いま日韓関係が好転している理由 韓国の歴史認識に変化アリ

 

落ちるところまで落ちて、いまや「戦後最悪」と言われるほど悪化した韓国との関係。
日本としてはその状態を改善させたいが、でも譲れない条件がある。

読売新聞が社説で指摘するこの内容は、「それよソレ」と日本政府も同意するはずだ。(2022/11/08)

だが、元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟問題を手つかずの状態にしたままでは、日韓が信頼を取り戻すことはできない。

日韓関係 尹政権は懸案の解決策を示せ

 

日韓関係を前進させるためには、それを阻害している元徴用工問題というボスをクリアしないといけない。
この問題は1965年の日韓請求権協定で、日本が韓国に計5億ドルの経済協力金を渡すことで「完全かつ最終的に解決」し、「いかなる主張もすることはできない」と両国が確認している。
だからいまさら、「だがしかし」とか言い出してはいけないのだ。
これを土台にこれまで日韓関係が築かれてきたのに、2018年に韓国最高裁がこの合意をひっくり返し、日本企業に賠償を命じたことで信頼関係は崩壊。
いまに続く「戦後最悪」の扉が開かれた瞬間だ。
この判決を「不当」と非難する読売新聞は、問題をうみ出した韓国側が日本に受け入れ可能な解決案を示して、「きちんと実行に移すことが不可欠だ」と指摘する。

日本政府もこれは韓国が解決すべき問題で、韓国政府が解決策を示さない限り、大統領との首脳会談には応じないつもりだった。
でもその態度を変えて、先月カンボジアで岸田首相と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領による日韓首脳会談を行い、徴用工問題の早期解決で一致した。

解決案の提示なしで、3年ぶりの首脳会談に日本が応じたのは、先月訪韓してユン大統領と会った麻生太郎氏の後押しだあったからだという。
このとき韓国側が見せた反応に日本側が驚いた。
その伏線は、2013年に副総理だった麻生氏が当時のパク大統領とした話し合いにある。
「歴史を直視して友好関係を築こう」と語りかけるパク氏に対し、逆に麻生紙は日韓の間では、歴史認識が一致しないことを前提に議論を進めるべきだと話したいう。
この言葉にパク氏や韓国メディアが猛反発して、その後日韓関係がギクシャクする一因になった。

でも今回、麻生氏が同じ内容の話をしたところ、ユン大統領や韓国メディアの反応はパク氏の時とは驚くほど違っていたと、朝日新聞外交専門記者の牧野 愛博氏が『現代ビジネス』の記事に書く。(2022.12.01)

賛同したかどうかはわからないが、少なくとも反発して雰囲気が険悪になることはなかった。「雑談」は非常に良い雰囲気で終わったという。
麻生氏は大いに喜んだ。帰国後、岸田首相ほか、自民党の様々な人々に、尹氏を高く評価して回った。

麻生太郎のおかげ⁉ 日韓関係の懸案「徴用工、輸出管理措置、GSOMIA」が来春には解決の可能性

 

歴史認識が一致しないことを前提に議論を進めるべきだと話したにもかかわらず、日韓の話し合いが非常に良い雰囲気で終わったというのはスゴイ変化だ。
これで麻生氏がユン大統領や韓国を高く評価して、11月13日の日韓首脳会談につながったという。

 

国が違えば価値観や見方も変わるから、歴史認識も違ってアタリマエ。
日本の韓国支配に反対し、伊藤博文を射殺した安重根は韓国では英雄でも、日本ではテロリストとされている。

これがインドなら、安重根と同じ時代に生きていて、イギリスの植民地支配に怒ってイギリスの役人を射殺して、処刑されたチャカペル兄弟と似ている。
インド人にとってチャカペル兄弟は愛国者で英雄でも、イギリスではテロリストと認識されている。
知人のインド人はそれを当然と思っていた。

