いの神としてこの世に破壊をもたらすと同時に、安定と癒しという真逆の属性を持つセクメトはキャラとしてはかなり立っている。
*東京国立博物館「セクメトのレジェンドを訪ねて」
世界四大文明の一翼を担うだけあって、古代エジプト神話は日本の疫病神よりも物語性があっておもしろい。
左手に持っている十字は生命の象徴である「アンク」。
セクメトはいろんな意味で人間の生命を握っていた。
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