2月9日の記念日は「フグの日」。
フグの本場、下関では、フグは「不遇」や「不具」に通じて縁起が悪いということから、「幸せを呼ぶ魚」として「ふく(福)」と呼ばれている。それで、地元の「下関ふく連盟」が“ダジャレ”で2月9日を「ふくの日」に制定。
三重県の漁業関係者はこの日にちなんで、志摩市で水揚げされた 15匹のトラフグが伊勢神宮に奉納し、海上安全と大漁を祈願した。
厚生労働省から「食べてもオッケー」と許可が下りているフグは 20種類以上あり、その中でも最もおいしいと言われているのがトラフグだ。アマテラス様も日本屈指の高級魚をお召し上がりになって、ご満悦だったはず。
しかし、日本語で「きれいなバラには棘(とげ)がある」、英語に「There is no rose without a thorn(棘のないバラはない)」という言葉があるように、この世に完全な幸福は存在しない。
フグについて言えば、この魚は極上の味と猛毒のテトロドトキシンを持っている。人間がテトロドトキシンを口に入れると神経系がまひし、呼吸困難におちいって死ぬこともある。
ちなみに、フグは生まれたときは無毒で、テトロドトキシンをつくる餌を食べ続けることで、体内に恐ろしい毒を蓄積していくのだ。この魚は徐々に「闇落ち」していくらしい。
それでも、この味にとりつかれた人は多いから、日本には「河豚は食いたし命は惜しし」という言葉がある。縄文時代の遺跡からフグの骨が出土しているから、古代の日本人もきっとその究極の二択に悩んでいた。
フグ食は、世界的には「日本の食文化」と認識されている。
英語版ウィキペディアには「Fugu」という項目名が付けられた。その説明によると、EUではフグの販売は全面的に禁止されているから、ヨーロッパでフグを食べることはできないか、とても難しい。2015年に開催されたミラノ万博では、山口県がフグを紹介するために、特例として下関産のフグを持ち込むことが認められた。
アメリカでは、ニューヨークで日本食レストランを経営していた倉日本人が、自分のレストランに日本のトラフグを輸入したいと考え、米国食品医薬品局(FDA)と5年も裁判で争って、1989年にようやく許可された。今ではフグを提供する店がいくつかある。
ユーチューブを見ると、外国人が日本に来て、フグを食べて紹介する食レポ動画はいくらでもある。以下、それを見た外国人(高い確率で欧米人)の感想を紹介しよう。
・It’s insane that people risk their life to try something.
(命をかけて食べるなんて、正気じゃない。)
* insane は「頭がおかしい、狂ってる、非常識な」といった意味で crazy に近い。でも、 crazy よりも強い感情が表れる言葉で、衝撃や狂気度の大きさなら「crazy < insane」になる。
・i went to a fugu omakase in Ginza from a Michelin starred chef and it was delicious..reminded me of a bit of a cross between fish and squid.
(ミシュランの星を獲得した銀座の店で、ふぐのおまかせコースを食べた。それはおいしかったけど、なんか魚とイカを合わせたような感じだった。)
*以下、日本語訳のみ。
・こんなものは命知らずの人以外はほとんど食べない。
・絶対に家でふぐを調理しないでね。
・フグについて、本でこんな話を読んだことがある。昔、フグを食べて毒にあたった人がいた。心臓の鼓動がとても鈍かっため、みんな死んだと思い、彼はかわいそうに生きたまま埋められた(buried alive)。
・私は『トリコ』ってマンガでこの魚を知った。
以前、日本のあるテレビ番組で、ふぐを食べることを目的の一つに、日本へやって来た 20代のフランス人女性に密着取材していた。彼女はスカイダイビングやバンジージャンプをして、「人生=チャレンジ」と考える好奇心が抑えられないタイプの人で、大阪のフグ料理店で「命がけの挑戦」をする。いろんなフグ料理を食べた後、彼女は感想を聞かれ、「デザートのメロンが一番おいしかった!」というオチ。
でも、欧米人でこんな人は珍しいらしい。
コメント欄を見ると、フグを食べることに対しては、全体的には否定的な人が多かった。「河豚は食いたし命は惜しし」と悩みながら、この食文化を発展させた日本人は世界の例外だ。フグの記念日を作って、神に捧げる民族なんて日本人しか考えられない。
コメント
コメント一覧 (2件)
> フグは生まれたときは無毒で、テトロドトキシンをつくる餌を食べ続けることで、体内に恐ろしい毒を蓄積していくのだ。この魚は徐々に「闇落ち」していくらしい。
これはその通りで、生まれた時からヒトデや貝類などを食べているトラフグには、そちらからの毒素が生物濃縮されることによって自身に毒を蓄積していくそうです。
したがって、生まれてからずっと毒の無い餌ばかり食べていると、トラフグであっても毒の無いフグができるそうです。たとえば養殖のトラフグがその代表例です。
刺の無いバラはこの世には無いかもしれませんが、毒の無いトラフグは確かにこの世に存在するのです。
>トラフグであっても毒の無いフグができるそうです
調べていて、その違いから養殖と天然のフグを区別している国がありました。日本では食品衛生法でどっちも同じ扱いを受けていますが。