事件をうみ出す腐敗 在比日本人が見たフィリピン社会の闇

 

フィリピンの収容所から4人の「クズ」が日本に送還された。
これで、被害額は少なくとも60億円以上、逮捕者は70人以上にもなった今回の特殊詐欺と広域強盗事件は終了したか、かなり終わりに近づいた。
一人暮らしのおばあさんの家に侵入し、結束バンドで両腕を縛ったうえで、死ぬまで殴る蹴るの暴行をくり返したり、金や金目の物を奪ったりする。
日本では前代未聞レベルのこんな凶悪事件は、一体どうやって可能になったのか?

読売新聞の社説がその背景を指摘する。(2023/02/10)

4人がいたフィリピンの入管施設では、職員に賄賂を渡せば何でも手に入り、スマホも使えたという。(中略)汚職のはびこる施設で、4人が強盗の実行役らに指示を出し、日本で次々と事件を起こさせたとすれば、極めて深刻な事態だ。

闇バイト強盗 スマホの分析で全貌解明急げ

 

警視庁が2019年に逮捕状を取って以来、フィリピン側に身柄の引き渡しを要求していたのに、それが実現できずにいて、その間に4人はスマホを使って、特殊詐欺や強盗の指示を与えていたわけだ。
3年7カ月もこんな状態が続いて、今回日本が”本気”で動いたら、一週間ほどで全員が日本へ強制送還されたのだから、国内では警察への批判が強い。

マルコス大統領が国賓として来日する予定だったし、フィリピンにも国家のメンツがあるから、”日本の本気”だけがその理由じゃないけれど。

そのことを会見で問われた谷国家公安委員長は、警察も早期送還のために努力してきたが、「結果として実現できなかったのは残念」と話す。
「なら仕方ない」というの関係者ぐらいで、あれだけの悪行を「残念」のワードで片付けられる国民はまずいない。

フィリピン側に対しては、収容所の職員にカネを渡せば何でも手に入ったという、「汚職のはびこる施設」が犯行を結果的にアシストしたという声も多い。
テレビ番組でそこが「犯罪の温床になっている」、「犯罪の巣窟になっている」と怒る識者もいた。
いちばん悪いのはこの「クズ4」なのは言うまでもないとして、ワイロをもらって規則違反を黙認し、スマホを使える環境を提供したこの収容所の職員も”共犯者”といえる。
一般の日本人ならそんな施設とは一生縁がないから、そんな環境をうみ出すフィリピン社会を知っておいたほうがいい。
フィリピンに住む日本人にSNSで「汚職や腐敗」について聞いてみると、やっぱり日本とは常識や価値観が違った。

・フィリピンは超格差社会で、小学生のころから貧富による差別があります。
ノート、鉛筆、誕生日プレゼントを買えないような貧しい家の子供は、クラスで同級生や先生からも“ハブ”にされます。
そんな差別を身近で見て育つ子供も多いので、拝金主義はこの国の社会の根深いところにあります。

・ストリートチャイルドを仕切っているのは警察。
ワイロやコミションのシステムは国民みんなが知ってるし、国全体で黙認されている。
金が無いと何もできないし、あればできないことはない。
フィリピンでそんな風潮が生まれたのはアメリカが来てから。

・レストランで近くの席にいた高校生の会話が聞こえてきました。
新しいスマホを買いたいけどお金がないと1人が言うと、友だちが「腎臓でも売る?」と言っていました。
もちろんジョークでしょうけど、子供の口からサラリとこんなことが出てくるのはビックリです。

・2016年に公開された映画「ローサは密告された」を見てください。
あれは映画ですけど、フィリピンの現実です。

*マニラのスラム街で暮らす女性ローサは、夫と小さなお店を経営していて、子供を育てるために店で「アイス」(覚醒剤の隠語)を売っていた。
でもある日、密告されたローサ夫婦は警察に逮捕されて、乱暴な取り調べを受けたうえにとんでもない額の保釈金を要求される。
警察は腐敗していて、押収した薬物を売り飛ばす、没収した金でパーティーを楽しむという状態。
両親の釈放のために、子供たちは親族に借金のお願いをしたり家電を売ったり、体を売ったりする。
それでもおカネはまだ足りない…。
ネタバレになるから、続きは映画で。

 

どこの社会にも光と闇がある。
話を聞いた在比日本人は、フィリピン人は明るくてフレンドリーだし、社会には開放感があるからそこでの滞在を気に入っていた。
でもそれは、前代未聞の事件をうんだダークサイドとセットになっている。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。