【インドの安重根】チャカペル兄弟、イギリス支配に一矢報いる

1932年に昭和天皇を爆殺しようと手りゅう弾を投げて、その後処刑された李奉昌(イ・ポンチャン)という韓国人がいる。
李奉昌も日本ではテロリストで、韓国では愛国心から“義挙”を行なった英雄だ。
そんな李奉昌と似た人物に、ヴォー・ティ・サウというベトナム人がいる。
フランスに植民地支配されていた時代、手りゅう弾を投げてフランス兵を殺害し、その後捕まって処刑された。
ヴォー・ティ・サウはベトナムでは英雄でも、フランスではテロリストと認識されていることを、知人のベトナム人は当時のように認めていた。
これでフランスの見方を否定して、ベトナムに合わせようとすればケンカになることは誰でも分かる。

ベトナムの国民的英雄&”テロリスト”の少女、ヴォー・ティ・サウ

 

ナポレオンはスペインでは侵略者だけどフランスでは英雄であると、異なる2つの見方があることをスペイン人は当然と思っていた。
こんな感じに同じ歴史的事件や人物について、国によって評価が180度違うことは世界では当然のようにある。
韓国と中国でも朝鮮戦争に対する見方はまったく違う。
「歴史を直視して友好関係を築こう」と言っても、それは韓国の歴史認識に日本が合わせることを意味しているから、「歴史認識が一致しないことを前提に議論を進めるべき」と言われると韓国側は怒り出す。
「真実は一つ」とか言いながら、日本の見方を否定して、自分たちの歴史認識を日本人に受け入れさせようとしても、それはうまくいかない。
国際社会は相互主義が基本で、自分の見方と違っていても相手の立場は尊重されるから、世界中の人が他国との歴史認識の不一致を認めていて、自分の認識に合わせることを相手には求めない。
でも韓国は、たとえば安重根や李奉昌について「英雄でありテロリスト」という歴史の両論併記を認めない。
不一致のままでいいものを無理に一致させようとするから、日本の反発を呼んで日韓関係はうまくいかくなる。

でもいまのユン大統領は違うから、麻生氏はそれを高く評価して日韓首脳会談に結びついた。
麻生氏が喜んだように、日本の立場を認める空気が韓国側で生まれているのなら、それはとてもいいことだ。

ただ、冒頭の読売新聞の社説にはこうも書いてある。

韓国ではこれまで、内政が行き詰まると対日強硬路線を掲げ、挽回しようとする政権も多かった。日本は、韓国の政治情勢を慎重に見極める必要がある。

 

半年後や1年後、さらには政権が変わると、韓国の雰囲気も変わってくるかもしれない。
だから一喜一憂してはいけないとしても、ユン大統領は徴用工問題でも日本の主張に耳を傾けているし(少なくともブン前政権に比べれば)、いまの韓国には明らかにこれまでとは違う。
だから首脳会談が実現したし、日韓関係も少しずつ好転している。
「歴史認識は一致しない」ということで日韓が一致すれば関係も大きく変わるのだけど、それには時間がまだまだかかりそう。

 

 

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2 件のコメント

  • そうです。
    元徴用工訴訟問題を戻してこそ円満な韓日関係復元が開始されるでしょう。
    尹政権も取り戻したいと思いますが、国内の世論のせいで進退両難でしょう。徴用工問題を日本の立場に同意するためには、韓国内の世論を好意的に導かなければならないが、尹政権はそれほどのリーダーシップを持っておらず、反対側左派の反発は激しいでしょう。文字通り”進退両難”ですよね。この課業を完遂できる人物はユンではないと思います。強力な右派のリーダーシップを発揮し、国民の共感を得られる指導者はまだ韓国にはいません。
    ユンも結局はムンの手下出身なので限界が明らかです。

  • たしかに国内を納得させることは至難の業でしょうね。
    でもいまのところ、それができる可能性が最も高いのは伊大統領と思います。
    元徴用工問題も現金化というレッドラインを越えなければいいので、これからも時間稼ぎがつづきそうです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。