韓国人の知らない韓国史 日本統治と伊藤博文とハングル 

 

ソウルの中心部、明洞のあたりを歩いていると、、近代的なビルが立ち並ぶ中で、タイムスリップしたような古い建物が目に入る。
この建物は、日本の統治時代に東京駅を設計した建築家・辰野金吾が手がけたもので、いまでは銀行貨幣博物館として使われている。
数年前、この歴史的な建物に問題が発生。
韓国では、日本時代の遺物は「日帝残滓(にっていざんし)」と言われ、ただでさえ嫌われているのに、この建物の定礎には、よりにもよって伊藤博文の直筆の文字が刻まれていることが分かって騒ぎになった。

このハンギョレ新聞の記事には、伊藤博文について「日帝が朝鮮半島を侵奪して強制占領した当時、その先頭に立った初代朝鮮統監」と紹介されている。(2021-05-27)

韓国文化財庁、伊藤博文の直筆刻まれた韓国銀行の礎石撤去しない方針

韓国人にとって伊藤博文は侵略者で、彼を暗殺した安重根は英雄だ。
そんな「悪者」が書いた文字のある礎石をどうするべきか?
国民にアンケート調査を行ったところ、案内板を付けて保存するべきという意見が 52.7%、伊藤博文の痕跡を消すべきという意見が 47.3%で、かろうじて礎石の撤去は免れた。

 

3日前の10月9日は、韓国で「ハングルの日」という記念日になっている。
日本人も、自国の文字に対する韓国人の愛情や誇りは見習っていい。
韓国では、1926年に初めて「ハングルの日」の記念式典が行われた。そう聞くと、「あれ?」と違和感をおぼえる人がいるかも。
韓国は1910年に日本に併合されたから、この時期は日本の統治時代だ。
でも、その時代、朝鮮語やハングルは日本に禁止されていたのでは?

最初の記念日は、ガチャではなく、「カギャの日」という。
ハングル文字を覚える際に、日本語の「あ、い、う、え、お」みたいに、「カ、ギャ、コ、ギョ…」と発音するから、「カギャの日」という名称になった。
この時点では、まだ「ハングル」という言葉はあまり一般的ではなかった。
翌27年、朝鮮語研究会によって「カギャの日」が「ハングルの日」へ改名された。

日本人向けに韓国の情報を提供するサイト「KONEST」には、ハングルについてこう説明されている。

「ハングル」という名称は、言語を弾圧された日本の植民地時代に韓国語学者たちによって生まれ定着したとされます。初めてハングルという呼称を用いたのは、韓国語学者であり独立運動家でもあった周時経(チュ・シギョン)と伝えられています。

ハングルの歴史

 

これは韓国の歴史認識にもとづく記述だ。
言語学者の周時経が「訓民正音」に代わり、「ハングル」という名称を作り出したというのは OKだ。
でも、言語を弾圧された日本の植民地時代に、「ハングル」が社会に定着したというのは少しおかしくないか?
「伊藤博文」というキーワードが抜けているから、こんなチグハグな文章になってしまう。

 

周時経(チュ・シギョン)
韓国では、ハングルの普及などに貢献した人に「周時経学術賞」が贈られる。

 

先ほどの記事にあったように、伊藤博文は初代韓国統監になったことで、現代の韓国では「植民地支配の先頭に立った人物」として嫌われている。
この認識は韓国では常識。
でも、一般の韓国人の認識は「悪者」でストップしていて、伊藤博文が朝鮮半島でおこなった具体的な活動は知られていない。
特にポジティブなものは。

韓国統監となった伊藤は学校教育の充実に取り組み、ハングルを含む朝鮮語の教育を重視した。
1907年には、韓国で働く日本人教師たちに向かって、「親切とをもって児童を教育し裏表があってはならない」「日本人教師は余暇を用いて朝鮮語を学ぶこと」と強調した。
伊藤は、(現在の価値でいくらになるか分からないが)50万円もの巨額の予算を教育にあてた。
これによって、周時経が『大韓国語文法』や『国語文典音学』を出版することができたのだ。
別の著者による『大韓文典』や『初等国語語典』なども出版され、韓国社会にハングルが普及していく。(ハングル・歴史
こうした活動を支援したのが伊藤博文だ。
そして1927年、「カギャの日」を経て「ハングルの日」が誕生し、現在まで続いている。

「日本時代の朝鮮語」についての韓国人の認識はこんな感じだ。
ハンギョレ新聞の記事(2018-09-09)

我が民族は、1910年に日本に国権を強奪された後1945年の解放までの35年間、朝鮮語を奪われハングルさえ自由に書けなかった。

[歴史の中の今日]日帝が押収「朝鮮語大辞典原稿」ソウル駅倉庫で発見さる(上)

 

この説明は正確ではない。
1941年に太平洋戦争が始まると、朝鮮語のみの教育が廃止されたから、それなら「奪われた」と言える。
でも、それまでの30年以上、日本はむしろハングル文字や朝鮮語の普及に力を入れていた。
周時経は地下に潜んで辞書をつくり、出版したわけではなく、実際には伊藤博文や日本がその活動を後押していたのだ。
もし朝鮮語が弾圧されていたら、朝鮮語研究会が堂々と「ハングルの日」を祝えるわけない。
「カギャの日」を変えた理由も、ハングルという言葉を広めるためだろう。

