知人のイラン人は東京に住んでいたことがあって、母国にいるいまでも日本が大好きだ。
そんな彼が最近、SNSでイラン政府がロシアを支持していることに怒りを表明した。
その理由は、ロシアがアラビア湾という「フェイク名」を使っているからだと。
このイラン人にとっての正解は、読売新聞の記事にあるこの言葉だ。(2023/07/15)
日本とペルシャ湾岸6か国のFTA交渉、来年中の再開で合意へ…貿易・エネルギー安保を強化
ペルシャ湾岸にはサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、バーレーン、オマーン、クウェートの6か国で構成される 「湾岸協力会議(GCC)」がある。
日本は GCCとの自由貿易協定(FTA)について、交渉を再開する方向で調整に入ったらしい。
まぁそれは粛々やってくれたらいいとして、ここでの問題は、アラビア半島とイランの間にある巨大な湾の名前だ。
「ペルシャ湾」と書かれた18世紀の地図
この湾の国際的な呼称は「ペルシャ湾(Persian Gulf)」で、イランでも日本でもそう呼ばれている。
でも、サウジアラビアやUAE、カタールなどのアラブ諸国の立場では、「アラビア湾(Arabian Gulf)」になるのだ。
イラン側はこの呼称を否定し、古代ギリシャの地理学者ストラボンやプトレマイオスも「ペルシャ湾」という名称を使っていて、これが歴史的に正しい呼称だと主張する。
一方、アラブ諸国はこの湾の名称に、特定の国名が付けられるのは適切ではなく、周辺には多くのアラブ人が住んでいることから、この湾は「アラビア湾」であるべきだと主張している。
これに対してイランは、「アラビア湾」は政治的に”ねつ造”されたものだと非難し…と、この湾の名称をめぐるバトルには終わりが見えない。
(ペルシア湾呼称問題)
イランとアラブ諸国には次のような違いがある。
イラン:ペルシャ民族、イスラム教のシーア派、反米
アラブ諸国:アラブ民族、イスラム教のスンニ派、アメリカと友好的
イランとアラブ諸国は民族や宗教が違うから、歴史的に対立することが多く、現代もアメリカへの立場の違いから政治的な摩擦がある。
お互いに相手を嫌う気持ちがあるから、地図上で名前さえ見たくない。
2016年にオマーン航空が機内地図で「ペルシャ湾」と表記したことが問題になると、オマーン航空はすぐに謝罪し、その表記は使用しないと発表した。
このシステムを運用していたのはパナソニックで、地図表記の変更を要請されたから、この呼称問題は日本も他人事ではない。
ちなみに2010年にはイラン政府が、機内地図に「アラビア湾」を採用している航空会社に対し、領空の通過を認めないと述べた。
しかし、ことしの春ごろ、イランとサウジアラビアが外交関係を正常化することで合意した。
この雪解けが「ペルシャ湾 VS アラビア湾」のバトルにどんな影響を与えるかは、アッラーのみぞ知る。
冒頭のイラン人は「ペルシャ湾」が正しい呼称と強調し、それを使う日本人を尊敬するし、好きだと言う。
このリップサービスは、これからも日本はその呼び方を使い続けてほしいという願いの裏返しでもある。
そんな親日的なイラン人には悪いけど、日本人がアラブ人と話す際には「アラビア湾」を採用した方がいい。
多様性のある国際社会を生きるには知識&柔軟性が重要だ。
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