11月23日は勤労感謝の日。
がんばって働く人をたたえ、感謝しようという目的は素晴らしいのだけど、「Karoshi」(過労死)が日本的な現象として世界に紹介されている現在では、がんばり過ぎないことも重要だ。
勤労感謝の日は、天皇が宮中で行う祭りの新嘗祭(にいなめさい)がルーツとなっている。「嘗」は「なめる、あじわう、こころみる」という意味で、新嘗祭では天皇が日本の神々にその年の最初にとれた米(新米)を供えて豊かな恵みに感謝し、天皇自らもそれを食することになっている。
新嘗祭の儀式は宮中だけでなく、日本中の神社でも行われている。
新嘗祭とよく似た行事に、その約一カ月ほど前に行われる神嘗(かんなめ)祭がある。神嘗祭は伊勢神宮で行われる儀式で、新穀(新米)を天照大御神にお供えし、恵みに感謝する祭のこと。
神嘗祭では神が新穀をお召し上がりになり、新嘗祭では天皇がそれをする。
どちらの祭も目的は同じで、日本の神に豊かな恵みを感謝し、国家の平和や安定、国民の繁栄を願うというもの。
ちなみに、伊勢神宮は神嘗祭を行っていて趣旨が“かぶっていた”ため、新嘗祭は行っていなかった。が、明治5年から伊勢神宮でも行われるようになった。
食べる物が無くなると、体力のない人から死んでいき、生き残った人はその死肉を食べるような地獄が現れる。中国史では、ハングリーがアングリーに変わってレボリューション(革命)が起こり、王朝が滅亡したことが何度もあった。
日本では、江戸時代までは餓死地獄が何度も発生したが、昭和になっても、その一歩手前の状態になったことがある。たとえば、1929年に昭和恐慌が始まると、東北地方は飢餓状態になり、食べ物を手に入れるために娘を売る農家が続出し、社会問題になった。
世界史を見ると、こんな惨劇はまったくめずらしくない。
だから、国家や社会の安定、国民の繁栄の基礎は食にあると考え、豊かな収穫物を神に感謝し、祭を行うことは人類に共通してあった。
ただ、収穫祭のやり方や起源は、宗教や文化によってそれぞれ違う。新嘗祭は世界で日本にしかない。
今回は、韓国とアメリカの収穫祭を見ていこう。
韓国の人たちにとって、最も重要な伝統行事が「秋夕(チュソク)」。
このイベントは旧暦に基づいているから、年によって日が変わる。今年は9月17日が秋夕の当日で、その前後が休みになった。
チュソクは「ご先祖さまに感謝する日」で、祖先崇拝という点では日本のお盆と同じ。
この日が近づくと韓国では民族大移動が始まり、多くの人が故郷に戻る。
そして、チュソク当日には先祖の霊を迎え入れるために祭壇にごちそうを並べ、お辞儀をする茶礼(チャレ)を行ったり、お墓参りに行ったりする。
SNSを見ていると、「韓国の秋夕=日本のお盆」と考えていて、秋の収穫とは関係ないと思っている人もいる。しかし、チュソクには収穫祭の意味があって、韓国観光公社のウェブサイトには「秋夕は収穫感謝祭とも呼ばれ、穀物や果物など、さまざまな作物の豊かな収穫を感謝する日です」と説明されている。
英語版ウィキペディアの「Chuseok」にもこんな説明がある。
「Harvest crops are attributed to the blessing of ancestors.」
(収穫は先祖の祝福によるものとされる。)
「New harvests are offered to local deities and ancestors, which means Chuseok may have originated as a worship ritual.」
(新しい収穫物はその土地の神々や先祖に捧げられる。つまり、秋夕(チュソク)は祭祀として始まった可能性がある。)
ということで、チュソクは収穫物を神や祖先に捧げる祭として始まったと思われる。
韓国語版ウィキペディアを見ると、「秋夕」の由来についてはこんな説も紹介されている。
・7世紀に新羅が百済と高句麗を滅ぼし、三国を統一した日に由来する。
・新羅が高句麗を滅ぼした勝戦日に由来する。
どっちの説も根拠は「日本書記」と「入唐求法巡礼行記」という日本の文献だ。
1621年に行われたアメリカで初めての感謝祭
アメリカでは毎年11月の第4木曜日、ことしは今週の28日に感謝祭(サンクスギビング)がある。
感謝祭にはこんな由来がある。
1620年にイギリスから、北米のマサチューセッツ州に移民(ピルグリム・ファーザーズ)がやってきたが、その年の冬は恐ろしく寒く、人がバタバタと死んでしまった。先住民は女性や子どもがいることを確認し、彼らは自分たちと戦うためにやってきたのではないと考え、このかわいそうなヨーロッパ人にトウモロコシの育て方などを伝えた。
1621年の秋に豊かな収穫がもたらされたため、移民たちは神に感謝し、農業と狩猟の技術を教えてくれた先住民のワンパノアグ族を招いて、食事を振る舞っていっしょにお祝いをした。
The Wampanoag were welcomed to join the celebration, as their farming and hunting techniques had produced much of the bounty for the Pilgrims, and contributed their own foods to the meal.
これが感謝祭の起源と言われる。
現代のアメリカでは感謝祭から宗教性が消え、日本のクリスマスのようにエンタメ要素が増えて、家族や友人が集まって七面鳥やごちそうを食べる「お楽しみの日」になっている。
世界的には、日本の新嘗祭やアメリカの感謝祭のように、豊作を神に感謝する祭が多く、韓国のチュソクのように豊作を先祖に感謝する祭は少ないと思う。
新嘗祭と神嘗祭のように、収穫祭を二度も行う国は世界で日本だけでは?
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