現代の韓国社会では日本の統治時代はすべて否定され、すべてが「闇」とされているから、「光」の部分を指摘することは現実的にはできない。
したら、袋叩きにされる。
日本の良い部分はカットしないといけないから、「35年間、朝鮮語を奪われハングルさえ自由に書けなかった」と事実と違う文章になってしまった。
ハングルについて「言語を弾圧された日本の植民地時代に生まれ定着した」という文も同じで、日本のポジティブな面は書けないから、前後で矛盾するような印象を受ける。
「後に弾圧されたが、日本時代にハングルが生まれ定着した」という記述ならまだ分かりやすいが、韓国人がこんな文章を書くには勇気と覚悟が必要だ。
「日本人教師は朝鮮語を学ぶこと」と言った伊藤博文は、韓国では存在しないことになっている。
もし、伊藤が礎石にハングル文字を刻んでいたら、「我が民族はハングルさえ自由に書けなかった」という現在の韓国は理解は苦しくなっていたかも。

日本には、そんな「歴史のしばり」は無い。
主権を奪われ、苦しい思いをした朝鮮の人たちがことは事実で、あの時代を全体的に肯定することはできないが、日本人として伊藤博文の活動を含めて、統治時代にあったダークサイドとブライトサイドは知っておいていい。

 

 

【漢字とハングル】韓国人が日本のお寺で感じた”過去との距離”

アニメでみる日本人と韓国人の感覚の違い:丁寧さとスピード感

日本と韓国の職人の違い。文化を育てる「天下一」の考え方

旅㉑おにぎりをめぐる日本と中国・韓国の食文化のちがい

現在と600年前では正反対!韓国人のハングル文字への印象は?

 

7 件のコメント

  • 「主権を奪われる」とは少なくとも、他国からの武力行使に対し挙国一致で総力戦を行った末及ばなかった状況に相応しい表現でしょう。
    西欧の帝国主義に日本を始め東アジア諸国が早急な対処を迫られた当時、寧ろ王や両班が率先して日本・清・ロシアの外勢を呼び込み内部の権力闘争に利用していたのが李氏朝鮮王朝の実績。
    まあ、韓国人が自身のご先祖の無策無能ぶりを(儒教思想と小中華主義も相まって)認め難いのは理解しますが、ここを直視しなかったからこそ今になって併合前の二の舞を演じる状況に…

    韓国(朝鮮半島)に近代思想や統治体系、資本主義を持ち込んだのが日本なので、積弊清算に血道を上げるたび北朝鮮化(李氏朝鮮回帰)していくのも当然だと思いますよ。
    漢字教育廃止により、日本・中国はもちろん韓国国内の文献や半世紀前の新聞も一般国民が読めなくなって歴史から学べなくなりましたからね。

  • 「主権を奪われた」という思いをした朝鮮人は当時はたくさんいました。
    韓国の盧大統領が来日した際、昭和天皇は「わが国によってもたらされた不幸な時期に、貴国の人々が味わわれた苦しみを思い、私は痛惜の念を禁じ得ません」と述べられました。
    日韓併合は国際法的には合法でしたが、韓国側が主権を失って辛い思いをしたことは事実でしょう。

  • 日本が意図せずとも
    韓国から唯一収奪したものはプライドでしょうね
    まぁ食べる為に捨てなきゃいけないプライドって
    誰でもありますが…
    現在、食べれるようになって取り戻したいのでしょう

  • 現在、韓国の大学進学率は73.3%です。断然、OECD諸国の中でTOPでしょう。
    しかし、私は韓国の大学進学率が30%に達していなかった時代に大学を出た、いわば「知識層」の人物です。このような知識層である私さえも「ハングルの日」が日本統治時代に作られたことを今この文を読んで知りました。それくらい韓国で日本は”悪魔化”されています。どんなに良いことでも日本人がしたら悪いことだと思わせます。伊藤博文が朝鮮併合を最後まで反対した人物で、朝鮮が好きで朝鮮の衣服を着て撮った写真もあることを知っている韓国人はほとんどいません。
    韓国の歴史、特に韓日間の近代史は書き換えられ、教育されなければなりません。

  • 2020年の韓国メディアに、ハングルの日が「577周年」という報道がありました。
    朝鮮時代にそんなイベントがあったわけがありません。
    この日は日本時代にできた記念日と国民に気づかせないように、こんな変な書き方をしたと思います。

    ところで、あなたは韓国人の方ですよね?
    日本語がとてもうまくてビックリしました。

    韓国の教育については韓国人に変えてもらうしかありません。日本人が口を出すと、良い結果になりませんから。

  • 私はモンテ·クリストというペンネームの韓国人で、このブログによくコメントを書いた人です。
    コメントを書いてから、自分の名前を書く欄が少し変わって自分の名前を書けませんでした。

  • MONTE CRISTOさんでしたか。
    わたしのブログは、日本語のできる韓国人の間で読まれているのかと、幸せなカン違いをしてしまいましたよ。

  • コメントを残す

    ABOUTこの記事をかいた人

    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。