【観光公害】日本旅行で、ウクライナ人が感じたこと

 

日本の魅力が海外に広まって、世界中からたくさんの観光客がやってくるのは素晴らしいことだけど、いいコトばかりじゃない。
数年前に京都を旅行した時、祇園のあたりでこんな案内を発見。

 

 

観光客が増えすぎてマナー違反などの問題が発生し、自然環境に悪影響を与えたり、地元住民が困ったりことを「観光公害」という。
なかには、この言葉はキツイから、「オーバーツーリズム」とか別の表現をするべきという声もあるが、中身は同じで、住民の生活にとっては「害」になっている。

新しい場所を訪れる観光客は、お金と敬意を払って行動するべき。
でも、京都では後者を欠く旅行者がいて、路上で舞妓さんに触る、飲食をする、ゴミを捨てる、タバコを吸うといった迷惑行為が発生している。
京都人が集まるSNSグループを見ると、「観光公害」の実態が分かる。
そこには、観光客が多くてなかなか電車に乗れなかったとか、数人の観光客がでっかいスーツケースをバスに持ち込んで、バスに乗れない人がいたといった文句を書き込む人がたまにいる。
日々の生活で、こうした不満を感じている人は多いらしい。
ある時、そのグループのメンバーが「きょう、~の前に外人さんが群れていましたわ。お静かに頼みます」というコメントを写真付きで投稿した。かなり問題のある表現だったにもかかわらず、多くの人が「いいね」を押していた。

これは日本全体の問題だから、岸田首相は「政府の重要課題」と位置づけて、この秋にも具体的な対策をまとめるつもりだ。
時事通信(2023年08月26日)

岸田首相、「観光公害」今秋にも対策 国立公園100年へ記念貨幣

首相のやる気にネット民の反応はわりと冷たい。

・何年前から問題になってると思ってるんだよ
・増税は早いのにな。
・実際観光地の近くに住んでいる者にとってはマイカーで来る日本人観光客の方が迷惑なんだか
・取り敢えずゴミとトイレを何とかしろ
・以前より円安になってるから観光公害はもっとひどくなるよ

 

 

最近、日本にいる4人のウクライナ人と話をしていると、そのうち2人は奈良を、1人は京都を旅行したと言う。
「観光公害」が話題に出てくると、彼らはこんな話をする。

 

事前にネットで調べてみたところ、「絶対に訪れるべき場所」として東大寺、金閣寺、伏見稲荷大社が挙げられていて、評価も高かったから、そこへ行くことにした。
実際、その3つの場所では、日本ならではの光景を見ることができてとっても良かった。が、想像の5倍以上の観光客がいて、ビックリした。
いろいろな言語が聞こえてきて騒がしいし、人とぶつからないように、周囲に注意して歩かないといけなかったから、足は問題なかったけど、精神的に疲れてしまった。

春に奈良へ行った2人は、ネットで桜がキレイな場所を調べて、長谷寺へ行くことにした。
長谷寺は郊外にあって、桜も期待していたほど咲いていなかったけど、2人はまったく失望しなかった。
というのは、桜のピークシーズンを外していて、境内にはほとんど人がいなかったから。
2人の会話が響くほど静かな環境で、ゆっくり歩いて、気になった物をじっくりと見ることができた。
圧巻だったのは、寺の中にあった高さ約10メートルの巨大な観音菩薩。
大きさだけでなく、観音菩薩が身にまとっている衣服や飾りみ精巧に作られていて、さらに全身が金色に輝いているから、「神々しい」という言葉がピッタリくる。
2人にとっては、東大寺の仏像よりも、こっちの方が強く印象に残った。

 

一方、京都へ行って、金閣寺と清水寺を訪れたウクライナ人も同じようなことを言う。
歴史的な建物の向こうに京都市が見えたり、無数の鳥居の中を歩いたりするのはすごく良かったけど、あの混雑ぶりには閉口させられたし、かなりの疲労感も感じた。
泊まっていた宿で、日本人のスタッフにそんな話をしたところ、彼女はこんなアドバイスをもらう。

「それなら、塔頭へ行くといいですよ」

塔頭(たっちゅう)の塔は「お墓」のこと。
大きなお寺の高僧が亡くなると、その師を偲(しの)ぶために、弟子たちが近くに小さなお寺を建てた。
京都の大徳寺だけでも、「龍光院」、「興臨院」、「高桐院」、「黄梅院」など約20の塔頭がある。
くわしい説明は「塔頭」を見てくれ。

そのウクライナ人と友人はさっそく塔頭を調べて、翌日、良さそうなところへ行ってみたら、最高の経験をすることができた。
金閣寺の場合は、中に入ることができなくて、人の流れに沿って移動することに不満を感じたが、そこではまったく違う。
畳の上に座り、風の音だけが聞こえるような環境で、庭をじっくり眺めていると心がリラックスするし、凛とする。
いま考えても、そこへ行って本当に良かったと思う。

 

3人のウクライナ人の経験では、神社やお寺を楽しむ際には、「人がいない」という要素がかなり重要になる。
日本には、広く知られていないけど、素晴らしい場所がたくさんあるはずだ。
だから、次にどこかへ行くときには、事前によく調べたり、現地の日本人に聞いたりして、そんな隠れた宝を発見したい。
観光客が集中して、日本で「公害」になるほど問題化しているのなら、そういう無名の名所を積極的に知らせることは、良い解決策になると彼らは言う。

「観光公害」が深刻な問題となっているのは、観光地の一部に限られている。
京都でも、有名なスポットに外国人が集中していて、そこを外すと、驚くほど静かな世界がある。
オーバーツーリズムの対策として、訪日客を広く分散させ、「一点集中」を避ける取り組みは以前から提案されていた。
今回のウクライナ人の話からも、観光客の流れを変える作戦はきっと効果がある。
「そんなことをされたら、穴場が無くなってしまうじゃないか」という不満よりも、暑くて寒い京都で、バスや電車に乗れなかった市民の不便を考慮するべきだ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。