いまネットで「尊敬する偉人ランキング」を見たら、
１位：坂本龍馬
２位：織田信長
３位：杉原千畝
という結果があった。
こうしたランキングにはいろんなツッコミがあるだろうけど、海外のように「それはウチの国の偉人だ！」という指摘は日本ならない。
2006年にドイツのテレビ局が「史上もっとも偉大なドイツ人は誰か？」というアンケートをおこなう。
その際、モーツァルトをノミネートしたことにオーストリア大使館が怒って「それは違う。モーツァルトはザルツブルクに生まれてウィーンで暮らした」と抗議すると、「当時はオーストリアという国はなかった」とドイツのテレビ局が言い返して議論になった。
18世紀の大音楽家、モーツァルト
ドイツとオーストリアは昔は神聖ローマ帝国という大きな国の中にあって、どっちもドイツ語を話すから、「モーツァルトは何人だ？」といった複雑なことが起こる。
そんな事情に興味を持ったんで、ドイツに住んでいる日本人に中立的な立場から、両国の意見について聞いてみたからこれからそれを紹介していこう。
・同じ言葉を話すからといって、オーストリアの人たちは「ドイツ人」とひとまとめにされるのは不愉快でしょう。
プロイセンとバイエルンは敵国どうしで、ドイツとして統一されたのは明治時代です。
言葉や文化からすると、バイエルンはドイツよりもオーストリアに近いですから、ドイツとオーストリアの境をどこでつけるかもむずかしいです。
・おたがいそんなに意識してないんじゃないかな？
ただドイツはわりと新しい国だから、歴史上の偉人をあげるとドイツ系の国の人物をすべて「ドイツ人」としてカウントするところがあります。
まあ広義には、オーストリア人もドイツ人に含めて間違いではないですけど。
近ごろはバイエルンがドイツから独立するとか、オーストリアに入るべきと主張をする人もいます。
・ドイツ人にはオーストリア人を下に見る傾向があるらしいです。
ウィーンの居酒屋でおこなわれる劇では、オーストリア人が話す”変なドイツ語”を聞いてドイツ人の客が喜んでいると聞きました。
戦前のドイツ・オーストリアの併合（1938年のアンシュルス）は、どちらかというとドイツよりオーストリ側のほうが強く望んでいたとか。
・ザルツブルクに行った時、現地を案内してくれたオーストリア人と食事したら「ドイツのビールなんか飲めるか！」と言ってました。
オーストリア人としては、ドイツ帝国が成立した時の不満がまだあるのでは？
・オーストリア国内を見ても一枚岩ではありません。
チロル地方には、首都ウィーンへの反発が少なからずあります。
・同じドイツ語圏でも北側は白ブタ、南側は田舎者と言われたそうです。80年代に聞いた話ですが。
・そういう対立は隣国あるある、だと思います。
ショパンはポーランド人ですが、フランス人と思っている人は多いです。特にフランス人は。
・ドイツ人に対するオーストリア人の、敵意のような複雑な感情についてはまえから聞いていました。
それでウィーンに住むようになってから、親しいオーストリア人に尋ねたことがあります。
「そういう感情があるにはあるけど、大したものでもない」と彼らはわりと素っ気なく言います。
逆に、相手を強く意識しているのかな、と感じました。
・ドイツ国内にも地域差はあります。
南部のシュトゥットガルトの駅には「私たちは自動車も作れるし（ベンツやポルシェの本社がある）、何でもできる。できないのはドイツ語だけだ」と書いてありました。
北ドイツの人間からすると、ここのドイツ語はよくわからんそうです。
・シュッガルトへ行ったら、このあたりの人は「アルプス人」と言うと聞きました。
ドイツの中でも独特の言葉を話すらしくて。
・ドイツ内でもベルリン人、ウィーン人、バイエルン人などいろんな「〇〇人」がいます。
オーストリアの中では、ウィーンの人が自分たちを別格と思っているから、ザルツブルク人やグラーツ人など地方の人たちが反感を持っているとか。
・ドイツやオースリアにはたくさんの小国がありました。
統一して国家が成立するのが遅かったから、いまでも「自分は〇〇人」という感覚があるのでしょう。
・対抗意識があるんじゃないですか？
イギリスでもイングランドと一緒にされると、スコットランド人やウエールズ人が怒ります。
まえに会ったローマ出身の人は「自分はイタリア人じゃない。ローマ人だ！」と言っていました。
国の力としてはドイツには勝てませんから、オーストリアの人たちには対抗心があると思います。
さいわい日本にはよその国と「この偉人はうちのモンだ！」、「いいや違うね！」といった争いがないわけでもない。
孫基禎（ソン ギジョン、そん きてい）をめぐって韓国はそんな主張をしている。
でも、何かあるたびに国境がコロコロ変わる大陸の国と島国では、「隣国」のとらえ方が根本的に違うのだ。
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