大爆死、 超爆死、核爆死…。
ネットメディアの記事で悲惨なワードが並ぶのは、日本で8月11日に公開された映画『バービー』の興行収入だ。
でも、日本の「爆死祭り」は例外的で、世界的には大成功を収めた。
『バービー』はアメリカをはじめ全世界で約2000億円の興行収入をたたき出し、ことし公開された映画の中では最も収益の高い映画となった。
ワーナーブラザーズにとっても約2000億円は史上最高の記録だ。
しかし、日本では、興行収入が10億円にも達しないという危機的状況だ。
大爆死してしまった理由には、日本人がバービー人形にあまり愛着を感じていなかったことが挙げられる。
日本には『リカちゃん』があるし。
また、女性の権利を主張するフェミニズム的なテーマが、日本人に敬遠されたという見方もある。
でも、最大の理由は、日本人の最も敏感な部分にアメリカ人が無神経だったこと。
アメリカで『バービー』が公開された日に、原爆開発をテーマにした映画『オッペンハイマー』も公開された。
それで、2つを結びつける「バーベンハイマー(Barbenheimer)」という社会現象が生まれる。
その流れで、ファンが原爆のキノコ雲を背後に、笑顔を浮かべるバービーの画像を作ってネットに投稿すると、『バービー』の公式アカウントが無邪気にこう反応した。
「It’s going to be a summer to remember 😘💕」
(忘れられない夏になりそう😘💕)
実際、関係者にはそうなった。
1945年の8月6日と9日、広島と長崎では巨大なキノコ雲が立ちのぼり、その下は地獄となっていた。
こうした悲劇を常識として知っている国民からしたら、キノコ雲と笑顔を組み合わせた絵を描いたり、それに対して公式が「忘れられない夏になりそう😘💕」と返信したりすることは考えられないし、そんな無神経は受け入れられない。
映画『バービー』によって、日本人とアメリカ人の間には、原爆投下に関して埋められないほど大きな認識の違いがあることが浮き彫りになった。
この騒動が続いていたとき、知り合いのアメリカ人と話す機会があったから、彼女にアメリカの事情について聞いてみた。
ちなみに、そのアメリカ人は日本の学校で英語を教えていた経験があるから、日本のことをよく知っている。
彼女は『バービー』を楽しく見て好印象を持っていて、「バーベンハイマー」という言葉も知っていたが、日本での騒動については初耳だった。
『バービー』の公式が原爆投下の日の直前、キノコ雲と笑顔のバービーの絵に「It’s going to be a summer to remember 😘💕」とメッセージをしたことについて、彼女はこう話す。
「この投稿に関係したアメリカ人に悪意はまったく無かった。原爆投下に対する配慮が無かったわけでもない。その出来事について無知で無神経だから、想像力が働かなかった。ただ、彼らに悪意は無かったから、彼ら自身は悪いことをしたつもりはなく、きっと日本人の怒りにビックリしている。」
彼女の話によれば、一般のアメリカ人が知っていることは、太平洋戦争で2つの原子爆弾が日本に落されたことだけで、その日はもちろん、8月ということもほとんどの人は知らない。
キノコ雲の絵を見ても「カッコイイ!」と思うだけで、その下に無数の死体があることなんて想像できない。できるわけない。
彼女の日本での経験からすると、原爆投下や核兵器に対する認識は日米で驚くほど違う。日本人は本当に真剣で、アメリカ人はあまりに無頓着。
被爆地ではヒロシマがとても有名だけど、ナガサキは知らない人が多い気がするという。
原爆投下については、学校の授業で簡単に習うだけで、あとは気になる人が個人的に調べて知識を深めるだけ。
だから、アメリカでかなり詳しい人でも、日本では平均レベルといった感じだ。
今回の騒ぎは、起こるべくして起きたものだった。
『バービー』が超爆死した理由には、この映画をススメする芸能人やインフルエンサーがいなかったこともある。
SNSで「めちゃくちゃ楽しかった。みんなも見てね!」なんて投稿すれば、次にどうなるかは誰でも想像できる。
日本で、原爆と結びつけられて叩かれると、自分のイメージが致命的に悪化しかねない。
そんなことで、この映画は有名人には地雷案件になってしまった。
「忘れられない夏になりそう😘💕」のコメントが日本人に見つかった瞬間、もう爆死する運命は避けられなかったのだ。
知り合いに、「全アメリカ人が知っている日付」を聞いてみると、彼女は「9月11日」を挙げた。
2001年のこの日の朝、イスラム過激派が旅客機を乗っ取り、ワールドトレードセンター(ツインタワー)やペンタゴン(国防総省の本庁舎)に突っ込ませ、「アメリカ同時多発テロ事件」を起こし、約3千人の犠牲者を出した。
旅客機が激突し、炎上するツインタワー
アメリカン航空77便がペンタゴンに突入した瞬間
一般のアメリカ人には原爆のキノコ雲なら問題ないが、このテロの爆発を示唆する絵は絶対に許さないと彼女は言う。
それは正しい。
以前、アメリカのスターバックスが「Collapse into Cool」キャンペーンをした際、2つの飲み物にトンボを描いたポスターを公開した。
すると、「トンボがツインタワーに激突する旅客機に見える!」と大炎上した。
日本人にとっての原爆投下は、アメリカ人には同時多発テロになる。
この「イジリ」だけは許されない。
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