日本人の発明したカラオケはアジア各国に輸出され、現地で人気が爆発して「アジアの夜を変えた」と言われた。なら、人力車は「アジアの足を変えた」乗り物と言ってヨシ。
1870年(明治3年)に和泉要助が発明したとされる人力車は、江戸時代の駕籠(かご)に代わる公共交通機関として、明治・大正時代には全国で使われた。
明治時代に日本を訪れたアメリカ人女性のシドモアは、人力車の俥夫(しゃふ)が疲れ知らずで、一日中走っていることに感心する。
同じく明治時代に来日したフランス人の作家ピエール・ロティは『秋の日本』に、人力車を利用した時の様子を書いた。おそらく鉄道駅の出口に彼が現れると、ヨーロッパ人は上客だったらしく、すぐに俥夫たちに取り囲まれ、「奪い合い」が始まった。
ロティが日光に行きたいと言うと、彼らはこんなことを言う。
「たっぷり十里はありますよ!」
「それなら特別達者な脚と、交代の俥夫たちがいります。 ─ ─ そしていますぐ出発しなければだめです、お代を奮発していただいて」
彼らは自分を選んでもらうために、フランス人の客に自慢の足をたたいてアピールしたという。
俥夫たちが、おそろしく黄色い彼らのむき出しの腿をわたしに見せつける。それが頑健であるということをわたしに示すために、ピタピタと平手でたたきながら。
誰かが選ばれるまで、こんな争奪戦が続いた。
日本の人力車は世界各地に広がり、現地で有用な足として活躍する。明治時代に日本のメーカーは人力車を生産し、アジア諸国や南アフリカにまで輸出していた。
Japanese rickshaw manufacturers produced and exported rickshaws to Asian countries and South Africa.
ピエール・ロティ(1850年−1923年)
1922年に来日したイギリスのエドワード皇太子(たぶん真ん中)は、京都で車夫の服を買って記念写真を撮った。
なんか法被(はっぴ)を着たビートルズを思い出す。
公共交通機関としての人力車は役割を終えて、日本の社会から消えていった。しかし、違うカタチで復活し、今では東京や京都などの観光地に行くと人力車の俥夫がいて、歴史や文化を説明しながら名所を案内してくれる。
しかし、そんな日本らしいサービスに怒る人もいる。
20歳の女性の俥夫が大きな体の外国人客を乗せて、人力車を引いている動画がSNSにアップされると、一部の外国人から「かわいそう」「彼女を殺す気か?」「虐待として訴えるべき」といった批判の声が上がった。
こんな反応はたまにあるらしい。
人力車を運営している会社がネットで仕事の様子などを発信していると、「なぜ奴隷のような仕事をさせるんだ?」といったコメントが外国人から寄せられることもあるという。
しかし、これはデッカイお世話。
女性の俥夫は大変なこともあるけれど、体力的には問題なく、好きで選んだ仕事を頑張りたいと意気込んでいる。悩みとしては、日焼けで肌が黒くなることのほうが大きいらしい。
ネット民の感想を見ても「問題なし」がほとんどだ。
・人の国のことはほっとけ
・望んでやってる人を奴隷みたいとか言うやつの方が失礼に感じる
・無給で本人の意思に反してやらされてるなら俺も非難する
・テーマパーク的な物として納得してもらえないものか
・海外じゃ馬の仕事だもんな
不当な契約で搾取されているのなら分かるが、これは本人の意思でいつでも辞めることができる。それに、これは公共交通機関ではなく観光人力車で、最高で月に130万円以上も稼ぐ俥夫もいるのだ。
背景や女性の気持ちを知らずに、自分勝手に怒る人たちはめんどくさい。国籍・宗教に関係なく、「無能な働き者」は本当にやっかいだ。
そんな外国人の誤解には、日本人の見た目も影響しているかもしれない。
欧米人の目に日本人、特に女性は若く見えて、店員が中学生かと思ったら、実は20歳を超えていると知って、びっくりしたという欧米人にこれまで何人か会った。そのことも「なぜ奴隷のような仕事を?」という感想につながった気がする。
「人権」の観点から見れば、個人的には、最近知った女性のアイドルグループのほうがはるかにヤバいと思う。研究生をファンの課金で争わせて、合計額の多かった上位2名が正規メンバーに昇格できるという鬼のようなシステムがある。
若い女性に人力車を引かせることより、そんな課金レースをさせるほうがよっぽど「奴隷的」では?
インドのリキシャ
バングラデシュのリキシャ
日本の人力車はインドやバングラデシュでは、人や自転車で客を運ぶ「リキシャー」となって、今でも公共交通機関として活躍中だ。
インドよりも、バングラデシュの方がリキシャを多く見ることができる。
人力車の女性俥夫を見て、「虐待」とか「奴隷」とか言い出すのはきっと欧米人に多い発想で、インド人やバングラデシュ人が驚くポイントはほかにある。
日本に住む知人のインド人&バングラデシュ人に聞くと、まずリキシャの語源が日本語であると知ってビックリする人がいた。そして、たとえば観光地で2人で人力車を30分貸し切りにすると、1万円ほどかかると話すとみんな一度聞き返し、その金額が事実と分かると言葉を失う。
バングラデシュのリキシャは2人で30分乗って100円ほどと言うから、日本の観光力車はざっと100倍だ。
「月収130万円の奴隷」というのは、きっとインド人やバングラデシュ人には理解を超えた存在だ。
私も赤坂で人力車に乗ってみました。
さて、正直に言うととてもすまなかったです。お金を払って乗りながらも、それほど申し訳ないと思ったことはありませんでした。観光用のイベントだと思いながらも、人が人の引く人力車に乗っているのがすまなかったです。次からは乗りたくなかったです。(笑)
> 20歳の女性の俥夫が大きな体の外国人客を乗せて、人力車を引いている動画がSNSにアップされると、一部の外国人から「かわいそう」「彼女を殺す気か?」「虐待として訴えるべき」といった批判の声が上がった。
> しかし、これはデッカイお世話。
若い頃にアメリカで仕事をしていて、全く逆の立場の経験をしたことがあります。
仕事を発注した先のアメリカ企業で、実験場の重たいコンクリート塊(10kgくらい)を拾う作業をバイトのカワイイ女子学生がやっているのを見て、思わず(スケベ心を出して?)自分がやってやるからどいてろ!と、下手な英語で彼女に言いました。
すると現地の男性社員にすぐ止められて、「気持ちは分かるが、ここは男女平等の国であり、仕事を選ぶのも自由の国だ。お前の申し出は彼女のためにならないからやめておけ。でもお前はいい奴だ!さすが日本のサムライだ!」と、非難されたのか褒められたのかマンガの読み過ぎなのか、訳の分からない評価をされたのです。
今となってはいい想い出ですが。
いえいえ、乗ってあげてください(笑)。
あの仕事をするためには選考に受からないといけません。
まぁ、「申し訳ない」という気持ちはわかりますけど。
同じ話を聞いたことがあります。
仕事の現場で重そうな荷物を持っているアメリカ人女性がいたから、日本人男性が代わりに持とうかと声をかけたら、「これは私の仕事だから、その必要はない」とピシャリと言われてしまったということです。
日本人はそこまでハッキリ言えなくて、人力車の会社は批判に正面から反論することはないでしょうね。