鮮度か生命の尊厳か? 欧米に比べて、似ている日韓の食感覚

 

知人のポーランド人(30代・男性)は日本が大好き。
彼は日本の大学に留学したあと、日本での就職を希望していて、いまは全力で就職活動をしているところだ。
彼にとって魅力的なポイントは、日本人は約束や自分の言葉をしっかり守るから、社会に安心や信頼感があるということだけど、日本が完全無欠のパーフェクトな国ではない。
彼は以前、日本に関する動画を見ていて、日本人が居酒屋で魚の活き造りを食べる様子を見て顔が青ざめたという。
魚は口を開けて苦しそうにパクパクしているのに、動画に出てくる日本人はそこに指を入れて笑っている。これだけを切り取って見れば、日本人は「残酷民族」で、彼は友だちになりたいとは思わない。

 

日本とヨーロッパは民主主義や法の支配(法治主義)、基本的人権の尊重といった価値観では共通しているけれど、動物愛護に対する考え方はかなり違う。
ヒトがおいしいものを食べるために、生き物を殺すことは仕方ない。日本人もヨーロッパ人もその点では同じ認識をしていても、その考え方の具体的な現れはかなり違う。
ヨーロッパでは一般的に、食材となる生き物に対して、できるだけ苦痛を味わわせないようにすることが求められたり、それが法律で義務となっていたりしている。

そんな考え方を象徴する生き物がロブスター。
ロブスターも痛みを感じるという研究結果があることから、スイスではロブスターを生きたまま茹でることが法律で禁止されているし、イギリスのレストランではロブスターを気絶させてから、殺して調理するところが多い。
知り合いのドイツ人やイギリス人に聞いても、エビやカニを生きたまま熱湯に入れる行為は残酷で「非人道的」に感じると言う。
「人道的」な殺害方法としては、ロブスターを気絶させてから一瞬でコロす方法がある。しかし、ロブスターの神経系は分かれているため、修正する刃物で「瞬殺」することは不可能らしい。それで、電気ショックを与えて瞬時にあの世に送る機械もある。

ロブスターにとって最悪の処理法の1つが、生きている状態でいきなり刃物を入れて体を切断することだ。しかし、それは鮮度抜群の証拠であり、シェフのレベルの高さもアピールできるため、日本では人気が高く、わりと高級な店でそんな方法を採用している。
友人のアメリカ人が東京に住んでいたとき、金持ちの日本人に英会話レッスンを兼ねて、イギリス人と六本木にあった店へ連れて行ってもらった。2人は鉄板焼きの店と聞いていたため、高級和牛のステーキを期待していたが、まったく予想していない“惨劇”を見ることになる。

シェフは大きな生きたロブスター(それか伊勢エビ)を取り出すと、包丁でダンっと一刀両断し、彼らの目の前にあった鉄板の上に乗せて焼き始めた。
ロブスターが苦しそうに足をバタバタさせていたり、シェフがヘラに体重をかけて頭を鉄板に押しつぶしたりする様子を見て、アメリカ人とイギリス人は衝撃を受けて言葉を失ったが、金持ちのおじさんは満足そうな顔を浮かべている。
生きているエビを目の前で調理するのは店のサービスで、おじさんがそれを見せたかったことはわかるが、2人にとっては「残酷ショー」だったから食欲は減退した。
それでも、これも日本の体験だと思って食べてみると、食感は過去最高レベルのプリップリで、味もビックリするほどおいしかった。しかし、こんな経験は2人とも一度で十分だと思ったらしい。

 

こんな感じでロブスターを調理したと思われる。

 

優先するのは食材となる生き物の鮮度か、それとも生命の尊厳か?
このへんの価値観は日本と韓国は似ていて、韓国には、生きたままのタコを切って刺身にして提供する料理があり、韓流ブームの影響から日本の若い女性の間で人気がある。
しかし、ものには限度がある。
ソウルに住んでいた友人のアメリカ人女性には、嫌いな食べ物と許せない食べ物があった。
ポンテギという昆虫食は、「キモい」と感覚的な抵抗感があっただけでそれはまだいい。しかし、タコを生きたまま食べることには「人間としてダメ」という倫理的な拒否感があり、そんな残酷な食べ方に彼女は怒りを感じた。

【韓国の食べ物】米国人が嫌いなもの、“怒り”を感じたもの

 

そんなアメリカ人が最近、韓国で物議をかもしたロブスター料理の専門店があると教えてくれた。
そのレストランが考案した料理はお祝いをするときに食べるスペシャルな一品で、胴体が切断されたロブスターが上に向けられた状態でお皿に乗せられ、かろうじて生きている状態でテーブルへ運ばれてくる。
お祝いムードを高めるためか、頭には王冠がかぶせられていて、下半身を失って上半身だけになったロブスターが大きくハサミを動かしている。というか苦しんでいる。
「世の中で最も美しい感動を与えることができるロブスター店になりたい」と店は意気込んでいるが、韓国のネットで批判を集めたロブスター料理がこちら。

 

店は「踊るロブスター」と宣伝していたらしい。
ハサミで持っている花と手紙は、彼氏から彼女へのプレゼントか?

 

この唯一無二のロブスター料理に対して、韓国の世論はどちらかと言うと、「これはやり過ぎ」とか「命に対する最小限の尊厳は守るべき」といった否定的な反応が多かったように見える。
欧米人にとってこの「王冠ロブスター」は、先ほどの鉄板焼きを余裕で超える衝撃と拒否感があり、法律違反で店の経営者は捕まる予感。
日本のネット界隈では、韓国の話題には否定的なコメントがつくことが平常運転だ。しかし、これについては、肯定的な感想がわりと多かった。

・センスはないけど非難されるもんでもない
・これ日本の活き造りもいつか目付けられるだろうな
・ようつべで外人がコメント欄で騒いでるのを見た
・日本にも醤油をかけるとイカがうねうね動く海鮮丼とかあるよな
・ここらへんの感覚は欧米人には理解できないんだろうな

 

日韓の国民は、政治的にはしょっちゅう地雷が爆発して対立している。しかし、欧米を基準にすると、隣国同士ということもあって、食文化では価値観や感覚が似ていて「食材の鮮度」を優先するところがある。
ただ、最近は日韓はどっちも価値観が西洋化していて、生命の尊厳を重視する方向へ進んでいると思う。
ちなみに、イタリアにはチーズと一緒に、生きているウジ虫を食べるゲテモノ料理がある。

【最高レベルのゲテ】ウジ虫ごと食べるイタリアのチーズ

これには日本人も韓国人もドン引きだ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。