日本とアメリカでは、原爆投下に対する立場が180度違うから、認識にも大きな差がある。
そんな背景から炎上事件がぼっ発した。
毎日新聞(2023/08/01)
原爆巡る日米の差、改めて表に 映画「バービー」投稿、米英報道
企業はブランドイメージを大事にするから、公式アカウントには特に注意を払っているはずなのに、バービー人形の実写映画「バービー」の公式アカウントがこんなカジュアルなひと言をつぶやき、日本人を怒らせた。
「It’s going to be a summer to remember 😘💕」
(忘れられない夏になりそう😘💕)
2023年7月21日にアメリカで、『バービー』と『オッペンハイマー』の2つの映画が同日公開された。
オッペンハイマーは、米軍が日本に投下した原爆の開発に携わった科学者をテーマにしたシリアスな映画で、コメディタッチの明るいバービーとは作風がまったく違う。
その2つが重なったことで注目を集め、「バーベンハイマー(Barbenheimer)」という造語が生まれた。
それであるネットユーザーが原爆のキノコ雲とバービーを組み合わせたファンアートを投稿すると、映画「バービー」の公式アカウントが「忘れられない夏になりそう」と返信した。
公式にはそんな意図は1ミリもなかったのだろうけど、世界で唯一の原爆被爆国では、「茶化された」と感じる人が多く、ネットで批判が集中している。
・今度は黙っていない
・欧米は黒人差別だのLGBTだのには神経質だけど、こういうのは無頓着なんだな
・公式が乗っかってんのは駄目だろ
・向こうは主張しないと無視されるからな
・リカちゃんやマリオ、ピカチュウが真珠湾攻撃にがんばえーってやってるコラ作っても怒らないんかなあ?
映画「バービー」は、日本では再来週の8月11日に公開される予定だ。
アメリカでは公開初日に約106億円の興行収入を記録したが、日本では暗雲が広がってしまった。
It’s going to be a summer to remember 😘💕 pic.twitter.com/w8cyuTNFU0
— ぴんべぇ (@PINBE_) July 30, 2023
映画版『はだしのゲン』の原爆投下シーン
学校で観たけどこのシーンでクラスの全員が悲鳴を上げてたの今でも覚えてる。
pic.twitter.com/r37yinGFec— シン・ゴジライアンさん (@555godzilla) July 30, 2023
アメリカ人は基本的に自分がヒーローになりたくて、その逆は絶対になりたくない。
原爆投下によって、女性や子供を含む何十万人もの人が亡くなった事実を指摘するのはいいとしても、そのことによって、「加害責任」を追及されることをアメリカ人は嫌がる。
そのタブーに触れなければ、アメリカ人は原爆投下についてわりと気安く考えている(ように見える)。
1992年にアメリカの議員が演説中に原爆投下について、「キノコ雲は米国製で日本で実験された」というジョークを言って、日本の官房長官が不快感を表明した。
この議員はその雲の下でどれだけの人間が、どれほどの苦痛を味わったのかまったく想像することができなかったらしい。
でも、アメリカを非難するような言葉には鋭く反応したはずだ。
原爆投下に対するアメリカ人と日本人の認識の違いは、戦後直後に明確に現れた。
そのことは、俳人の西東三鬼(さいとう さんき)が詠んだこの句から分かる。
「広島や 卵食ふ時 口ひらく」
原爆投下後の広島を訪れた西東三鬼は、想像を絶する悲惨な状況に言葉を失う。
彼はゆで卵を食べる時だけ、自分の口がその大きさに開くことから、こんな句を作った。
だからこの句は、生死をさまよう被災者がゆで卵を食べたという意味ではない。
当時は占領軍による厳しい検閲が行われていて、広島の悲惨さに触れた作品は特に厳しく取り締まられていた。
それなのに、なんでこの句が禁止されず、雑誌に発表できたのか?
どうやら、アメリカ人との認識の違いが原因だったらしい。
産経新聞のコラム「産経抄」(2021年8月6日)
検閲官は広島市民が卵を食べていると解釈した。「これは被害は大したことがないという宣伝に使えるということで、フリーでパスしたんです」
アメリカは正義を重んじる。
ジャスティスが大好きなアメリカ人は自分たちを加害者として悪者に描く表現は許さず、その逆は歓迎した。
その結果、日本人にとっては原爆の悲しみや残酷さを歌った作品なのに、アメリカ人は「大した被害はなかった」とそれを被害を軽視する作品と理解した。
自身の加害性を薄める表現なら、アメリカは大歓迎だ。
そんなことで、アメリカ人は自分の「見栄え」を気を使う一方で、日本人が受けた被害にはあまり注意を払っていないように感じる。
キノコ雲とバービーを組み合わせた絵に、「It’s going to be a summer to remember」と気軽なメッセージを書いたことにも、日本人との価値観の違いがあっただろう。
その絵に米軍機が飛んでいたら、「😘💕」なんて気分にはならなかったはず。
映画公開を直前に控えた大事なタイミングで、やらかしてしまった担当者には忘れられない夏になる。
続報
これが騒ぎになると、「バービー」も日本公式は「お詫び申し上げます」と公式に謝罪してこう発表した。
「アメリカ本社の配慮に欠けた対応は、極めて遺憾なものと考えており、この事態を重く受け止め、アメリカ本社に然るべき対応を求めています」
やっぱり、原爆投下にハートマークに付けるのは日本人の発想ではない。
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