黒人への“ニガー”、中国人への“支那”が侮辱語になったわけ

 

他の地域の日本人からしたら、青森の人があやつる「津軽弁」はもはや異国の言葉に聞こえるらしい。
青森でラーメン店へ行ったら激込みで、並んで順番を待っていた人が店員から「迷惑だ」と言われたから、「なんだその態度は!」と怒って出て行く。
それで青森では客に、こんなことを言うのが当たり前なのでしょうか?とネットで質問する人がいた。
するとどこぞの津軽弁使いから、「ごめんなさい」の意味で「めやぐ(迷惑)」という言葉があるから、「待たせてしまってすみません」の意味で店員は「めやぐ」と言ったのだろうと返事がくる。

でもまあ良いのだよ、このぐらいなら。
何でもない言葉が外国人には差別語に聞こえて、侮辱されたと誤解されると、とんでもない悲劇が起こる。

 

全世界で、特にアメリカで、絶対に言ってはいけない言葉が黒人への差別語となる「ニガー(nigger)」。
ニューヨーク市では条例によってこの言葉の使用が禁止されているし、このひと言を言えば、次の日に会社から解雇を言い渡されても文句は言えない。
新庄剛志さんがニューヨーク・メッツでプレーをしていたころ、コーヒーを飲んで「にがーっ!」(苦い)と言ったところ、「nigger」と侮辱されたと誤解した黒人選手に殴られそうになったという話がある。

【差別に超敏感】黒人を怒らせたファッション・日本語

 

まえに中国人にそんな話をしたら、2016年に中国でもそんなことがあったという。
その映像がこれで、地下鉄に乗っていた中国人の男性が黒人男性にぶったたかれている。
*わりとショッキングな映像なので、お覚悟を。

 

 

中国メディア「CGTN」の報道によると、この暴行事件の原因はどうやら「聞き間違い」だ。
黒人男性は「ニガー」と呼ばれて侮辱されたと主張しているけど、実際には、この中国人が北京語か広東語で言った問題のない言葉を「nigger」とカン違いしたらしい。
(にしてもここまで殴るか?)

ラテン語の「黒い」という言葉に由来する「nigger」には、もともとは差別や侮辱の意味はなく、中立的な言葉だった。
でも奴隷貿易が行われていたころに、意味合いが変わってきた。
この言葉は18世紀半ば以降、白人が黒人を軽蔑するようなニュアンスを帯びてきて、19世紀半ばには、あからさまな中傷の言葉となる。

Building up on these mildly disparaging social meanings, the word took on a derogatory connotation from the mid-18th century onward, to the extent that it had “degenerated into an overt slur” by the middle of the 19th century.

Nigger 

 

1901年に大統領が黒人指導者を晩餐会に招くと、一部の白人層がこれに激怒し、「ニガーとメシを食うとは前例のない言語道断の暴挙」と報道する新聞もあった。
それでも20世紀後半までは、差別や侮辱の意味ではなく、中立的な意味で「nigger」使い続ける人もいたが、21世紀のいまでは一発アウトの禁句となる。
その過程はこの言葉と似ている。

 

 

伊豆に来た台湾人女性と一緒にいて、それまでニコニコしていた彼女がこれを見て、一瞬で笑顔が消えて不快そうな顔になる。

中国を意味する「支那」は古代の王朝の「秦」に由来して、英語の「チャイナ」と同じ語源といわれる。
江戸時代に日本で広がったこの言葉には、もともとは侮辱や差別のニュアンスはなく、中立的な意味でフツウに「中国」を指す言葉だったから、この当時は使っても問題はなかった。
でも1840年のアヘン戦争でイギリスに、1894年の日清戦争で日本に負けたりしたことで、日本人の使う「支那」には侮辱や軽蔑のニュアンスがでてきたという。
ただ日清戦争の後にも「日支(日中)親善」という言葉があったから、「支那」は悪い意味だけで使われていたわけではない。

でも、1937年に日中戦争が始まってからは、日本人の言う「支那」には敵意や悪意、蔑視の属性が強くつけられていく。
そして戦後、中国人はこの言葉を侮辱的だと嫌がり、中華民国の蔣介石は「今後は我が国を中華民国と呼び、略称は中国」とするよう求めると、日本もそれを受け入れて「支那」は禁句となる。
その後、政治家やテレビやラジオの出演者がこの言葉が使うことはなくなり(例外はいる)、支那事変は日中戦争、支那竹はメンマ、支那そばはラーメンと言い換えれるようになった。
でもいまでも、「支那そば」の文字を掲げる店もある。
知人の中国人はそれを見ると、戦争中の日本を連想して嫌な気持ちになると言う。

ということで「nigger」も「支那」も、はじめは中立的な言葉で問題ナシだったけど、後から侮辱的な意味合いがつけられたことによって、いまでは使用禁止の言葉となった。
特に前者は殴られるレベルで。
悪意を持って使うと、別の言葉に変質していく過程は両方ともよく似ている。

 

 

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2 件のコメント

  • 「支那」は中国への侮蔑語になったが、「東シナ海」や「インドシナ」は侮蔑語にならないようだ。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。