【戦略的中立】パレスチナ問題で独特な立場の日本

 

イスラム組織ハマスの奇襲攻撃によって、イスラエルとの戦闘がはじまり、イスラエルとガザでの死者はもう1万人を超えた。
でも、これからが本当の地獄だ。
イスラエル軍は本格的な地上戦を開始するつもりで、そうなったら、民間の犠牲者は今後さらに増えてしまう。

危機的状況にあるパレスチナ情勢について、ある日本人が『クォーラ』でこんな質問を投げかけた。

日本人としてイスラエルとパレスチナ、どちらを支持すべきでしょうか?

大ざっぱに言えば、アメリカやヨーロッパの国々はイスラエルを支持していて、アラブ諸国やイスラム教の影響の強い国はパレスチナを支持している。
日本はどちらの側に立つべきか?
世界的に見て、日本は独特な立場にいるから、その特異なポジションで存在感を発揮すればいい。

 

パレスチナの大地

 

20年以上前、イスラエルを旅行中、パレスチナ人の居住地区であるヘブロンへ行った。
話には聞いていたが、銃を持ったイスラエル軍の兵士たちが街を取り囲んでいて、パレスチナ人の住民が常に監視されている様子を目の当たりにすると、やっぱり気持ちは重くなる。
パレスチナ人と日本人は同じアジア系だから、白人や黒人と比べれば外見は似ている。
それでヘブロンの人たちは、ボクに親近感を感じたらしく、

「どこから来た?」
「日本です」
「よく来た!歓迎するよ」

と、好意的に接してくれ、中には「これを食え」とバナナをくれる人もいた。
ヘブロンを歩いていて印象的だったのは、突然ある人が声をかけてきて、「イスラエルは我々の自由を奪っている。ここでの生活はとても不便で、屈辱的だ」と語ったこと。
自分たちの理不尽な状況を、多くの外国人に知ってほしいと望むパレスチナ人は多いんだろうなと思った。

 

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バナナの向こうに、イスラエル軍兵士の姿が見える。(ヘブロン)

 

この時、ボクはエルサレムの宿に泊まっていたから、ヘブロンには数時間いただけで、その日の午後にエルサレムへ戻った。
「ここでの日本人の立ち位置は特殊だな」と感じのは、宿で出会ったイスラエル人やヨーロッパ人に、「ヘブロンへ行った」と伝えた時。
すると、「マジで!」と驚かれ、「自分がパレスチナ自治区へ行ったら、きっと石を投げられる。自由に行動できる君がうらやましいよ」と苦笑いをされた。
特異な立場について感じた瞬間は、宿で出会ったイスラエル人やヨーロッパ人に「ヘブロンに行った」と伝えた時でした。
その一方で、イスラエル人からは、「ようこそイスラエルへ」と笑顔で握手を求められたこともあったから、日本人旅行者はどちらからも歓迎されているような印象を受けた。

 

考えてみれば、日本はこの地域から遠く離れていて、宗教的には神道と仏教が主流だから、歴史的にも文化的にもパレスチナとの接点はほとんどない。
日本には、十字軍の遠征のようにキリスト教徒とイスラム教徒が激しく戦ったり、ユダヤ人を迫害したりした歴史はなく、ヨーロッパみたいにアラブ諸国を植民地支配した経験もない。
*これはとても不幸なことだけど、イスラエルの空港でテロ事件を起こした岡本幸三はアラブで“人気”がある。

日本が大好きだ! とアラブ人に言われたが嬉しくなかった件

日本は戦後、イスラエルとは経済分野での協力を進め、対立することはなかった。
同時に、パレスチナには何十年にもわたり難民支援を続けてきたし、石油はアラブ諸国に依存している。
日本にとっては両方とも重要だから、パレスチナ問題において、イスラエルかパレスチナのどちらかを明確に支持する立場を表明していない。
この問題の理想的な解決策は、イスラエルとパレスチナの2つの国家が平和共存することだから、日本はそのために双方に配慮し、働きかける「バランス外交」をおこなってきた。

 

「日本人としてイスラエルとパレスチナ、どちらを支持すべきでしょうか?」という質問には、そんなビミョウな背景がある。
これに寄せられたコメントを見ると、

「イスラエルもパレスチナも言い分はあると思います」
「私は口をつぐまざるを得ません」
「我々一人一人が考えていくしかない」
「双方の市民を支持したいです」

と、日本は中立的な立場を維持し、人道的な観点から、双方に停戦を呼びかけるべきという意見が多かった。
今の日本政府の姿勢もそんな感じ。
岸田首相が「全ての当事者に最大限の自制を求める」と全体的なメッセージを出したように、「日本はハッキリしない」という立場を明確にした。
これはこれで、「コウモリ野郎」として、どちらからも信頼を失うリスクがある。
G7加盟国で、イスラエルを支持する共同声明に加わらなかった国は日本だけだった。

しかし、G7の議長国として、現在のパレスチナ情勢に対して無関心や無責任は許されない。
それで上川外相がイスラエルとパレスチナナ自治政府を訪問し、両外相と会談をおこなった。
どちらとも友好的に対話ができるという日本の独自性を生かし、危機的状況の打破に向けて、一定の成果を上げられるかに注目が集まっている。

朝日新聞の記事(2023年11月3日)

上川外相が狙うバランス外交 イスラエルとパレスチナの両外相と会談

パレスチナ人からはバナナをもらい、イスラエル人からは握手を求められる日本人の立ち位置は特殊で貴重だ。
どちらも明確に支持しないという「戦略的中立」の立場から、日本が世界で存在感を発揮してほしい。
最悪それができなくても、全方位から無視されるというオチだけはやめてくれ。

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。