知人に20代後半の韓国人がいて、彼は2年ほど日本の会社で働いた後、母国に戻っていまはサラリーマンをしている。
彼が日本にいた時、レストランで食事をしながら話をしていると、近くのテーブルからこんなやり取りが聞こえてきた。
店員「お冷のおかわりはいかかですか?」
客「いいです」
店員「失礼しました」
こんな、ドラマで日本の日常風景を表すような場面に彼がこうツッコんだ。
「韓国語に比べると、日本語にはあいまいな表現が多いから、慣れるまではよく判断に悩みました。さっきの『いいです』も、最初は『OK』という意味だと思ったら、じつは『NO』と知ってビックリしました。」
これは、“外国人あるある”の代表例の一つ。
日本で生まれ育った人なら、態度や空気からすぐに分かることでも、外国人にとってはナゾに包まれてしまう。
外国人が日本語の勉強をはじめると、大抵の場合、「いい」の意味を「good、fine、nice」で理解するから、「No thank you」で使われる場面に出くわすと戸惑う人が多い。
「それはいいです」の意味は文脈や状況によって変わるから、外国人が2つの意味を覚えても場面によって瞬時に判断することは難しく、「どっちやねん?」となる。
あるスリランカ出身の女性は日本語学校に通いつつ、コンビニでレジのアルバイトをしていた。
そのバイトはじめたころ、中年の男性客に「ビニール袋は必要ですか?」と尋ねたところ、無愛想に「いい」とだけ言われる。
それを「お願いします」と誤解した彼女がビニール袋を取り出そうとすると、おっさんは「いいって言ったじゃないか!」といきなり沸点に達して怒鳴しはじめる。
突然の恐怖にかたまる彼女。
そこへ店長が救世主のように現れ、「申し訳ありません。彼女はまだ日本語がよく分からなくて…」と謝罪すると、男は「ちゃんと教育しとけ」と捨てゼリフを吐いて店から出ていった。
この後、泣きそうになったスリランカ人に、店長がコンビニ界の重要ワードである「いい」の意味を丁寧に教えた。
ちなみに、彼女にとってこの一件はトラウマとなり、日本人の性格について、基本的にはすごく丁寧だけど、予測できないアグレッシブな一面もあるという認識を持つようになったという。
アメリカのコンビニ
なんで日本語の「いいです」には、拒否の意味があるのか?
外国人からそう質問されて、答えられず、調べてみたことがある。
あれは、「~しなくてもいいです」の前半部分が省略されたものらしい。
「あなたがそんなことをしなくてもいいです」という拒否の表現が、原型がわからなくなるほど短くなって、「いいです」になったと。
京都弁、じゃなくて京言葉の「おおきに」は逆に、「おおきにありがとう」の後半部分がカットされた言葉だ。
判断に悩むお断りの表現は英語にもある。
「I don’t need it」や「No thank you」だと、言い方や態度によっては相手に失礼な印象を与えるから、「I’m fine」や「I’m good」、「It’s OK」を使うことがある。
ややこしいのが、「It’s OK」なら「いいえ、結構です」という拒否になるけど、ただ「OK」と言うと「やってくれ」という逆の意味になってしまう点。
では最後に、スリランカ人の逆パターンで困ったイギリス人カップルのケースを紹介しよう。
その2人は新婚旅行で大好きな日本を選び、10年ほど前にイギリスからやって来た。
日本にはコンビニがそこら中にあり、食べ物が予想以上においしかったから、彼らはよくコンビニを利用していたが、困ったことが発生した。
彼らは環境保護の意識が高く、レジ袋なんて絶対にいらなかったのに、店員は何も言わずに商品を袋を入れてしまう。
それで、宿泊した旅館で、できるだけ簡単な拒否の日本語を尋ねたところ、「いいです」を教えてもらった。
でも、コンビニやスーパーで「いいです」と言うと、店員の日本人はそれを「お願いします」の意味で理解して、商品を袋に入れることが多い。
それで、ボクと会った時、「わたしたちの発音に問題があったと思う。日本人に100%通じる拒否の言葉を教えてほしい」と言ってきた。
文章だときっと忘れるから、短い単語をプリーズ、ということだったんで、「No thank youと言えばいいと思うよ」とアドバイスをしておいた。
外国人に「ノー」と言われて、「イエス」と誤解する日本人がいると思えない。
その後どうなったかわからないが、きっとうまくいったはず。
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