天地がひっくり返っても、太陽が西から登っても、Adoが音楽番組で素顔をさらして歌ったとしても、中国が絶対に譲ることのできない原則がある。
それが「一つの中国(一个中国)」。
戦後、日本軍が中国から撤退すると、国内では、毛沢東率いる共産党と蒋介石をトップとする国民党が戦い、内戦状態となる。1949年に共産党がこの国共内戦に勝利すると、蒋介石と中国国民党のメンバーが台湾に逃れたことで、中国(中華人民共和国)と台湾(中華民国)の分断が始まり、現在まで続いている。
『北斗の拳』でジャギが「兄より優れた弟など存在しない」と言った。
中国の立場としては、地球上で、唯一の合法政府は中華人民共和国政府しか存在しない。中国は必ず台湾を吸収し、一つの国家として再統一しなければならないと主張し、その考えに同意するよう他国に迫っている。
それに対して、台湾人の反応は大きく次の三つに分かれる。
現在のように、中国と距離をおいた「現状維持」を望む人が若い人を中心に最も多く、それは選挙結果に表れている。それ以外にも完全な独立を願う人や、中国政府と同じく再統一を望む人が少数ながらいて、台湾社会も一致していないのが現状だ。
そんな複雑な両国関係を背景に、去年(きょねん)日本に住んでいる台湾人女性が怒り、悲しくなる出来事が発生。
彼女が夏休みを利用して家族に会いに台湾へ戻った際、中心都市の台北で有名外資系ホテルに泊まり、SNSでそのレビューを投稿した。部屋は広くてきれいで、飾りもいちいちおしゃれで品があって、そこにいるだけで特別感を味わうことができる。しかし、あることがきっかけで、夢の世界から、現実世界に引き戻されてしまった。
彼女がリモコンを持って、「ポチっ」と言って(たぶん)テレビをつけると、なんと中国のチャンネルが8つもあったのだ。おまけに、ホテルの公式ウェブサイトには、「Taiwan, China」と書かれている。
彼女の立場は現状維持派だ。これではまるで台湾が中国の一部になったみたいだから、彼女は怒り心頭に発すると同時に、これが現状であることを思い知らされ、とても悲しくなったという。それまでの評価が一転し、「台湾で商売をするなら、もう少し台湾に敬意を払うべきだ」とSNSで文句を言った。
それから年が明けて、春が近づいてきたころ、日本に住む台湾人に朗報が届く。そのニュースを知り、ある台湾人はSNSにこんな投稿をした。
「謝謝日本政府和日本友人們對台灣的支持」
(台湾を支援してくれた日本政府と日本の友人たちに感謝します。)
日本にいる台湾人が歓喜したのは、法務省がことし5月から、戸籍の国籍欄に「台湾」と記載することを認めたから。現状では、そこに「中国」としか記載することができないため、「恥辱」と感じる人もいる。
今回の改定によって、台湾の出身者は台湾人としてのアイデンティティを保つことができるから、日本に住む台湾人にとっては画期的な知らせとなった。
台湾の外交部長(外相に相当)も、「日本各界が長年来行ってきたさまざまな努力にとりわけ感謝する」とコメントした。
日本のネット民の感想を見ると、台湾寄りで支持する人もいれば、「怒りの中国」が気になる人もいるようだ。
・奇策やね。
中華民国は国名、台湾は地域名
・わざわざ火中に突っ込んでいくようなことしなくてよくね?
・国を認めてないのに国籍を認めるのか
もうコントの世界w
・中国からゲンコツ食らうわけだ
また日本の海産物輸入禁止されるかな?
・着々と物事が進んでること自体は歓迎なんだけど、一方で有事も近いのかと不安にもなる
中国は法務省の発表に対し、「日本国内の出来事であり、静観している」と述べるわけがなく、お怒りの様子で、外務省の郭報道官は、
「台湾問題は純粋に中国の内政問題であり、外国の干渉を許さない」
「日本に対し、台湾問題で余計なことをするのをやめ、矛盾かつ誤ったメッセージを発信しないよう強く求める」
と述べた。
会見で記者団から、「中国側から反発の声が出ている」と認識を問われた鈴木法務大臣は、「日本の内政上の判断であり、お答えする必要はないと思っている」とキッパリと述べた。たぶん、日本は腹を決めている。
少し前、アメリカの国務省がHPで、米台関係を説明する部分から「台湾独立不支持」という文言を削除した。これまでのバイデン政権は「台湾独立を支持しない」という中国の「一つの原則」を守る立場にいたが、トランプ政権は別の考えを持っているらしい。
今回の日本の決定も、この動きと連動しているはずだ。
日本政府が中国と距離をおいて、台湾人のアイデンティティを尊重する決定をして、在日台湾人の人たちは歓喜雀躍した。しかし、台湾内では反対に中国化が進んでいて、それをこれから思い知らされ、失望するかもしれない。
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