【易姓革命と宦官】日本が中国をマネなくて良かったこと

 

「日本人は中国をとても憧れていました。だから、隋や唐にやって来て、優れた文化や制度を学んで日本に持って帰りました。日本人は何でも中国のマネをしたんです」

むかし、中国を旅行中に出会った日本語ガイドから、そんな話を聞いてイラッとした記憶。
たしかに、奈良・平安時代の日本人は中国に憧れていたことは、都の「長安」から「平安京」と名付けたり、平安京を「洛陽」と呼んでいたりしたことからもわかる。しかし、それは過去形で、現在の日本人の中華人民共和国に対する見方は違う。

しかしながら僭越ながら、ツッコミを入れさせてもらうと、日本は中国の「完コピ」をしたわけではない。たとえば、易姓革命という思想と宦官(かんがん)という人(制度)がなかった。
天帝(天の神)は地上にいる人間の中から、特に徳の高い者を「天子」として統治者に選んで国を治めさせ、その子孫が皇帝になって国を支配した。しかし、もしその一族(=姓)に民を不幸にする不徳の皇帝が出た場合、天命(天帝の意思)を革(あらた)めて、まったく別の一族の人間を皇帝にすることができる。
この易姓革命の考え方にしたがって、隋の皇帝だった「楊一族」は滅ぼされ、唐の「李一族」に替わった。
中国の歴史は、隋・唐・宋・元・明・清と、1911年の辛亥革命によって清王朝が倒されて皇帝が廃止されるまで、2000年以上も易姓革命が続いていた。ちなみに、韓国でも易姓革命があり、高麗から朝鮮への王朝交代があった。
しかし、日本にはこれがない。
日本の歴史では、天皇が倒され、まったく別の人間が新天皇として即位する易姓革命は一度も起こらなかったため、現在の皇室は「世界最古の王朝」としてギネスの世界記録に認められている。

 

さらに、日本には宦官もいなかった。
だから、835年のきょう12月14日に唐であった、皇帝が宦官をしようとした「甘露の変」のような事件とも無縁だった。

去勢して(=チン◯ンを切って)生殖機能を失い、皇帝に仕えた男性の役人を「宦官」という。これは「宮刑」と呼ばれる刑罰だったが、宦官となって宮中で採用されると生活に困ることがないため、自分の意思で去勢を行って宦官となる者が増加していく。
皇帝にとっては、宦官は子孫を残すことができないため、易姓革命を起こす可能性が少ないという大きなメリットがあり、また、彼らは後宮の女性と性的関係をもちにくいという安心感があった。
中国での宦官の歴史は殷の時代から清まで3000年以上もある。
宦官の数は時代によって異なり、明王朝ではおよそ10万人もいて、次の清王朝では19世紀後末期にはおよそ2000人の宦官がいたとされる。

彼らは専門的な知識や技術を持った、宮中業務のスペシャリスト集団。
反乱を起こしにくいという魅力から、易姓革命が起きて前王朝に関係する人間が処刑されても、宦官はその対象外となって新王朝で有効活用されたと思われる。
しかし、いつも皇帝や皇后の近くにいることができるという特権があったため、王朝を滅ぼすことはなくても、皇帝に危機感を感じさせるほどの大きな権力を持ち、国を私物化することは何でもあった。

唐の皇帝・文宗は、宦官の宰相が好き勝手に振る舞うことを憎んでいたため、ついに彼と宦官勢力を一掃することを決意する。その計画は順調に進み、宦官たちを一堂に集めて抹殺する寸前にバレてしまい、文宗は逆に忠臣を殺さないといけなくなった。
信頼できる臣下を失い、宦官のあやつり人形となった文宗は「朕は家奴(宦官)に制されている」となげき、失意の中で病死した。

これ以降、唐では宦官たちの絶大な権力を得ることになり、それが10世紀の滅亡につながった。中国の歴史では宦官が亡国の原因となったことは何度もある。
日本にもそんな存在がいたら、今ごろ皇室がギネスに「世界最古」と認められていなかったかもしれない。
「日本人は何でも中国のマネをしたんです」の例外が易姓革命と宦官で、中国が絶対にマネできなかったことが「万世一系」だ。

 

 

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1 個のコメント

  • > 地上にいる人間の中から、特に徳の高い者を「天子」として統治者に選んで国を治めさせ、・・・もしその一族(=姓)に民を不幸にする不徳の皇帝が出た場合、天命(天帝の意思)を革(あらた)めて、まったく別の一族の人間を皇帝にすることができる。

    いま、ふと思ったんですが、「易姓革命」も「天人相関説」も本家の中国では既に廃れて久しいのですが。現代でもなお、その伝統を引き継いでいる国があるようですね、日本の隣に。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。