【古代史の英雄】欧州のカエサル・ヤマト王権の日本武尊

 

いまから2000年ほど前、いまのフランスやベルギーなどの地域は「ガリア」と呼ばれていた。
*現在でもガリアはフランスを意味することもある。

江戸時代、日本の中心地である江戸に住んでいた人たちは、「野暮と化け物は箱根より先」なんて舐めたことを言っていた。
粋(イキ)でハイセンスな人間がいるのは箱根までで、その先(いまでいうと静岡)からはダッサイ人間や妖怪が生息しているという、かなり上から目線のエラそうな見方だ。
自分たちの住む江戸を「文明の地」、箱根から西を「未開の地」と考えるのは江戸時代の人間の感覚ならおかしくもない。

古代のローマにいた人間からしたらガリア地方も、未開の人間の住む野蛮な地に見えたと思われ。
たぶんこっちはもっとヒドイ。
そんなガリアにいた異民族を討伐し、その地をローマに組み入れるために、紀元前58年にカエサルという英雄が軍を率いて遠征に出た。

 

 

カエサルによるガリア征服戦争は紀元前58年に始まり、51年のきょう10月3日にあった「アレシアの戦い」で終わった。
これによってガリアはローマの支配下に入って、その総督となったカエサルは金・人材・資源を手に入れてより強大な存在となる。
長い間、苦楽をともにして戦った将兵たちは国(共和政ローマ)よりも、カエサルに魅力を感じて彼個人に忠誠を誓うようになり、「カエサルの軍団」が形成されていく。

でも、カエサルはパワーアップしすぎて、その強大な勢力に不安を感じたローマの元老院派は対決姿勢を強めていく。
するとカエサルも覚悟を決め、紀元前49年に「賽は投げられた」(もう後戻りはできない)という言って元老院派との内戦へ突入する。
そしてこれに勝利し、カエサルはローマの事実上の支配者となった。
でも最期は、信頼していた人物に暗殺されてこの世を去る。
「皇帝」を意味するドイツ語のカイザーやロシア語のツァーリなどは、この古代ローマの英雄に由来している。

*現代のフランスでは、ガリアの自由や独立のためにカエサルと戦った「ウェルキンゲトリクス」を英雄とする見方がある。

 

赤いトーガを着たカエサルに降伏する馬上のウェルキンゲトリクス

 

カエサルのガリア征服戦争を終わらせたアレシアの戦い。

 

日本の歴史でカエサルのような英雄を探すとしたら、それはきっと「日本武尊」(ヤマトタケル)だ。
日本武尊は『古事記』や『日本書紀』に出てくる古代の伝説的英雄で、景行(けいこう)天皇の息子にあたる。
*景行天皇は、もし実在したとしたら4世紀の人物とされる。

あまりに強く乱暴な日本武尊は景行天皇から、(おそらく奈良のあたりにあった)ヤマト王権に歯向かう九州の熊襲(クマソ)の討伐を命じられる。
そして九州に乗り込み、みごと熊襲のボスを倒してミッションコンプリート。
その帰り、日本武尊は出雲(島根)に寄って豪族の出雲建(いずもたける)をサクッと倒し、その地方もヤマト王権の支配地域にする。
*昔の日本では強い人間を「タケル」と言い、その人物のいた地方名に「タケル」をくっつけて呼んでいたらしい。となると「ヤマトタケル」は日本最強ということになる。

ガリアを征服したカエサルがローマに戻ってくると、国家としてその偉大な勝利を祝福する凱旋式が行われた。
でも景行天皇はわりと鬼で、日本武尊が帰ってくると、今度は東にいる蛮族を討ってこいと命じる。
『日本書紀』ではこのへん、日本武尊は自ら進んで遠征に出かけ、天皇に期待された彼は栄光に満ちていたと書いてある。
一方、『古事記』では、日本武尊は「父は私に早く死んでほしいと願っておられるのか…」と涙を流したという記述があって、ヤマトタケルのイメージは『記紀』で大きく違っている。
とにかく日本武尊は伊勢で伝説の剣・草薙剣をゲットして、東方遠征に出かける。
そしてなんだかんだで東国でも無双して、その地を平定してしまう。
西と東の敵を討ち取った日本武尊は、ヤマト王権の支配地域を九州から関東のあたりにまで広げることに成功する。
でも東国から帰る途中、伊吹山のあたりで病気になった彼は故郷に戻ることなく息を引き取った。

ということでカエサルも日本武尊も偉大な軍人で、国の領土拡大に貢献した古代の伝説的英雄だ。
(カエサルは100%実在した人物で、ヤマトタケルはそのへん謎)
無念の最期を迎えたという点でも2人は共通している。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。