親日アメリカ人が日本で経験した、嫌いな/好きな花見

 

本格的な花見シーズンになった。

サクラはもちろんとして、花見を楽しむ日本人のようすも昔から外国人には印象的だったらしい。
明治時代に来日したアメリカ人女性のシドモアは旅行記にこう書いた。

たとえ何でも陰鬱な冬に逆戻りしても、日本全国、白とピンクの花環で彩られるまで、じっと堪えます。栄光の四月、満開の花の雲、桜の爆発で帝の国は歓喜に包まれます

「シドモア日本紀行: 明治の人力車ツアー (講談社学術文庫) 」

全米桜祭りが生まれるきっかけをつくった親日家のシドモア

 

でも、好意的な反応だけじゃなくて、日本の花見を経験してガッカリするアメリカ人もいる。

知人の20代のアメリカ人女性は日本が好きで、日本語を学んで来日した後、静岡県の小中学校で英語を教えていた。
日本について、その女性にとって魅力的な部分は「わび・さび」の美意識。
アメリカには豪華でハデなものが多いから、古さを感じさせても清潔で、余分なモノを取っ払って、簡素で静かで美しい「わび・さび」の空間は日本人の独特の感性を表している。
京都の苔寺へ行った時にそれを強く感じて、そこは彼女のお気に入りの場所になった。

そんな価値観をもっているアメリカ人が、日本人の同僚に花見に誘われてから参加してみた。
朝8時に迎えに来るという連絡を受けたから、「土曜日にそれはちょっと早いな~」と言ってみたものの、そこは有名な花見スポットだから、このぐらいは仕方ないと言われてあきらめる。
当時の朝、昨夜遅くまでネットで映画を見ていたから、眠い目をこすりながら友人の車に乗り込んだ。
そこまではいい。
目的地だった公園の駐車場に入るまで、想像を超えた車の列があって、車を停めるまでに1時間ぐらいかかったから、リラックスするために来たつもりが、その時点で疲れて意味不明になる。
その公園ではすでに仲間が花見をしている。
彼らは場所取りのために、朝5時にここにきてピクニックシートを敷いたという話を聞いて、「えっ?なんて?」と二度聞きした彼女は、日米では「ピクニック」の概念が違うことを知る。
年功序列という日本の職場の伝統によって、新人が朝、ド早く起きて場所取りをするという感覚にはついていけないし、自分なら130%確実に断る。

そこでの花見が彼女にとって、「思ってたのと違う」と残念に感じた理由はおもに2つだ。

・「わび・さび」がない。

その公園には100本以上の桜があって、とってもゴージャスで目を見張るような壮観な景色だったから、ワビやサビの要素がまったくない。
桜の花はたしかに美しいけど、これでは数が多すぎる。
彼女としては2、3本の桜の木があって、それに集中できるほうがよかった。
それに公園にはおびただしいほどの群衆がいて、黒い頭ばかりで芝生の緑がほとんど見えない。
自然に囲まれた環境で桜を見たかったのに、花見客が多ぎて雰囲気は台なしで、わびやさび、それと「もののあわれ」といった日本の情感がどこにもない。

 

・礼儀正しい日本人はどこへ?

アメリカにいた時は公園でアルコールを飲んだ経験がなかったから、お酒が好きな彼女にとって、外で堂々と飲酒ができる花見はある意味パラダイス。
ただ、イス文化で育ったから、シートの上に座っているのはそれだけで疲れてしまう。
だから、フリスビーで遊んで体を動かしたいところだけど、ここはひと・人・ヒトの洪水で、そんなスペースなんてどこにもない。
アメリカ人と違って日本人のすごくいいところは、電車やバスなど公共の場所では、周囲の人に配慮して静かに行動するところ。
でもここには、そんな日本人のイメージをぶち壊す人が多すぎる。
グループ間の距離が近いのに大声で話をする人がいたり、そこらじゅうから爆笑が聞こえてきたりして、とにかくやかましい。
アメリカ人よりはマシだけど、ゴミがそこらじゅうに落ちていることにも幻滅。
肉体的・精神的に疲労を感じた彼女は、散歩がてら桜を見に行こうとグループから離れて人気のないところへ行く。そしたら、そこにはゲーゲー吐いてる人がいて、自分史上、最悪に近い光景を見てしまった。
*アメリカでは、公共の場で泥酔してるのはホームレスぐらいらしい。
自分が好きだった日本人の美点はここでは消滅している。

そのアメリカ人が点数を付けるとしたら、このとき経験した花見は100点満点で55点ってところ。
ワビやサビは感じられなかったし、日本人のイヤなところも目立ったけど、桜はキレイだったし料理もおいしかったから、全体的にはかろうじて「good」のゾーンに入る。
でも、一度で十分で次はない。
有名スポットではなくて、数本の桜の木がある静かな雰囲気の公園に行って食べて飲んで、花をじっくり観賞したり、簡単なスポーツで体を動かせるような花見なら大歓迎らしい。

 

 

そんなアメリカ人が「すっごく良かった!」と絶賛した花見は、夜の浜松城公園の散歩。
この場合の花見は飲食抜きで、お城や日本庭園を歩きながら桜を見ること。
人が少ないから、スマホのシャッター音が響くほど静かな雰囲気で、周囲の雑音に気を取られずにじっくり桜の花を愛でることができる。
こういう花見ならいい。

でも、上には上があった。
彼女が日本にいた時に見た桜の中で、最高に良かったのは静岡県島田市にある「牛代(うしんしろ)のみずめ桜」だ。
茶畑の中に桜の木が一本だけある。
だから、桜の美しさを十分に伝わったし、とても静かで平和的で、ワビ・サビや「もののあわれ」を感じることもできた。
これ以上の花見をそのアメリカ人は知らない。

 

これはたしかに上野公園の花見とは違う。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。