「ご飯食べた?」 今も昔も日本人が戸惑う韓国式あいさつ

 

10年ぐらい前、ソウルを旅行していた時、以前、韓国の大学に留学していたという日本人男性と出会った。
韓国にはユニークなあいさつがあって、彼は最初のころ、それが理解できずに戸惑ったと言う。
韓国の人たちは「こんにちは」の意味で「アンニョンハセヨ」とあいさつをするけれど、これとは別に、人と会うと「ご飯食べた?」と声をかけることもある。

彼が韓国へ来たころ、大学のキャンパスを歩いていると友だちと会い、笑顔で「ご飯食べた?」と聞かれ、返事に詰まった。
「この人はまだ食事をしていないから、一緒に行こうと誘っているのか?」と思って、実はお腹いっぱいだったのだけど、「ああ、さっき軽く食べたけど…」と答える。
すると、友人は「今日の授業ってさあ〜」とまったく別の話をはじめるから、彼は「食事の話じゃなかったんかい!」と心の中でその韓国人にツッコみを入れた。
何度かそんな体験をして、韓国には友だちや目上の人、初対面の人に対しても、「こんにちは」の感覚で「ご飯食べた?」とあいさつする習慣があることを知る。
日本語で言うなら、「今日は良い天気だね」といったニュアンスで、相手は食事の具体的な中身を知りたいわけじゃない。
ただ、20代の韓国人から、このあいさつはちょっと古く、若い世代ではあまり使われていないと聞いた。

彼は、韓国で「ご飯食べた?」があいさつ言葉になっていることが気になり、調べてみると、その理由は朝鮮戦争(1950年〜53年)にあると分かった。
この戦争とその直後、韓国はとても貧しく、人々は食べ物を手に入れることが困難だったから、相手を気づかって「ちゃんとご飯を食べましたか(=あなたは元気ですか)?」とあいさつする習慣が生まれたのだ。
単に「こんにちは」と言うよりも、この言葉には相手への愛情が込められていると知って、彼は感動した。

こんなハートウォーミングな話を教えてもらったから、その後、ボクが日本語ガイドと会って「もうご飯を食べましたか?」と聞かれても、違和感を感じることはなかった。
でも、SNSを見ると、日本人が韓国でそう声をかけられて、ビックリしたという投稿がよくある。
その背景には、韓国が貧しかった時代、相手の健康を気にかけた同胞への愛情があるのに…。
と、そんなふうに考えていた時期がオレにもありました。

 

朝鮮戦争のころの韓国の子どもたち

 

最近、19世紀末に朝鮮半島を旅行した本間 九介(きゅうすけ)の記録(朝鮮雑記)を読んでいる。
約130年前の日本人の視点は新鮮で、いろんな発見があっておもしろい。

本間は、朝鮮には「たいへん奇妙な」習慣があると指摘する。
それは、朝鮮の人たちが「あなたはもう朝飯(夕飯)を食べましたか」と日常的に聞くことで、本間はこのあいさつの仕方にとても驚いた。
食事をしたかどうかを尋ねるのは、物乞いに対してすることだから、彼は「私たち日本人の感覚からすれば、たいへん無礼なように思うのだ」と怒る。

つまり、このあいさつは朝鮮戦争どころか、日清戦争が起こる前から韓国で普通に行われていたのだ。
そして、その当時から、日本人はこの言葉に価値観の違いを感じている。

 

韓国でこんなあいさつが生まれた理由に関して、本間はある宿で不思議な体験をした。
宿の亭主は本間を見て、金を持ってそうな上客(良いカモ)と判断し、とても丁寧に対応してくれた。
夕食の時間になって料理が出てきて、本間が箸を持って食べようとした瞬間、知らない男が部屋に入ってきた。
次に亭主が飛び込んできて、男と口論をはじめる。
この男は近所に住んでいて、日本人が宿に泊まったという話を聞きつけ、どんなものを食べるか見に来ただけだと言う。
しばらくここにいるけれど、そんなに怒らないでほしいと男が頼むと、亭主はそれを否定し、こう怒鳴る。

「おまえが、食事の時間をはかってやってくるのは、残飯を貪ろうとしてのものだ。珍客の余涎(たまに来る客の残飯)を、どうして、おまえなどにくれてやらねばらないのだ」

そう言われた男は、決してそんなつもりはないが、あなたが信じないなら、わたしは帰るしかないと怒って部屋から出て行った。

 

本間は2人のやり取りを聞いていて、どうして亭主は自分の残飯をねらっていると決めつけるのか? あの言い方は男を侮辱していると不愉快な気持ちになった。
しかし後から、ここではそんな日本の常識が通じないことを知る。
あの男は本当に、残飯を食べることを目的に部屋に入ってきて、亭主に「おまえに食わせるメシはねえ」と追っ払われたことが判明した。
朝鮮を旅行していると、民衆はとても貧しく、茶碗いっぱいの残り飯をめぐってよく口げんかをしているのを見た。
本間は、ごちそうを食べようとした男の行動について、「この国にして、こうした習俗があることは、なんら深く怪しむに足らない」と納得する。

朝鮮戦争が原因ではないが、韓国では、お腹いっぱい食事をすることが困難な時代が続いたから、「ご飯食べた?」というあいさつが生まれたことは間違いないなさそう。

 

 

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2 件のコメント

  • 朝鮮は約7~10%の王族+両班が残りの民を支配し、搾取する国でした。
    両班は中国の朱子学を国家経営の基本理念としていましたので、国家を経済的にも軍事的にも発展させるという概念を全く持っていませんでした。つまり、国家の基本理念ともいえる「富国強兵」という概念を持っていませんでした。その代わり、朱子性理学の観念的理論に没頭し、「安貧樂道」を最高の善と考えたのです。そのため、商工業を極めて蔑視し冷遇し、産業発展は期待できなくなりました。文禄·慶長の役の時、朝鮮の陶工が日本に行って貴族として扱われ、日本の産業を発展させるのに多大な貢献をした事実は、朝鮮がいかに技術者を軽視したかを物語っています。そんな朝鮮でしたから、年々飢餓により餓死者が続出しました。貧困の悪循環が朝鮮時代を通して続きました。そのため、”ご飯を食べたか”という言葉が挨拶になったのです。

  • 「朝鮮雑記」を読むと役人は人民から搾取し、上の人間にワイロを渡して、もっと良い地位につこうとしているのが分かります。
    民衆は本当に困難な時代でした。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。