日本人になら言える? “ヒトラー批判”でドイツ人に不満あり

 

「おまえは〇〇のようなヤツだ!」

相手を怒らせるために言うのこのセリフの中の、「〇〇」に入る人物は国によってそれぞれ違う。
でも、全世界で共通するのが「ヒトラー」だ。
1つの国家がユダヤ人という民族の抹殺を計画し、強制収容所を建設して毒ガスや銃殺、奴隷のような重労働などによって600万人を虐殺した。
人類史にはいろいろ巨悪があったけれど、このホロコーストは別格。
だから世界中の政治家にとって、人種差別主義者で虐殺者のヒトラーと重ねられることは最大級の侮辱や嫌がらせになる。

最近、ロシアのラブロフ外相がそれをやってアメリカを激怒させた。

中央日報の記事(2023.01.19)

ロシア外相、米国をヒトラーに例える…米国「反応する価値ない」

このロシア外相の理論によると、いまアメリカはウクライナを自分の”コマ”として利用し、ロシアと戦わせている。これは、ヒトラーが全ユダヤ人の殺害を決めた「ユダヤ人問題の最終的解決」と同じで、アメリカのバイデン政権は「ロシア問題の最終的解決」を実行している。

アメリカがウクライナを使って、ロシア人を「大量虐殺」しているという理論が通じるのはロシアだけで、世界の一般的な見方からすると、「…などと外相は意味不明の供述をしており~」となる。
これに対してアメリカ側は「反応する価値ない」と言いつつ、「一体どうしてホロコーストになぞらえるのか。そもそも自分たちで始めた戦争ではないか」と強く反応した。
ただ人は、自分が最も言われたくない言葉を悪口に選ぶから、ロシアをヒトラーやナチスにたとえられることは、ロシアとしては絶対に許せないということでもある。
「おまえはヒトラーのようなヤツだ!」は、全世界の政治家に対する絶対的な禁句なのだ。

 

こんな感じに、70年以上前に自殺したヒトラーはいまでも世界で最も邪悪な存在とされていて、圧倒的な負の影響力を持っている。
そんなヒトラーについて、ドイツ人はどう思っているのか?
知人に20代のドイツ人男性がいて、きょねん歴史の話をしている時、それについて彼の意見を聞いてみた。
すると、「ホロコーストはウソだ。あれはでっち上げだ!」という人間も例外的にいるらしいのだけど、彼は「ヒトラーは人間として、絶対に許されないことをした。学校で繰り返しそうならったし、この負の歴史は、これからも教え続けていく必要があるだろうね」と話す。
ただ、ヒトラーが悪魔だったことは認めるとしても、あのユダヤ虐殺を100%ドイツの責任にして、一方的に非難するヨーロッパ人がいるから、彼としてはそれには不満を感じるという。

というのは、ユダヤ人への蔑視や差別意識はドイツ人だけでなくて、他の多くのヨーロッパ人も持っていたから。

ヨーロッパでは昔から、ユダヤ人に対する敵意や憎悪、差別といった「反ユダヤ主義」があった。
ホロコーストの50年ほど前、1895年にフランスでドレフュスが軍人としての地位をはく奪され、悪魔島での終身刑を宣告される「ドレフュス事件」が起こった。
ユダヤ人の彼はドイツのスパイとして逮捕されて、有罪判決を受けたものの、後で真犯人が判明して、これはフランス当局によるでっち上げだったことが判明する。
ユダヤ人というだけで、こんなムゴイ仕打ちを受けてしまう。
このドレフュス事件を取材していたユダヤ人のヘルツルは、フランスにあるユダヤ人に対する差別や偏見に接して、キリスト教徒を中心とする社会での共存は不可能だと思い、ユダヤ人国家の建設を考えるようになる。
これがシオニズム運動につながり、1948年にイスラエルが誕生した。

第一次世界大戦が起こる前から、ユダヤ人にこう思わせるようなイヤな空気がヨーロッパにあった。
だからナチスがヨーロッパの都市を占領すると、そこで隠れ住んでいたユダヤ人の情報をナチスへ密告する人間が出てくる。
ナチスに協力したヨーロッパ人は少なからずいて、フランスでは「コラボラシオン」という人たちが有名だ。
もちろんこれと反対に、命がけでユダヤ人を守った勇者もいた。

 

話を知人のドイツ人に戻そう。
ナチス占領下のヨーロッパには、ナチスの共犯者と言っていい人たちが各地にいた。
その事実を認めたうえで、ヒトラーやナチスを批判するのならいいが、それは華麗にスルーして、一方的にドイツを批判するヨーロッパ人には彼としては腹が立つ。
でも、ホロコーストという最悪のことをしたドイツ人の立場としては、ヒトラーやナチスへの批判には反論しにくい。「いやお前らだって…」と言いたい気持ちはあっても、それはなかなか口にできないらしい。
他国が「おまえはヒトラーのようなヤツだ!」とののしり合っていても、ドイツはきっと何も言えない。

その点、日本はまったく違う。
ヨーロッパ社会に共通してあった「反ユダヤ主義」とは関係ない国だから、他のヨーロッパ人には言えないような不満も、彼としては日本人になら言いいやすい。
ヒトラーのしたことが最大悪だとしても、それをアシストした人間は他国にもいた。
となると、ユダヤ人虐殺のすべての責任を押し付けられたとしたら、ドイツ人が腹立つ気持ちも分からんでもない。
そんな面倒くさいことを考えると、日本がホロコーストに加担していなかったことはホントによかった。

 

パリでは戦後、ナチスに協力していたフランス人女性が捕まって、見せしめとして公開で丸刈りにされ街を歩かされた。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。