19世紀の終わりごろ、本間 九介(きゅうすけ)という日本人が朝鮮半島を旅行して、その体験を新聞に連載した。
彼の旅行記『朝鮮雑記』(祥伝社)を読むと、当時の朝鮮の人たちが 300年前の朝鮮出兵について、まだ日本を深く恨んでいることがわかる。
それを書く前に、日本と韓国の歴史認識の違いを確認しておこう。
16世紀末、豊臣秀吉の命令で日本軍が朝鮮半島へ攻め込んだ出来事を、日本では朝鮮出兵と呼ぶが、韓国では一般的に「壬辰倭乱(じんしんわらん)」と言われている。
「壬辰」は朝鮮出兵があったときの干支で、「倭」は日本に対する侮辱語だ。
「乱」とは大規模な争いが発生し、世の中のが乱れることを指す。
「反乱」のように、社会的に地位の低い者が朝廷や幕府などに歯向かう場合によくこの言葉を使う。
「~の戦い」は中立的で、「〜の乱」という表現には上から目線のニュアンスがある。
朝鮮出兵で朝鮮は壊滅的な被害をうけたから、その憎悪や恨みが「倭乱」という言葉に込められているのだ。
朝鮮出兵で「無双」した小西 行長(ゆきなが)
釜山に上陸すると朝鮮軍を撃破しながら北上し、すぐに首都・漢城を占領した。
本間の旅行記には、小西行長が築いたという城の跡がでてくる。
そこには正方形の巨石があり、その由来について現地では、朝鮮出兵の際、日本の兵士たちがおもしろがって刻んだものという言い伝えがあった。
しかし、本間はこの説を鵜呑みにすることはなく、『朝鮮雑記』にこう書いた。
「韓人は、不思議な事物を見ると、すべて、壬辰のときに日本人がつくったなどと唱えるけれども、そのまま信用するわけにはいかない」
ちなみに、本間は朝鮮出兵を「征韓の役」と表現している。
江戸時代の日本では「朝鮮征伐」や「征韓」と言われていて、明治時代にも同じ言葉が使われていたらしい。
当時の朝鮮では、朝鮮出兵に関する「悪伝説」が各地にあった。
あるとき本間がお寺の敷地内を歩いていると、崖にポッカリと穴があいているのを見つけた。
それについて、彼はこんな話を耳にする。
「(以前そこには)黄金仏を安置していたが、壬辰の役のとき、日本人に掠め去られたと伝える」
仏像が日本軍に略奪されたという話を聞いたが、根拠がなかったことから、本間は「とても信じられない」と書く。
崖に不思議な空間があるのを見て、「日本憎し」の感情から、誰かがそこに黄金の仏像があって、壬辰倭乱の際、日本軍に奪われたという話をつくり、それが地元の言い伝えになったのだろう。
100年以上前のことは今さらどーでもいいのだけど、21世紀になっても同じ認識をしていると問題が起こる。
中央日報の記事(2024.02.27)
韓日が400年の歴史が刻まれたツバキ「五色八重」に真偽問題浮上
韓国の蔚山(ウルサン)市の市庁前には1本のツバキがある。
これはもともと京都のお寺にあったもので、あるとき韓国側でこんな説が浮上したことから、「争奪戦」がはじまった。
「加藤清正が蔚山鶴城(ハクソン)で初めて見つけたという。加藤は木の美しさに一目で心を奪われ、これを掘って日本に持ち帰り、君主の豊臣秀吉に捧げた」
日本の武将が朝鮮半島から奪ったものだから、それは韓国へ返還されないといけないーー。
韓国でそんな主張が支持を得て、「奪還運動」が展開された結果、日本のお寺も最初は拒否していたものの、最終的には同意する。
それで、約 400年ぶりにツバキが“母国”へ戻ってきて、市庁前の広場に植えられた。
このツバキは不幸な歴史の象徴だから、蔚山では特別待遇を受け、毎年、花が咲く時期になると献茶祭が開催されているという。
また、2021年には蔚山ツバキ保存会が結成され、蔚山市による椿歌謡祭も開かれている。
しかしその後、植物学者などがツバキについてくわしく調べた結果、日本に奪われたという説には根拠がなかったことがわかり、状況は一変する。
ある学者は「ツバキについて十分考証せずに広報ばかりに気を使っていたところ、でたらめな情報が拡大再生産されている」と蔚山市を非難した。
文化解説士も日本側と協力して確認作業を行ったが、証拠となる資料を見つけることができなかった。
ツバキの由来が間違っているという指摘が相次いだことから、蔚山市側は「現在該当内容を改めて丁寧に検収・検討している」という状態。
この記事を読むかぎり、まず間違いなくこのツバキはもとから日本のもので、韓国とは関係ない。
それにしても、返還運動を成功させて、いまでは毎年祭りを開いているのに、由来がよくわかってなかったというのは、ある意味で韓国らしい展開だ。
お寺のほうも、安易に応じるべきではなかった。
韓国では朝鮮出兵について、昔から根拠不明のニッポン略奪説があって、それは「そのまま信用するわけにはいかない」のだから。
ただ、「でたらめな情報が拡大再生産されている」という批判が出るところが、130年以上前とは違う。
日本人から見た韓国人 130年前と変わらない“辛いもの”好き
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