SNSを見ていると、タイ人がこんなメッセージを投稿していた。
「ประเพณีถือศีลกินผักภูเก็ต ปี 2567」
まず、「2567」という数字は仏暦のことで、タイでは公式にこれが使われている。感覚としては日本の元号に近い。お釈迦さまが入滅した(亡くなった)とされる年、つまり紀元前543年を始まりとしているから、2567年は西暦2024年になる。
そして、前半部分はプーケットで行われるベジタリアン・フェスティバル(菜食祭)を指す。
キンジェーを知らせる旗
タイで年に1度、「肉食を避けて、ベジタリアンフードをがんがん食べようぜ」という菜食週間があって、それを「キンジェー (กินเจ)」という。2024年の野菜強化週間は10月3日から11日までだから、いまはその真っ最中だ。
この時期になるとタイの街では、黄色地に赤く「齋」(さい:心身を清めること)と書かれた漢字があちこちに登場して、キンジェーの雰囲気を盛り上げる。
「齋」はキンジェーの「ジェー」の部分にあたり、中国の潮州語に由来する。これは中国文化がタイに伝わって習慣となったものだから、主に中華系タイ人がキンジェーを行っている。
といっても、さらにそのルーツをたどると、これは仏教の行事なので、タイ人に広く受け入れられたと思われる。ニンニクやネギ、パクチーなどの臭いきつい野菜もダメというのは、仏教の禁葷食(きんくんしょく)の考え方だ。
首都バンコクには、中国のお寺や飲食店が集中していて、外国人に人気の観光地にもなっている中華街(ヤワラート通り)がある。タイの中でも、特にここでキンジェーが重視されていて、菜食祭が開催される。
台湾の中心都市・台北の路地裏と言われても、そのまま信じてしまいそうなバンコクの中華街。
中国にルーツを持つ中華系の人たちは、日本やアメリカなどを含めて世界中にいるけれど、その中でも、とくに大きな存在感があるのはタイ社会だ。
タイ国内には約700万~1000万人いて、総人口の11~14%を占めている(2012年)。タイの中華系の人たちは国内のマイノリティーグループとしては最大で、世界的にも最大のコミュニティを形成しているという。
Thai Chinese are the largest minority group in the country and the largest overseas Chinese community in the world
そんな事情から、タイを旅行していると、食堂に当たり前のように箸が置いてあったりして、中国の影響をよく実感する。
日用品からお土産まで何でもそろう、日本で言えばドン・キホーテみたいな巨大スーパーの「ビッグC」もそうだ。
タイ旅行でお世話になったある日本語ガイドが言うには、これは「ビッグ・チャイナ」という意味で、創業者の中華系タイ人が命名したもの。
タイを旅行中、ビッグCは買い物や食事で何度も利用したことがあったから、これが「大中華」を意味していたというのはちょっと衝撃的だった。
ビッグCを知らないタイ人はいないけど、その意味まで知っている人は少ない。そう思って、タイ人にその話をすると、やっぱり「へ〜、それは知りませんでした」と意外そうに言うから、ドヤ顔をすることができた。
でも、あるときビッグCの由来を話すと、タイ人が「そうだったっけ?」と首をひねってスマホで調べだす。すると、それは大間違いで、実は「カスタマー」の「C」であることが判明して、赤っ恥をかいた。
ビッグCを子会社に持つセントラルグループの創業者なら、たしかに中華系タイ人だ。
タイ経済において彼らの影響力は絶大で、レッドブルなど巨大企業の創業者が中華系タイ人というのは「タイあるある」のひとつ。
あの日本語ガイドも、それまでボクが話をした数人のタイ人も、「ビッグC=大中華」否定することなく、そのまま信じていた(それか聞き流した)。
これはこれで、タイの社会の中で、中華系の人たちの持つ影響力の大きさを物語っていると言っていいと思う。
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