江戸時代にはこんな諺(ことわざ)があった。
「野暮と化物は箱根から先」
日本の中心である江戸から東へ行くほど、文明の光から遠ざかっていって、箱根を越えると野暮な人間とバケモノが現れる。
いまの東京人は知らないけど、京都人はこれに近い考え方をうっすらと持っている気がする。
むかしの日本人は程度の差はあれ、化物・妖怪・幽霊といった怪異の存在を信じていて、”共存している”と言っていいほど人びとにとって身近な妖怪もいた。
たとえばこの「豆富小僧」(とうふこぞう)だ。
子供の姿をした豆腐小僧は江戸時代に“いた”妖怪で、お盆にのせた豆腐を持って歩き回る。以上。
都市部に出没して人間の後をつけるストーカーみたいなことをするが、しょせんはトーフボーイ、あやしくても危険じゃないから人間から相手にされない。
気弱で非力で、ほかの妖怪にいじめられることもある豆富小僧は日本の妖怪界でも最弱レベル。
くわしいことは「豆腐小僧」で。
一つ目バージョンの豆富小僧だと、街中で出会ったら悲鳴を上げる自信がある。
さて話は内戦中のシリアだ。
最近はその状況も落ち着いてきて、すし屋をオープンしたロシア人戦闘員もいる。
そんな国から脱出し、いまは海外に住んでいて、日本に興味があるというシリア人男性と知り合った。
そんな彼に日本の妖怪について感想を聞いてみたから、これからその内容を紹介しよう。
でもその前に、日本ではほとんど知られていないこの国の基本を確認しておこう。
面積:18.5万平方キロメートル(日本の約半分)
人口:2,156万人
首都:ダマスカス
人種・民族:アラブ人:約75%、クルド人:約10%、アルメニア人等その他:約15%
公用語:アラビア語
宗教:イスラム教:87%(スンニー派 74%、アラウィ派、シーア派など 13%)、キリスト教:10%、ドルーズ派:3%
ソース:外務省ホームページ「シリア・アラブ共和国」
ということでシリア国民のほとんどはアラブ人のイスラム教徒で、話を聞いたシリア人もその一人。
日本の妖怪はすでに海外デビューをしていて、英語版ウィキベテアには、日本の民間伝承に出てくる超自然的な存在や霊の一種と説明されている。(Yōkai)
事前にそのリンクを見てもらって、ある程度の知識を得たシリア人に聞くと、日本の妖怪は「反イスラム」だった。
イスラム教の聖書クルアーン(コーラン)にそんなモノは出てこないし、怪異の存在を信じることはイスラム教の考え方に反する。
*ここでの話は彼の個人的な意見ですよ。
シリアにもそんな怪異談はあって、子供が長い首をもつ化物とかを信じて恐怖することはある。
でも、それが許されるのは子供だけ。
大人になれば普通はアッラーだけを信じるようになって、不思議なモノの存在は否定されるから、大人がそんなことを言うと、反イスラム的な発想とまわりの人から怒られる。
化物なんてすべてウソで、そんな存在を信じてしまうのはアッラーへの信心が足りない証拠。
イスラム教を深く学べば、すべての迷信から解放される。
イスラム世界では妖怪に似た存在として「ジン」がいる。
蛇、巨人、美女などに姿を変えることができる、とんでもない怪力を持っている、空を飛ぶことできるというジンは、人間以上の能力を持っているが神には遠く及ばない。
アニメやゲームのキャラで登場する炎の魔神・イフリートの元ネタがこのジンだ。
そういえば、天狗を知った知人のトルコ人が連想したのもコレだった。
妖怪と同じように、おそろしいジンが多い一方で、人間に良いことをするやさしいジンもいる。
妖怪とは違って、クルアーンにその記述があるからジンは実在する。
ジンは人の目には見えないと言われているけれど、祖母は見たと言っていたから、実態はよく分からない。
まえに読んだ本によるとジンは歴史的には、イスラム教が登場する前のアラビアにあった信仰の名残で、イスラム化すると同時に取り込まれた。そしていまでも大麻を吸えば、ジンを見ることができる。
「日本ではどんな時に妖怪と出会うんだ」と彼から質問されたんで、昼と夜が入れ替わる夕方になると、魔と逢(あ)いやすくなる「逢魔時」(おうまがとき)という時間が日本にあると伝えた。
シリア(イスラム教)の場合、イスラム教徒であることをやめる(棄教する)とか、クルアーンをトイレに捨てるといった悪いことをするとジンに襲われる。
でも、イスラム教徒として正しい生活をしていれば、ジンがやってくることはない。
そういう悪い人間に対して、ジンは離婚や病気といった不幸をもたらす。
だからアッラーを深く信じていれば、ジンは何もしないし恐い存在でもない。
そんなシリア人に最後に豆腐小僧について聞いたら、
「スゴイな!日本にはその時代からウーバーイーツがあったのか!」
と感心された。
違うのだよ価値観が。イスラム教徒が“柔道の礼”を拒否するワケ
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